チラ裏レベルの人生記(仮)

自分が自分で無くなった時に、自分を知る為の唯一の手掛かりを綴る、極めて個人的な私信。チラ裏レベルの今日という日を忘れないように。6年目。

ジヌよさらば ~かむろば村へ〜

松尾スズキ監督作「ジヌよさらば ~かむろば村へ〜」(2015)[BD]

金アレルギーを患った男が、金を使わない生活を志向して寒村に移住し、村民との関わりあいを経て大きな変化を遂げていく様を描くコメディ・ドラマ作品。

東京で銀行マンとして働いていた高見武春(タケ)は、金アレルギーを患った事で都会での暮らしが立ち行かなくなる。一念発起したタケは、金を一切使わない生活を志向し、高齢化率40%で人口494人の限界集落寸前の寒村「かむろば村」に中古の一軒家を購入する。

最寄りの駅に降り立ったタケは、マイクロ・コミュニティ・バスで迎えに現れた村長の天野与三郎と対面し、村へと向かう。道中、カメラを構える老人と遭遇し、与三郎はそれが村の神様と称されるなかぬっさんだと明かす。与三郎は自宅を兼ねたスーパーあまのへ寄り、店を営む妻・亜希子を紹介する。亜希子は村には病院、学校、警察、郵便局が無い事を伝える。

タケは与三郎に連れられ、購入した家に到着し、その佇まいに満足する。タケが携帯を捨て去り、電気、水道、ガスを引かないつもりである事を明かすと、与三郎は驚き、呆れ果てる。タケは自らが金アレルギーで、金を一銭も使わない為に村に来た事を明かすが、与三郎は何をするにしても金が必要だと説く。タケは大量にヒートテックを持参した事を明かし、寒さを凌げると高を括る。

その夜、村は大雨に見舞われ、タケは想像を絶する寒さに凍える。与三郎はタケが東京で金が原因で一悶着起こしたと推察し、心配になってタケの家を再び訪ねるが、タケの不在を知り、捜索に向かう。そこになかぬっさんが現れ、タケの元に案内する。与三郎は大雨の中で囲炉裏に焚べる木の採集を行うタケを叱りつけると、タケの家に連れ帰り、弁当と薪と斧を差し入れる。

翌朝、タケは予め借りておいたみよんつぁんの田んぼへ農作業に出かける為に、与三郎のバスに地域の年寄り達と乗り合わせる。普段着で現れたタケに対し、みよんつぁんは呆れ、やる気を疑う。与三郎は自らの長靴をタケに与えて去る。タケが田植え機を使えず、買うつもりでない事を明かし、手植えで行う事を希望すると、みよんつぁんはバカだと詰り、その途端、タケは卒倒する。タケはなかぬっさんの傍で目を覚まし、みよんつぁんが代わりに田植えを終えてくれた事を知る。

翌朝、亜希子が朝食を持参して訪ねてくる。亜希子は東京で何があったのかタケに尋ねる。タケは、かつて融資を担当しており、経営不振で大手と合併する際に、融資縮小を迫ったおかげ潰れていく会社を目の当たりにし、金が怖くなり、その後、金アレルギーと診断され、金を使うのも触るのも怖くなった事を打ち明ける。亜希子は、引っ越しの際にタケが出したゴミの中で見つかった銀行通帳に、600万以上の貯金がある事を知り、捨てるべきじゃないと諭す。亜希子は自転車を譲ると、刈り入れまでの間、店でバイトをする様に提案する。その直後、タケが村に来る直前に遭遇した女子高生の青葉が訪れる。タケは青葉を家に連れ込むと、誘われるままにキスをする。青葉は600万の通帳の件が村に知れ渡っている事を明かし、金に執着する。タケは青葉に欲情し、強引にSEXに持ち込もうとするが、青葉はそれが淫行だと退け、また訪れる事を仄めかして去る。

タケは翌日から亜希子の店でバイトを始め、金の代わりに現物支給を受ける事になる。一方その頃、隣接する青石町の町会議員・青砥は、かむろば村との合併を目論んでおり、来る村長選挙を睨み、子飼いのかむろば村助役の伊吉に、村長への立候補を唆す。タケは食材配送に村の伊佐旅館を訪ねた際、なかぬっさんの娘で女将の奈津の一人息子・進が与三郎に似ていると察知し、奈津に指摘する。タケは与三郎と奈津に只ならぬ事情があると理解する。

後日、店に進が訪れ、与三郎は逃走する。店に亜希子が現れると、タケは気を揉むが、亜希子の本心を垣間見て、既に関係を知っているのだと悟る。タケは進の買い物に応対し、レジを開け、金を目にした途端に気絶する。

後日、再び青葉が自宅に訪れる。青葉はヤクザの青木に命令され、金目当てでキスした事を明かして詫びる。そこへ青木が現れ、タケが青葉に乗りかかった時の盗撮動画を突きつけて脅迫する。青木がタケを殴り飛ばすと、その瞬間をなかぬっさんが撮影し、立ち去る。青木はタケを強引に銀行まで連れて行く。それを聞きつけた与三郎は、タケが嵌められたと確信し、バスで銀行へ急行する。

青木は慰謝料として100万を下ろす様にタケに命じるが、タケはアレルギー反応を起こして中に入れず、そうこうしている間に与三郎が駆け付け、青木を殴り飛ばしてタケから遠ざける。タケは青葉に請われるままに、バスに乗り込むと逃走を図る。しかし、タケは10年ペーパードライバーだと明かした直後に運転を誤り、バスは横転し、衝突事故を起こして大破する。

与三郎が怒りに我を失い、青木を殺しかけたところに、店のパートのいそ子がなかぬっさんを連れて現れ、制止する。なかぬっさんはタケへの暴行の写真を青木に突きつけ、タケの動画との交換を要求する。その後、与三郎達は事故現場に向かい、バスが青木のGTRに衝突した事を知る。

重傷を負ったタケは病院に搬送される。タケは死の瀬戸際でなかぬっさんと奈津と対面する。タケは自分が金を使わない代わりに人に迷惑ばかりかけており、それは自分が無価値だからだと嘆く。奈津はタケが村人が放っておけない存在なのだと諭す。タケは進について奈津に尋ねる。奈津は、断れない性分の与三郎に頼んで、生ませてもらった事を明かすと、与三郎が自分を捨てており、人の為に生きるしか無い男だと説く。なかぬっさんは、かむろば村ではなんでも解決するが、自分の思ったようには解決しないと告げる。

タケは2週間ぶりに病院で意識を取り戻す。タケは与三郎が入院代を建て替えた事と、青葉が額に消えない小さな傷を負った事を知る。タケが責任を取るべく結婚を申し出ると、青葉は快諾する。

与三郎は新しいバスの購入費用の捻出に苦慮する。退院したタケは、自らの貯金から300万円を持参し、バス代と入院費に充てる様に提案するが、与三郎はタケを殴り飛ばす。タケは自分が持っている限り無駄な金であり、村の為に使って欲しいと主張すると、バスのネーミングライツを買うと提案する。

帰宅したタケは、300万の寄付を納得しない青葉が100万を慰謝料として持ち出し、家出した事を知る。その夜、ショックで泥酔するタケの元に、与三郎が訪れる。タケは与三郎に絡み、よそに子供を作って、美人の妻をもらい、村長と慕われ、頼まれれば何でもやる与三郎をリア充そのものだと詰る。与三郎は自分が好きじゃないなら、自分を捨てしまう様に諭すが、タケは寂しさを紛らす為に亜希子とドライブさせる様に要求する。与三郎はタケをしばき回す。

後日、購入したバスのネーミングライツはほでなす号と発表され、テレビの取材を受ける。与三郎はバスの運行を再会する。タケは便利屋として、村人の為に働き始める。その頃、足を引きずる不審な男が村に現れる。その日から店に悪質な嫌がらせが相次ぐ様になる。帰宅した与三郎は、知り合いを自称する男が訪れ、傷んだ新巻鮭を置いていったと亜希子から聞き、それが旧知の多治見だと悟る。

後日、多治見は店を再び訪ねる。その後、与三郎はタケと同行する多治見と遭遇する。番組を見てやってきたという多治見に、与三郎は来た理由を訪ねる。多治見は昔、与三郎に新巻鮭をで足を叩き潰され、不自由にされた事を明かし、恐ろしい刑事だったと振り返る。与三郎がタケを遠ざけると、多治見は与三郎の死んだかつての恋人・佐知子についての話を持ち出す。与三郎が多治見を殴り飛ばすと、多治見は与三郎が人殺しだと喚く。与三郎は多治見が佐知子を強姦した事に憤激し、激しく暴行を加える。多治見は与三郎のせいで懲役を食らった事を恨み、亜希子とSEXさせる様に要求する。与三郎が多治見を殺そうとすると、タケがそれを制止する。

青砥は伊吉に町長選に立候補する様に迫り、伊吉は応じる。亜希子は佐知子を死なせた事を悔やむ与三郎を慰める。その後、与三郎は伊吉の立候補を知る。いそ子は荒らされた店内で倒れるタケを発見し、店が多治見に襲撃され亜希子が誘拐された事を知る。タケは亜希子を探して村中を駆けずり回る。青砥はなかぬっさんが推した候補が村長選で有利になる事を伊吉から聞くが、知事と合併の約束を取り付けている手前、後には引けない為に一計を案じる。

タケの家に亜希子を監禁した多治見は、それが自分の恋の形だと告げる。いそ子から亜希子の誘拐を聞いたなかぬっさんは旅館で奈津と共に働く勝男を向かわせる。村に戻ってきた青葉から自宅に多治見が来ている事を知ったタケは帰宅し、亜希子と多治見を発見する。タケは残った100万以上の金で手を引く様に頼むが、多治見は与三郎が関与した過去の殺人容疑に纏わる記事を突きつけ、タケが指名手配犯である事を明かす。亜希子は与三郎の無実を訴える。

一方その頃、与三郎は再び青木と諍いを起こし、交番に誘導されて指名手配犯として逮捕される。勝男がタケの家に駆け付け、多治見を撃退し、亜希子を救出する。亜希子は警察から連絡を受け、与三郎の逮捕を知る。与三郎は黙秘を貫く。

タケは奈津の元を訪ね、多治見についての話を聞く。勝男と多治見はかつて同じ組のヤクザで、その頃、刑事だった与三郎は2人と仲が良く、裏で情報取引をしていた。しかし、多治見が佐知子に惚れた事で関係が悪化し、多治見が強姦で捕まった後、佐知子は行方不明になった。その後、佐知子は川で死体として発見され、嫉妬に狂った与三郎による殺害が疑われたが、証拠が無い為に犯行を立証できなかった。与三郎は全てを捨て、逃走の果てに辿り着いたかむろば村で、旅館に泊まった際に、なかぬっさんに村長への立候補を促され、当選して今に至るのだった。

青砥に唆された伊吉は役場会議に働きかけ、殺人容疑のかかる与三郎の立候補を却下する。与三郎は亜希子を介して、タケに立候補を勧める。タケはなかぬっさんに自分を捨てるチャンスだと発破をかけられ、供託金50万を収めて立候補する。街宣活動を開始したタケは、自らの金アレルギーを打ち明け、なんでもやるとアピールするが、口下手が過ぎて、村民の反応はイマイチに終わる。一方、伊吉の街宣には青砥が同伴し、青石町との合併が村を救うと村民に嘯くが、伊吉には村にゴミ捨て場を建設する計画を明かす。

程なく、勝男が自首し、組長に多治見が逮捕されたケジメを付ける様に頼まれ、犯行に及んだ事を打ち明け、そんな自分を与三郎が許してくれた事を感謝する。釈放された与三郎は、店の前でタケの応援演説を行い、何も買わず、何も売らず、ただ生きていくというタケの生き方を伝え、自分の為では無く、人の為だけに金を使う男だと説くと、過疎が進んでより貧しくなるかもしれない村で、金では無い何か大切な物を探しているタケこそ村長になるべきだと主張する。タケは村民に演説を促されると、目の前で手持ちの全財産を燃やし、無一文になったここからが本当のスタートだと告げる。

多治見は青砥の刺客としてなかぬっさんの前に現れるが、人間の入れぬ場所に立ち入り、命を落とす。程なく、なかぬっさんは寿命を迎えて息絶える。村は喪に服す為に、村長選を一ヶ月延長する。伊吉は青砥に反旗を翻し、立候補を取り止める。タケは青葉とのSEXが半端無く良かった為に、よりを戻す。与三郎は立候補する意向をタケに伝える。進が新たな神様となった事が示唆される。

 

 

ユニークな設定、豪華なキャスティング、軽妙な台詞で予想以上に面白おかしいコメディ作品だった。金アレルギーという言葉を聞いて、もっと馬鹿っぽいテイストを想像していたからなのだが、それはいわば物語の出汁の様な要素で、主人公タケが村で生活していく内に、いかに成長を果たしていくのかというのが主たる趣旨として描かれている。松田龍平はこういうフワッとした天然キャラがよく似合う。端々に笑いを誘うシーンが小気味よく仕掛けられ、軽い下ネタやブラックなジョークなども織り交ぜてあり、とても痛快だった。西田敏行演じるなかぬっさんがタケ以上に存在感を醸し出していて、本作のシンボル的扱いとなっているのだが、それが実に良い。この感じは紛れも無く、唯一無二だよなぁ。あとはやはり亜希子役の松たか子が超絶美人過ぎて心臓が痛い。松たか子の為だけに見ても損は無い、松たか子の魅力が詰まった作品と言っても良い。

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