パトリック・ルシエ監督作「ブラッディ・バレンタイン」("My Bloody Valentine" : 2009)[BD]
バレンタインデーに炭坑町を舞台に繰り広げられる、連続殺人鬼による忌まわしい惨劇の顛末を描くホラー作品。
バレンタインデーに炭坑町ハーモニーのハニガー炭坑第5トンネルで、6人の生き埋め事故が発生する。ハニガー炭坑の社長の息子トムが最後にトンネルを出た為、崩落の原因を作った疑いをかけられる。結果的に事故で5名が犠牲となり、唯一の生存者ハリー・ウォーデンは病院に搬送される。死んだ5名はツルハシで殺害されており、ウォーデンが酸素を確保する為に殺した疑いがかかる。搬送時、暴力的だったウォーデンはしばらく昏睡状態が続いたが、程なく意識を取り戻すと、病院職員を手当たりしだいに惨殺し、脱走する。保安官バークは血の海と化した病院に到着すると、看護師の胸からえぐり取られ、チョコケースに入れられた心臓を発見する。
その夜、第5トンネルでは若者達が集ってパーティに興じる。そこにアクセルとアイリーン、そして恋人同士のトムとサラが訪れる。トムが車に酒を取りに戻った直後、トンネル内にガスマスクで顔を覆った炭鉱夫姿のウォーデンが現れ、若者達をツルハシで次々に惨殺し始める。サラ達は抵抗しながら車で脱出を図るが、後からやってきたトムは逃げ遅れる。トムがウォーデンに追いつめられると、バークらが到着し、ウォーデンを銃撃して退ける。ベン達はウォーデンを追ってトンネル内部に向かうが、トムは恐怖に慄く。ウォーデンは22人の命を奪った後、トンネル内に生き埋めになったとして事件は処理される。
それから10年後、アクセルとサラは結婚し、一児ノアを儲け、穏やかな暮らしを送る。その一方で、町では毎年バレンタインデーが近づく度にマスコミにより忌々しい事件が取り沙汰され、保安官となったアクセルは辟易する。サラは父から家業の雑貨店を継いで営む。アクセルは父が炭坑裏の森の中に遺した廃屋で、サラの店で働くバイトのミーガンと密かに浮気する。ミーガンはアクセルにバレンタインチョコをプレゼントすると共に、妊娠した事を打ち明ける。
時を同じくして、町にトムが10年ぶりに戻り、会社の幹部ベンを訪ねる。ベンは父の葬儀にすら訪れなかったトムが町に戻った真意を尋ねる。トムは大株主として炭坑を売る決意を伝える。ベンは町にとって炭坑が生命線だと訴えるが、トムは炭坑が時代遅れであり、父がそれを認めなかった為に事故が起きたと主張し、決意が固い事を示す。
その夜、トムは近場のモーテルに泊まる。トムは精神安定剤が手放せず、当時の記憶に苛まれる。隣の部屋ではアイリーンと、セフレでトラック乗りのフランクが情事に興じる。アイリーンはフランクが密かに盗撮していた事を知って憤慨するが、フランクは意に介さず、モーテルから立ち去ろうとする。アイリーンがフランクからカメラを奪おうと追いかけると、トラックからウォーデンと同じ姿の炭鉱夫が現れ、ツルハシでフランクを殺害する。当惑したアイリーンは管理人室に逃げ込む。炭鉱夫は管理人の女とアイリーンを惨殺して姿を消す。
翌朝、捜査に駆け付けたアクセルは、心臓が抉り取られたアイリーンを発見すると共に、宿泊名簿にトムの名がある事を知る。一方、店で働くサラの元にトムが現れ、二人は事件当夜以来10年ぶりの再会を果たす。サラは突然失踪した理由をトムに尋ねるが、トムはサラが結婚して幸せそうな事を悟り、立ち去る。帰宅したサラは、事件当夜にトンネル前でトムと二人で撮った写真を持ち出して懐かしむ。アクセルはアイリーンが殺された事をサラに伝える。
カメラの映像にウォーデンと同じ姿をした人物が映っていた事から、署ではウォーデンが生きている可能性が疑われるが、アクセルはウォーデンが死んだと主張する。そこへアクセル宛にチョコケース入りの心臓が届く。
町のバーではウォーデンの話で持ち切りとなるが、バークは自らの手で殺した事を強調し、何者かによる模倣だと主張する。そこにトムが現れると、集まった男達はトムが原因で大勢の人が死んだのだと責任を転嫁し、諍いが生じる。トムは誰も殺していないと反論するが、ベンに諭され、追い返される。
アクセルはトムが炭坑を売るつもりだとサラに伝えると、カメラに移ったトムの姿を見せ、トムの関与を疑う。アクセルはサラがしまい忘れたトムとの写真を発見し、まだ気持ちが残っているのだと悟り、トムから連絡が来たら知らせる様に命じる。
翌朝、トムは再び店にサラを訪ね、話をする為に連れ出す。トムは突然失踪した事を詫び、10年無駄にした事を嘆く。サラは炭坑が町にとって命であり、住民全員が支えあい守ってきたと説くと、事件現場で炭坑の大切さを考えなおす様に促す。
トムはベンに会うために作業中の炭坑へ赴くと、作業員のレッドに同行し、トンネル内へ向かう。内部の内線でレッドがベンを呼び出した直後、突然、ウォーデンを模した炭鉱夫が現れ、トムに襲いかかる。炭鉱夫はトムをケージに閉じ込めると、レッドに襲いかかり、惨殺する。異変を察知した作業員達が駆け付けた時には、既に炭鉱夫の姿は無く、トムは病院で手当を受ける。
サラが伝統に倣い、病院職員にチョコを振るまいにやって来る。トムは駆け付けたベンにウォーデンの仕業だと主張する。トムはサラと会うと、炭坑を売らないとベンに伝えに行くところだったと弁明する。そこにアクセルが駆けつけ、父とバーク、ベンで秘密裏にウォーデンを殺した後、隠匿していた事実を明かす。
ウォーデンの死を確認するべく、アクセルはサラ、トム、バーク、ベンらを連れて、森の奥に位置するウォーデンの墓に向かう。ところが、墓は空の状態で見つかり、バークらの証言も危うくなる。アクセルは聞いていた話と違う事に憤慨し、バークとベンの調書を取り直す事と、トムの事情聴取を行う事を決める。
アクセルの聴取に応じたトムは、誰かの策略だと主張し、関与を否定する。アクセルは、トムが父親の葬儀にも出ずに町に戻った理由を問い質す。トムが炭坑を売らずに町に住む意向を明かすと、アクセルはトムがサラとの復縁を望んでいると察知し、激昂して殴り飛ばす。程なく、炭鉱内の作業員の証言により、トムの容疑は晴れる。
トムはウォーデンが決着を付けるつもりだとベンに主張し、今回は逃げずにウォーデンを見つける決意を示す。トムは単身、第5トンネルに赴くと、トンネル裏の森の中に炭鉱夫の姿を目撃する。トムは炭鉱夫の後を追って、アクセルの廃屋に辿り着き、屋内を捜索する。その直後、ベンの屋敷に炭鉱夫が現れ、ベンを惨殺する。
翌朝、ベンの死体がウォーデンの墓跡で見つかり、墓の存在を知るサラとトム、バークが重要参考人となる。アクセルは自宅に警護を付ける。その夜、閉店作業中のサラの店に炭鉱夫が侵入し、サラとミーガンを襲撃する。二人はバックヤードから事務所に逃げ込み、窓から外へ逃走を図る。サラは窓からミーガンを先に逃がすが、炭鉱夫が先回りしてミーガンを殺す。サラが警報を鳴らすと、アクセルが店に駆け付ける。二人は店の裏で、心臓を抉り取られたミーガンの死体と共に、ミーガンがチョコに添えてアクセルに贈った「永遠に私の物に」というメッセージが壁に描かれているのを発見する。サラはアクセルとミーガンの仲を察知しており、ミーガンが殺された理由を邪推してアクセルの関与を疑い始める。サラは手当の為に搬送される。
その頃、アクセルの自宅に炭鉱夫が現れ、警護に付いていた保安官と駆け付けたバーク、子守の女が殺されるが、ノアだけは難を逃れる。病院で手当を受けたサラに連絡したトムは、サラが襲われた事を知ると、アクセルへの疑いを説き、車で迎えに行く。その直後に病院に到着したアクセルは、トムがサラを連れ出した事を知る。アクセルは署から連絡を受け、トムに7年間の精神療養歴があった事を知る。
トムはアクセルの廃屋を訪ね、アクセルが犯人と確信した事をサラに伝えると、車を廃屋に向かわせる。アクセルはサラに連絡し、トムの精神療養の件を伝え、トムから逃げる様に命じる。トムはサラが自分を信じていない事を知り、激昂すると、アクセルの本性を教えると告げ、同行を強要する。サラは咄嗟にハンドルを奪い、車を倒木に衝突させる。サラは負傷したトムが身動きの取れぬ内に車から脱出する。アクセルはサラに廃屋に身を隠す様に命じる。
サラは廃屋の中で大量のチョコケース、ミーガンのメッセージ、更にトムと撮った写真を見つけ、アクセルが犯人の可能性を疑う。そこに炭鉱夫が現れると、サラは廃屋から脱出し、森を抜けて炭鉱のトンネル内に逃げ込む。そこにアクセルが駆け付けると、サラは不意を付いてアクセルから銃を奪う。サラは銃を突き付け、ケースと写真の事を問い質すが、アクセルはトムの仕業だと主張する。そこにトムが現れると、両者は互いに犯人だと詰り合う。困惑するサラに、アクセルは二人共撃つように命じるが、トムはそれを制止する。その時、トムはミーガンが死んだ事と、壁に書かれたメッセージについて口走る。サラは自分が話していない事をトムが知っているのは、犯人だからだと指摘する。その時、トムは突然、炭鉱夫を撃つ様にサラに命じる。サラとアクセルは、幻覚に支配されたトムが、町に戻った後に墓を暴き、犯行を繰り返してきた事を確信する。
アクセルはトムの中にウォーデンが生きていると主張すると、ツルハシでトムに殴りかかるが、逆に退けられ、ツルハシで重傷を負う。サラが咄嗟に発砲すると、トムは一旦奥へ逃げ込むが、殺人鬼の人格に変貌して姿を表し、二人に迫る。トムが襲いかかろうとすると、サラは残り一発の銃弾を発砲する。銃弾はトムの背後のメタンガスのタンクに直撃してガスに引火し、トムは爆風で吹き飛ばされる。
その後、炭坑に捜索隊が駆け付け、アクセルとサラは救出される。アクセルはトムが死んだと証言する。しかし、トムは駆け付けた隊員の一人を殺害し、防護服を奪うと、隊員に成り済まして炭坑から脱出を図る。
カナダの同名作品のリメイクらしいが、そちらの方は全く内容を知らない。この監督はドライブ・アングリーが微妙な出来だったから、それほど期待はしていなかったのだが、リメイク元が優れているのか、なかなか良い感じに血みどろのスラッシャー作品に仕上がっている。ガスマスク付けた炭鉱夫姿のおっさんが突然ツルハシ持って現れれば、そりゃ誰だって怖いわなぁってハナシで、ビジュアル面のインパクトは大きい。主要な登場人物には全て犯人の可能性を疑える様に、なかなか巧妙に演出されており、最後の最後までトムとアクセルのどちらが炭鉱夫なのか分からないのは面白い。それにしても公開版が3D仕様のせいで、過剰に3Dを意識した作りになっているのはちょっと苦笑する。ここぞというシーンを3Dで魅せたいが為に、演出を強引にそちらに寄せているんだもんな。もちろん意図は理解できるのだが、こういう過剰な演出は2Dで観ると逆に萎えてしまうから難しいところだ。