チラ裏レベルの人生記(仮)

自分が自分で無くなった時に、自分を知る為の唯一の手掛かりを綴る、極めて個人的な私信。チラ裏レベルの今日という日を忘れないように。6年目。

パラドクス

イサーク・エスバン監督作「パラドクス」("El Incidente" : 2014)[DVD]

無限にループする階段に閉じ込められた3人の男、その一方で無限にループする道路に閉じ込められた一家4人、両者が脱出する術を模索する様子と、互いの世界を繋ぐ謎の真相を描くSFスリラー作品。

 

2017年。アパートに帰宅したカルロスは弟のオリバーに、母から金を借り、金策の目処が付いた事を明かす。そこにオリバーの手引で待ち伏せしていた刑事マルコが押し入り、カルロスに銃を突き付ける。オリバーはマルコに母を殺すと脅され、抗しきれなかったと弁解する。マルコはカルロスの犯行を追求すべく、署へ同行を求める。カルロスは令状が無い事を盾にそれを拒むが、マルコは防犯カメラの映像がある為に自白で十分だと説く。カルロスは不意を突いてマルコを殴りつけると、オリバーを連れて部屋を脱出する。二人は部屋のある9階から階段を降りて逃走を図る。マルコは階下のカルロス目掛けて発砲し、その足に深手を負わせる。その直後、アパートの上の方で原因不明の大きな爆発音が轟く。オリバーはカルロスを病院へ行かせる様に請うが、マルコは署で処置すると説き、同行を強要する。オリバーはカルロスを抱きかかえ、マルコと共に1階に辿り着く。ところが1階のドアはどうやっても開かず、更に地下1階には最上階の9階と付されており、3人は困惑する。マルコは階下の様子を確かめに向かうが、他の階のドアも開かず、オリバー達がいる9階に上から戻ってくる。3人は爆発で何かが起こり、上下が繋がり、無限にループする空間に閉じ込められたのだと悟る。

4時間余りが経過し、為す術も無いオリバー達は、1階の自販機の傍でカルロスの傷の応急処置を行い、マルコはカルロスに携行する痛み止めを飲ませる。マルコは、カルロスを撃った時、何かに操られる様に意識が朦朧していたのだと主張する。また、マルコは階段で一枚のミニトランプを拾う。マルコは妻と娘が3人おり、その日が15回目の結婚記念日で妻と夕食に出かける予定だった事を明かす。オリバーはカルロスが死んだら一家を皆殺しにすると脅す。その後、傷の手当は奏功せず、カルロスの容態が悪化する。カルロスは人生を楽しめなかった自分の様にはならず、ここを出たら立派に生きる様にオリバーに諭し、息絶える。

丸一日が経過し、マルコは全部食べ尽くしたはずの自販機の食料と水が、いつの間にか元通りに復元されている事に気付くと、当惑し、その空間が夢の中だと指摘する。オリバーは不意を突いてマルコから銃を奪うと、夢なら撃っても平気だと告げ、銃口を突き付ける。マルコは禁断症状を経験しているのだと説く。

1983年。昼下がり、10歳のダニエルと妹カミーラ、母サンドラは、義父ロベルトの提案で、サンドラの元夫トーマスに会う為に、トーマスの所有する海沿いのホテルへとバンで出発する。手品好きのロベルトはミニトランプと、ペットのハムスターを連れて行く。道中、ロベルト達はスタンドに寄り、休憩を取る。喘息持ちのカミーラはロベルトに吸入器を預けてトイレに行く。スタンドを出て程なく、ロベルトが飲ませたジュースが原因でカミーラが喘息の発作を起こす。ロベルトはサンドラに命じられ、車を止めると、吸入器を手渡そうとするが、誤って地面に落とし、薬剤をこぼしてしまう。ダニエルが予備の吸入器を忘れた為に、サンドラは自宅へ引き返す様にロベルトに請う。その直後、どこからともなく大きな爆発音が轟く。その後、一行は一本道をどれだけ走っても出口には辿り着けず、同じ場所を堂々巡りしている事に気付く。ロベルトはループしているのだと主張する。一行は再びスタンドに寄り、助けを求めるが、誰も見当たらずに途方に暮れる。苦しみ悶えるカミーラに、サンドラは為す術なく当惑する。逆方向にバンを走らせても同じ様にループし、また、いくら時間が経過しても夜にならない事が判明する。

出発から8時間が経過し、ロベルトは目印の看板でバンを止めると、一家をその場に残し、車道を垂直の方角へ走って助けを求めに行く。サンドラは待機を命じられたものの、痺れを切らし、悪夢を振り切る様にバンを走らせる。ダニエルは錯乱するサンドラを見兼ね、カミーラを車から担ぎ出し、看板の前に戻る。しばらく経った後、ロベルトが走り去った方角とは真逆の方から戻ってくる。ロベルト達はその空間から出られないのだと確信する。

オリバーとマルコが階段に閉じ込められてから35年が経過する。二人は無限に復元される自販機の食料と水を頼りに生き延び続ける。老いて体が不自由になったマルコは、ゴミ溜めの様な場所を寝床にし、壁に経過した年月と共に、不可解な絵を延々と書き連ねる。一方、オリバーは多くの時間を肉体のトレーニングに費やして健康を維持しつつ、整然とした暮らしを送る。カルロスの死後、私物のリュックもまた、日毎に一式まるごと復元し続け、35年分が溜まっていく。また、排出したゴミや、二人の便を詰めたペットボトルもまた同じ様に溜まっていく。オリバーはカルロスの白骨を壁にかけ、マルコと共に祈りを捧げる事を日課にしている。丁度35年を迎える前日、マルコはオリバーに伝えるべき何かがあった事を思い出し始める。

カミーラの死後、35年が経過する。ダニエル達は無限に復元されるスタンドの物資を糧に生き延び続ける。サンドラは痴呆でダニエル達を認識できなくなり、ロベルトは目的も無くバンを走らせ、怠惰な暮らしを送る。一方、ダニエルは20年前にロベルト達と袂を分かち、車道から外れた小高い丘の上に自作のテントを作り、ストイックな生活を送る。カミーラの私物のバッグもまた、日毎に一式まるごと復元し続ける。ある時、ロベルトはダニエルを呼び出すと、伝えるべき事があるが思い出せないと打ち明ける。

真夜中、マルコは伝えるべき真実を思い出し、オリバーを呼び付けると、それを話せば自分は死ぬと説き、自分という人間も、その家族も、35年という空白も存在しておらず、自分がダニエルなのだと主張する。マルコは、自分がずっと前に警告されていながら忘れてしまっていた真実について明らかにする。マルコは、自分がかつてトランプの手品が好きだったダニエルであり、10歳の時に遭遇したあの「出来事」が再び起きると主張する。マルコは忘れないように名前を書いておく様にオリバーに命じ、エレベーターに乗ると全てを忘れてしまうと警告する。

サンドラが老衰で息絶えると、ダニエルとロベルトは遺体をカミーラの墓の隣に埋める。その直後、ロベルトもまたマルコの様に苦悶の末に真実を思い出し、自分がかつてルーベンだった時に遭遇した「出来事」を明かす。1949年、10歳で学校の遠足に行ったルーベンと友達のフアンの二人はカヌーに乗りきれず、指導員が漕ぐ竹のいかだに乗っていた。その時、指導員が突然フアンに怪我を負わせ、フアンはその三日後に死んだ。その後、陸に辿り着く事ができず、ルーベンは指導員と共に35年間、いかだの上で過ごし続けた。指導員は死ぬ前に、無限に続く線路を走る列車の中で35年間過ごした事を明かした。その後、ルーベンはバンを見つけると、ロベルトとしてサンドラ達の一家と出会ったのだという。ロベルトはダニエルがパトカーに乗れば、全てを忘れてしまうと警告する。

マルコはかつてロベルトに教わった様に、2つの出来事に閉じ込められて70年間、生きてきた事について、それらが無駄では無いと説く。この空間は現実では無く、本物の二人は現実の別の場所に存在しており、二人が無限地獄で苦しむ間、幸せに暮らしている。二人は本物の自分達の為に、この空間で肉体と感情を酷使し、エネルギーと幸せを生んでいる。すなわち、この空間は現実世界の為の偽りの装置であり、二人は本物の自分達の為に必要な犠牲なのである。その際、誰かの死が引き金となり、「出来事」が起こる。35年間、若者は老人より有意義に過ごせる。しかし、老人は過去に囚われながら生きてしまう。だからこそ、現実世界では若者の方が老人より幸せに過ごす事ができるのである。

ロベルトはその流れを変えたいと願い、思い出した時に必ず後悔すると説き、ダニエルにパトカーに乗らぬ様に警告すると、赤いノートを取り出して息絶える。その後、ダニエルは車道に放置されたパトカーを発見する。ダニエルは逡巡した末に赤いノートだけを携えてパトカーに乗り込み、走り去る。車内には刑事マルコの服と備品一式が揃っており、ダニエルは髪を切り、身なりを整え、マルコへと変貌する。

老いたマルコもまたロベルトと同じ様に、オリバーにエレベーターに乗らぬ様に警告し、赤いノートを取り出して息絶える。その直後、1階にエレベーターが出現する。オリバーは逡巡の末に拳銃自殺を図ろうとするも翻意し、エレベーターに乗り込む。その中にはホテルマンのカールの服と備品一式が揃っており、オリバーは身なりを整え、カールに変貌する。

現実世界ではダニエルが幸せな人生を歩み、ロベルトは不幸な人生の末に自殺する。同じ様に、オリバーは幸せな人生を歩み、マルコは不幸な人生の末に自殺する。

エレベーターに結婚式直後の若い新婚カップルが乗り込んでくる。カールは指定された30階でエレベーターを止め、二人を降ろすと、操られるままにケースから蜂を解き放ち、男が蜂に刺される。その直後に大きな爆発音が轟く。アレルギーを患う男は、携行する注射を打とうとするが、注射器が壊れている事が分かり、窮地に陥る。フロア内のどのドアも閉ざされ、3人はその空間に閉じ込められる。

長い年月を経て、赤いノートを携えた花嫁姿の老婆がエスカレーターを下っていく。何者かがハムスターを持ち去る。

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