チラ裏レベルの人生記(仮)

自分が自分で無くなった時に、自分を知る為の唯一の手掛かりを綴る、極めて個人的な私信。チラ裏レベルの今日という日を忘れないように。6年目。

わたしに会うまでの1600キロ

ジャン=マルク・ヴァレ監督作「わたしに会うまでの1600キロ」("Wild" : 2014)[BD]

母の死で堕落した女が、自分を見つめ直す事で人生を再生すべく、決死の長距離トレイルに挑む様を描く伝記ドラマ作品。

 

シェリル・ストレイドは最愛の母ボビーを癌で亡くした後、ヘロインとセックスに溺れてしまう。それがきっかけとなり、シェリルは夫ポールと離婚するが、程なく誰とも知れぬ子を妊娠、中絶する。シェリルは堕落を極めた自分と決別する事で再起を図るべく、メキシコ国境からカナダ国境まで、アメリカ西海岸を南北に縦走するPCT(パシフィック・クレスト・トレイル)、その総距離1000マイルを三ヶ月かけて踏破する決意を固める。シェリルは休憩地点への補給物資の送付をミネソタの親友エイミーに依頼する。

1995年6月、シェリルはトレイルの始点のあるモハーベ砂漠に程近いモーテルに泊まる。その夜、シェリルはミネアポリスで暮らすポールに出発を知らせ、弟リーフに居場所を伝える様に依頼する。

翌朝、シェリルは身支度を始めるが、長距離踏破の経験に乏しい為に要不要の区別が付かず、リュックに背負いきれない程の物資を詰め込んでモーテルを発つ。シェリルはスタンドで出会った親子の車に同乗し、トレイルの始点に到着する。シェリルは出発早々に弱音を吐きながらも、孤独に歩みを進め、5マイル地点でキャンプする。シェリルは荒野の真ん中でテントを張ると、日誌を綴り、ボビーと過ごした日々の回想に耽る。若い頃に大学に通えなかったボビーは、シェリルと同時期に同じ大学に通い、学ぶ事への喜びをシェリルに語っていた。

二日目の朝、シェリルは燃料のタイプを間違えた為に火を起こせない事に気付き、呆然とする。以後、シェリルは冷たい状態の粥とジャーキー、ナッツだけを糧に、旅を続ける。

五日目、シェリルは尚も砂漠を歩き続け、30マイルに到達する。八日目、食料が尽きた事でシェリルは途方に暮れるが、道中で農夫フランクと遭遇し、事情を伝える。フランクの作業が終わるのを夜まで待った後、シェリルはフランクが妻アネットと共に暮らす家に招かれる。シェリルは振る舞われた食事で空腹を満たし、一晩泊めてもらう。シェリルはポールとの別れについて回想する。シェリルの度重なる浮気が原因でポールは別れを決意し、二人は互いに合意した上で、七年の結婚生活に終止符を打ったのだった。

翌日、シェリルは新たに燃料を調達すると、フランクに別れを告げ、旅を再会する。その夜、シェリルは火を起こして食べた温かい粥に歓喜する。10日目の夜、シェリルは故郷ミネアポリスでの鬱々とした日々を回想する。ボビーの死後、シェリルは身持ちを崩し、ヘロインとセックスに明け暮れたのだった。

12日目、シェリルは80マイル地点に到達し、同じくトレイルに挑むグレッグと遭遇する。シェリルは旅慣れしたグレッグから助言を得ると共に、休憩地点ケネディ・メドウズで落ち合う約束をする。歩みを進める中、シェリルは過去を回想する。

不特定多数の男達とのセックスに明け暮れたシェリルは、やがて妊娠し、その事をエイミーに打ち明けた。 エイミーはシェリルを思いやる気持ちから叱りつけたが、シェリルは中絶を決めた。シェリルは強くて責任感があり、夢もあった昔の自分と、自ら結婚をぶち壊して人生を台無しにした今の自分を比べて嘆くと、ボビーが愛したかつての自分に戻るべく、トレイルへの挑戦を決意したのだった。

14日目、シェリルは荒野を抜け、多くのハイカーが集うケネディ・メドウズに到着し、グレッグと再会する。シェリルは補給物資を受け取り、その中にポールからの手紙を見つける。その中でポールはシェリルの挑戦に尊敬の意を伝える。足の痛みを訴えるシェリルに、ハイカーの世話人エドは、靴が小さすぎると指摘し、メーカーに手配すれば無料で新品が届くと伝える。更にエドは荷物の整理が必要だと説き、親身になって仕分けに協力する。シェリルは助言に従って荷物を軽減すると、メーカーに連絡してサイズアップした靴を手配する。グレッグはハイカー達が雪を避けるために、40マイル先のトレイル・パスまでバスで迂回する事を明かすが、シェリルはバスの使用が邪道だと説く。グレッグはその代わりに距離を延ばし、アシュランドから神の橋へと目的地を変更する様にシェリルに勧めると、自分を追い詰めない様に諭す。

シェリルはボビーに癌が見つかり、余命が1年と宣告された時の事を回想する。ボビーは乗馬をこよなく愛していたが、放射線治療の為にそれが叶わなくなったのだった。

シェリルはバスに乗ってリノへ迂回する。25日目、シェリルはヒッチハイクでトレイルへの復帰を試みる。そこにホーボー(流れ者)タイムズの取材で全国を回っている記者ジミーが停車する。ジミーは珍しい女のホーボーに興味を抱き、取材を始める。シェリルはホーボーの様に人生を捨てているわけでは無いと主張し、取材を拒む。ジミーは取材を切り上げると、シェリルにスナックを手渡して立ち去る。その後、シェリルは中年男女三人組の乗る車に同乗する。シェリルは、子供を五年前に失ったという女の話を聞き、癌宣告直後のボビーを回想する。

ボビーは暴力夫と別れた後、ようやく自分の時間を見つけて好きな事を始めた矢先に、病に罹った事をシェリルの前で嘆いたのだった。

30日目、トレイルに戻ったシェリルを雪原が待ち受けており、シェリルは意を決して歩き始める。シェリルは、ボビーが生前、愛馬を苦しませぬ様に後の世話を自分とリーフに頼んだ事を回想する。32日目、シェリルはテントの外に一匹の狐を見つける。シェリルが呼びかけると、狐はその場から去っていく。

シェリルは病臥のボビーを回想する。宣告から一ヶ月で入院する事になり、苦痛に悶えるボビーに、シェリルはボビーが自分の全てだと伝えた。一方、リーフはボビーの癌が受け入れられず、酒に溺れる様になり、病院へ見舞う事を避けていた。リーフもまたボビーが全てだとシェリルに明かすと、シェリルは奇跡を信じてボビーの回復を祈るのだった。ある時、シェリルはボビーを喜ばせる為に、リーフを連れて病院を見舞った。しかし、ボビーは既に死んだ後だった。ボビーは生前、角膜提供を望んでいた為に、シェリルとリーフは眼球を摘出されたボビーの遺体と対面し、慟哭したのだった。

雪原を抜けたシェリルは、小高い峰に到達する。靴が小さい為にシェリルの足は酷く靴ずれを起こしており、親指の爪が剥がれてしまう。その直後、シェリルは誤って片方の靴を崖下に落としてしまう。シェリルはやけくそになってもう一方も投げ捨てると、鬱憤を晴らす様に絶叫する。靴を失ったシェリルは、携行するサンダルをテープで足に巻きつける。そこに再び狐が現れるが、シェリルが追い払おうとすると忽然と姿を消す。シェリルはボビー亡き後の堕落した日々を回想する。

身持ちを崩したシェリルは、ウェイトレスをしながら不特定多数の男達とセックスに興じ始め、更にヘロインに依存し始めた。シェリルは、生前のボビーがローンを抱え、ボロ家住まいでありながらも、常に陽気に振舞っている様子を見て、乱暴な飲んだくれと結婚したからだと詰り、何に目を瞑れば呑気に歌っていられるのかと問い質した事があった。ボビーは目を瞑ってはおらず、自分が唯一教えられるのは最高の自分の見つけ方と、それを手放さない方法であると説き、最高にする様に頑張っており、シェリル達を儲けた結婚に後悔していないと明かすと、この先もっと酷い事が待ち受けていても生きたいのだと願ったのだった。

49日目、シェリルは立ち寄った休憩所でメーカーから届いた靴と共に、ポールからの手紙を受け取る。その中でポールは、ゴールが決まったら教える様に望み、シェリルに対してまだ怒りを覚えながらも恋しいと伝える。シェリルはそこで同じく女ハイカーのステイシーと出会い、語らいあう。シェリルはグレッグが雪に負け、トレイルから脱落した事を知る。ステイシーは自分の中に何かを見つけたいという、トレイルにかける目的を明かす。シェリルは最愛の存在だったボビーについて語った後、回想に耽る。

ボビーの死で自暴自棄になり、セックスとヘロインに溺れたシェリルは一旦カウンセリングに通うも、意味が無い事を悟り、自ら中断した。シェリルは更に、暴力を振るう父に耐えかねたボビーと共に家から逃げ出した時の事を思い出す。

ボビーの死後、シェリルはヤク漬けのジョーと懇意になり、ポートランドへ移った。そこへ心配したポールが駆け付け、浮気とヘロイン常用が発覚したのだった。

56日目、シェリルは携行した水が尽きた事で渇きに苦しむ様になり、更に当てにしていた途中のタンクも水が切れていた為に、途方に暮れる。58日目、シェリルは泥水が溜まっている場所を見つけると、携行したフィルターでろ過して飲む事にする。そこに、同じく水を求めてやって来た猟師の二人組の男が現れる。シェリルはフィルターを融通するが、男達の言動から身の危険を感じると、その場でのキャンプを断念して逃げ出す。

62日目、シェリルはオレゴン州入りし、アシュランドに到着する。町はジェリー・ガルシアの死の直後で、追悼ムード一色であり、シェリルは通りでビラを撒くジョナサンに追悼ライブに招待される。シェリルは物資とエイミーからの激励の手紙を受け取ると、ホテルに立ち寄った後、身奇麗にして女化し込み、招待されたライブハウスへ向かう。ライブの後、シェリルはジョナサンの家で一夜を明かし、トレイルに戻る。

残すところ300マイル余りとなり、シェリルはトレイルが終わった後の無一文で始まる新生活に不安を覚え始める。やがてフッド山へ到達し、シェリルは大雨の中、休憩所で物資を受け取る。シェリルはそこで三人の若いハイカー達と出会い、キャンプを共にする。夜、再び大雨に見舞われると、シェリルは休憩所の管理人の所有する馬の鳴き声で、母の愛馬を回想する。ボビーの死後、愛馬は病気を患うも、シェリル達には獣医に見せる金銭的な余裕が無く、已む無くリーフが銃で安楽死させたのだった。シェリルはそれを思い出して嘔吐すると、雨に撃たれる馬に寄り添う。翌朝、シェリルはリーフに連絡し、一緒に人生をやり直す様に促す。

80日目、林道を歩くシェリルは、ラマを引く老婦ヴェラとその孫カイルに遭遇する。カイルは自らの家庭に問題がある事を仄めかす。シェリルはカイルを気遣い、誰にでも問題があると説くと、自らも父親と長らく会っていない事を明かし、問題はいつか他の物に変わると諭す。カイルは母親が歌手であり、いろんな歌を教えてくれたと明かすと、「レッド・リバー・バレー」を披露する。二人と別れた後、シェリルは感極まり、ボビーに会いたい気持ちが募って泣き崩れる。

94日目、シェリルはその半生を振り返り、自問自答を続ける内に、目的地の神の橋に到着する。橋を渡ったシェリルは、再び狐と遭遇し、それが自分を見守るボビーの姿だったのだと悟る。

ボビーの死から四年七ヶ月が経ち、シェリルはトレイルを経てボビーの望んだ女に生まれ変わり、新しい人生を切り開いたのだった。それから四年後、ボビーは再び橋を渡り、その場で結婚し、その五年後に息子カーヴァーを儲け、その翌年に儲けた娘にボビーと名付けるのだった。

 

 

また一つ素晴らしい作品と出会ってしまった、心からそう実感させてくれる珠玉の傑作。実話を題材にした作品はしばしば一直線で淡々とした内容に終始しがちだが、本作は原作者シェリル・ストレイドのありのままの姿を包み隠さず描いた様な内容で、更に回想シーンを断片的にシャッフルして挿入する事で見せ方も非常に凝っている。過酷なトレイルの進行と平行して、徐々にシェリルの陰鬱な過去に肉迫していく演出は見事だ。そして何よりもシェリルを演じるリース・ウィザースプーンの演技が卓越しており、その気迫には素晴らしいとしか言いようが無い。流石に自らが製作・主演を務めただけの事はある。しかし、彼女がこれほどまでに魅力的な女優だとは思わなかった。この直前に見た「キューティ・コップ」のオチャラケぶりとの相違を考えると、同じ人とは思えない。あちらはあちらで愉快なコメディだったが、本当に才能豊かな人だと、尊敬せずにはいられない。こんな面白い作品が、どうしてアカデミー賞作品賞にノミネートすらされなかったのか不思議だ。微妙な作品も入っていたのだがなぁ、どれとは言わないが。とりあえずBDを購入して何度でも観たい。この感動をありがとう。

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