チラ裏レベルの人生記(仮)

自分が自分で無くなった時に、自分を知る為の唯一の手掛かりを綴る、極めて個人的な私信。チラ裏レベルの今日という日を忘れないように。6年目。

プリデスティネーション

スピエリッグ兄弟監督作「プリデスティネーション」("Predestination" : 2014)[BD]

タイムトラベルを駆使して犯罪を阻止する組織の男が、宿命の連鎖に絡め取られていく様を描くSFスリラー作品。

「不完全な爆弾魔 "Fizzle Bomber"」と称される男が、長年に渡り、連続爆弾テロでニューヨークの市民を恐怖に陥れる。1975年3月、ニューヨークで大規模な爆弾テロが起き、1万人以上が命を落とす事になる。秘密組織の男は、爆弾魔の足取りを追跡し、いままさに爆弾を設置する爆弾魔を発見する。男は爆弾の解除を試みるが、爆弾魔の返り討ちに遭い、既のところで回収に遅れ、顔に大火傷を負う。何者かに救いの手を差し伸べられ、組織に生還した男は、辛うじて一命を取り留めるが、顔面の皮膚移植で別人の風貌に変わる。男は組織から労をねぎらわれ、爆弾魔の追跡任務を解かれると、最後の任務を与えられる。

1970年11月6日のニューヨーク。爆弾魔によるテロを恐れた市民は街を離れ始め、捜査当局は爆弾魔の捜索に躍起になる。ニューヨークのとあるバーで、男は新入りのバーテンダーに扮し、任務に臨む。そこに見慣れぬ男の客がやってくる。バーテンは客の男に世間話の一環として、鶏が先か、卵が先かの話を持ちかける。客の男は、弱った女が慰めに読むと称する雑誌に「未婚の母」というペンネームで寄稿している事を明かす。バーテンは一瓶の酒を賭けて、男に身の上話を促す。客の男は爆弾魔が実は救世主かも知れないと説くと、厄介続きと称する自らの人生を「少女時代」から語り始める。

1945年9月13日、彼女は生後すぐにクリーブランドの児童保護施設の戸口に捨てられる。ジェーンと名付けられた彼女は、同じく素性不明の子達と共に育てられる。その後、ジェーンは施設で健康に育つが、協調性に乏しく、度々問題行動を起こす。ジェーンは親のいる子を羨み、家族に興味を抱くが、成長に伴い、自分が特異な存在だと自覚するようになる。性的な違和感を覚えたジェーンは、その時点で普通の女とは違う人生を歩む事を悟る。その後、ジェーンは純血を守る決意をし、他へ意識を向けようとその男勝りの力で喧嘩に明け暮れる。更にジェーンは学業でも優秀な成績を残す。しかし、ジェーンは施設内で一向に養子に選ばれる事はなく、それが里親に好まれぬ変人だからと察して、自らの外見を嫌悪する様になる。施設を卒院するに当たり、ジェーンは政府組織スペースコープのロバートソンから、理数系の能力と身体能力を評価され、宇宙飛行士に同行する「慰め役」にスカウトされる。幼い頃から宇宙飛行士に憧れていたジェーンは、品位を重視、特に処女という点が要件である事に不満を覚えながらも、組織の職に志願する。その後、ジェーンは他の志願者達と共に訓練とテスト漬けの日々を送るが、圧倒的な能力差を見せつける。ある時、ジェーンは他の志願者達と諍いの末、殴り合いの喧嘩で相手を負傷させる。精密検査の末、ジェーンは資格を剥奪され、施設を追い出される。ロバートソンは見捨てず、いつか迎えに行くとジェーンに約束する。その後、ジェーンは昼に家政婦で稼ぎながら、夜間は学校に通い始める。丁度その時、雑誌の告白話に出会う。ある夜、ジェーンは学校の前である男と運命的な出逢いを果たす。その男はこれまでで誰よりも優しくジェーンに接し、更に金持ち且つハンサムで、ジェーンの世話をすると約束する。ジェーンは瞬く間に男と恋に落ち、程なく純血の誓いは終わりを告げる。しかし、ある夜、男はすぐ戻るとジェーンに告げたきり、戻らずにそのまま別れを迎える。ジェーンは遊びの関係だったと諦めると、熱意を再び宇宙に向ける。そんな折、ロバートソンが訪ねてくる。ロバートソンは、スペースコープが実は才能発掘の為の手段であり、その目的が不正行為の是正だと明かす。その上で、高い運動能力と記憶力、更に孤独な身の上を要件に挙げ、ジェーンを選ばれし者の仕事にスカウトする。ジェーンは絶好のチャンスに、明るい未来が開けたと期待するが、その直後に妊娠が発覚し、話は立ち消えとなる。ジェーンは無料の診療施設で帝王切開の末に、女児を出産する。その直後、執刀医はジェーンの身体が極めて特異な器官構造、すなわち未成熟な男女両方の性器を備え持っている事を明かし、分娩時の出血により子宮を摘出し、男性器を再建した事を伝える。ショックを受けたジェーンは、赤子にジェーンと名付け、彼女の為に尽くす事を誓う。それから2週間後、赤子は新生児室から何者かに盗まれ、ジェーンは生きる望みを失う。捜索願を出し、懸命に赤子を探すも終ぞ見つからず、程なくしてジェーンは3度の手術の末に、完全に性転換を遂げる。ジェーンは男になりきろうと苦慮するが、どう生きていけば良いか途方に暮れ、人生を壊した男を憎み、命で償わせたいと切望する。その後、ジェーンはスペースコープで宇宙飛行士を再度志願するも、記録が握られている為に門前払いされ、人生の目的を失う。その後、ジェーンはジョンに改名して、生き抜く事を決意する。ジョンはコックとして働く傍ら、タイプライターを買って、速記を学ぶと、告白話の原稿打ち込みを経て、雑誌に「未婚の母」として記事を寄稿し始める。

ジョンはこれが女の視点の種明かしだとバーテンに告げ、話を終える。バーテンは咄嗟に、もし人生を壊した男を差し出し、お咎め無しとしたら殺すか?とジョンに尋ねる。ジョンがその場で殺すと応えると、バーテンは居所へ案内すると告げる。バーテンはジョンに才能を活かすチャンスを与えると告げ、男を差し出す見返りとして、自分の仕事を継ぐように求め、ジョンを店の地下室に招く。バーテンはジョンに覚悟を問うと、時標変界キットと称する楽器ケースを取り出し、それがタイムマシンだと明かす。バーテンは1963年4月3日にセットしたキットをジョンに持たせ、一緒に過去のクリーブランドに跳ぶ。

過去に着くと、バーテンは自身が総員11名からなる航時局の一人で、その任務が犯行阻止であり、ロバートソンは1985年の局本部にいる事を明かす。バーテンはジョンに金と服を渡すと、時流を乱す行為が局に厳しく咎められ、最悪の場合、死罪になりうると伝える。更に、マシンの発明された1981年から過去と未来に53年跳ぶ事ができ、それ以上の移動は崩壊を招くと明かす。バーテンはジョンの会った男が爆弾魔かも知れないと疑っている事を明かし、ジョンが適任と認められれば局の一員に採用されると伝え、孤独な生き方だが、目的を手にする事はできると告げる。

ジェーンが初めて男と会うその日の夜、ジョンは学校の前で男を待ち伏せる。その時、不意にジョンはジェーンとぶつかる。ジョンは昔の自分が愛した男が、性転換した自分自身だった事に気付き、驚く。バーテンはその様子を見届けると、1970年3月2日に跳ぶ。バーテンは爆弾魔が爆弾を仕掛けるまさにその現場を急襲するが、格闘の末、逃げられる。バーテンは、その場に現れ、爆弾処理に遅れて大火傷を負ったジョンの窮地を救う。ジョンはキットを1992年2月21にセットして跳ぶ。バーテンは爆弾の時限装置の破片を回収すると、1964年3月2日に跳び、任務に関するメッセージをジョンに残す。

診療所に訪れたバーテンの元にロバートソンがやってくる。バーテンはロバートソンに時限装置の破片を手渡す。ロバートソンはバーテンが違法に跳んでいる事を重罪だと指摘し、爪痕の修復に不備が生じ、精神病や認知症のリスクが高まると告げる。バーテンは未練があったとして、1度だけ違法に跳んだ事を明かす。ロバートソンは厳格な基準は組織を守る為だが、締め付けが無ければ成果が増しうるのも事実だと認める。ロバートソンはバーテンがタイムトラベルの矛盾から生まれた、この世で唯一過去と繋がりを持たぬ者だと告げ、未来への種を撒き損ねないように諭して去る。

 一方、1963年のジョンとジェーンは同じ思考の者同士、意気投合し、程なくして肉体関係を持つ。バーテンは診療所で赤子を盗み出すと、1945年9月13日に跳び、赤子を施設の前に置き去りにした後、ジェーンがジョンと別れる1963年6月24日へ向かう。バーテンの姿を確認したジョンは、ジェーンにすぐ戻ると告げ、別れる。ジョンはバーテンに嵌められた事を詰ると、ジェーンを愛しており残りたいと願うが、バーテンは去る事が変えられない宿命であり、終点へ続く道だと告げ、ロバートソンが全てを説明すると説得する。

バーテンはジョンを連れて1985年8月12日の航時局本部に戻る。ロバートソンは人類にとって最も重大な任務の為にジョンを休ませると、ジョンが今後100の犯罪を阻止する事になると話し、バーテンの功績を讃える。バーテンは爆弾魔が野放しになっている状況を指摘するが、ロバートソンは爆弾魔のおかげで腕を磨く事ができ、組織は成長できたと主張する。ロバートソンは爆弾魔に繋がる手がかりをバーテンに手渡すと、終点に着いた時にキットが規定で止まると伝える。バーテンは最後の任務の為に、1975年1月7日のニューヨークに向かう。到着するとキットにエラーが生じ、機能が停止しない事を知ったバーテンは、ロバートソンから受け取った書類の中から、注文書を辿る様に指示するメッセージを見つける。一方、回復したジョンはロバートソンに組織の一員として任命される。

バーテンは骨董品店でタイプライターを購入すると、「時と愛の未婚の母」という名の記事を、ジェーン改めジョン・ドゥ(名無し)と称して書き上げる。爆弾魔の行動パターンを把握したバーテンは、1975年3月のコインランドリーで爆弾魔と遭遇し、それが自分自身の成れの果てだと知る。爆弾魔は組織の指示で動いていた頃より人命を救っていると主張し、実現を阻止した惨事の数々を提示する。爆弾魔は失われる命より多くの命を救っていると強弁し、キットのエラーを報告しない理由をバーテンに問い質す。爆弾魔は、組織にいてはロバートソンの意のままだと説き、自分を殺せばバーテンが爆弾魔になり、同じ事が繰り返されるだけだと主張し、正義の為に共に未来へ向かうように促す。バーテンは爆弾魔を射殺する。

 

 

予想を遥かに上回る面白さで、終始先読みできない緊張感が継続する傑作スリラーだった。この手のタイムトラベル作品は、大抵パラドクスでモヤモヤするのが常で、本作も例には漏れないのだが、展開の意外さに捻じ伏せられて、最後までグイグイ引っ張られてしまった。序盤でバーテンが話した鶏と卵の話が、オチの全てを端的に現しており、バーテンもジェーンもジョンも爆弾魔さえも全て同じ人物で、時空を流転している事が判明するワケで、どこから彼=彼女の人生が始まったのかは分からない。その事実が次第に明らかになり、グロテスクな構造の全貌が見えてくると、思わず感嘆の声を上げてしまった。最初のバーに来た男=ジョンが、どこかで見覚えがあると思ったら、その後に登場するジェーンでサラ・スヌークだと分かり、これまた驚愕した。彼女の怪演ぶりは凄まじい。イーサン・ホークの爆弾魔との対峙するシーンも非常に印象深かったし、ストーリーにも演技にもとにかく圧倒されまくりだった。これは何度でも観たい。

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