チラ裏レベルの人生記(仮)

自分が自分で無くなった時に、自分を知る為の唯一の手掛かりを綴る、極めて個人的な私信。チラ裏レベルの今日という日を忘れないように。6年目。

アクトレス ~女たちの舞台~

オリヴィエ・アサヤス監督作「アクトレス ~女たちの舞台~」("Clouds of Sils Maria" : 2014)[DVD]

国際的に活躍する女優が、20年の時を経て、キャリアの原点たる作品に正反対の役柄で出演する事になり、苦悩しながらも作品に向き合う様を描くドラマ作品。

 

パリを拠点に映画及び舞台演劇で国際的に活躍する女優マリアは、多忙なスケジュールを縫って、個人秘書ヴァレンタイン(ヴァル)と共に列車でチューリヒへ向かう。マリアはかつて無名だった自分を「マローヤのヘビ」という舞台と映画に起用し、一躍有名にしてくれた偉大な老演出家ヴィルヘルムの恩義に応えるべく、長らく隠遁し、公の場に姿を見せる事を嫌うヴィルヘルムに代わって、式典に出席し、賞を受け取る事を希望したのである。「マローヤのヘビ」は40歳の会社経営者で既婚者のヘレナが、個人秘書に雇った18歳のシグリッドに誘惑され、恋をした末に自殺に追い込まれるという物語で、当時18歳のマリアはシグリッドを演じ、その経験は今も尚、マリアに強く影響を及ぼしているのであった。一方でマリアは夫と離婚調停中であり、パリで意見聴取の出廷を求められるが、式典の日程と重なり、調停の延期を求める。マリアは式典の翌日に、ヴィルヘルムが暮らすシルス・マリアの山荘で本人と再会する事になっていたが、思いがけず、ヴィルヘルムが心臓発作で急逝したとの報せを列車内で受ける。マリアはショックを受けると共に、式典が陰気になる事を嫌い、参加を躊躇うが、ヴァルはマリアこそが適任者だと説き、参加を促す。

ホテルに到着したマリアの元に、ヴィルヘルムの妻ローザから連絡が来る。ローザは代理の受賞を要請すると共に、シルス・マリアに一人で留まるのが辛い為に離れる意向を伝える。マリアはホテルで撮影をこなした後、式典の会場となる劇場に赴き、ヴィルヘルム作品の全てに出演してきたヘンリクと再会する。マリアは「マローヤのヘビ」撮影時にヘンリクと関係を持ったものの、その後、袖にした途端に嫌がらせを受けたりした事で、両者は互いに因縁を感じており、反目しあう。式典ではヘンリクに続いて、マリアがスピーチを行い、予定通り授賞する。

パーティが始まると、ヴァルはマリアを著名な演出家クライスに引き合わせる。クラウスは生前のヴィルヘルムが取り組んでいた「マローヤのヘビ」の続編たる物語を舞台化しようと考えている事を明かし、丁度40歳のマリアにヘレナ役での出演を要請する。マリアは自由で破滅的なシグリッドに自分を投影してきた事を明かすと、真逆の存在たるヘレナを演じる事を拒絶する。クラウスはマリアの説くヘレナとシグリッドが真逆という見方を否定すると、ヘレナにも破滅的な面があり、シグリッドがそれを呼び起こすのだと主張する。クラウスは「マローヤのヘビ」が同じ傷を負う2人が惹かれ合う物語であり、ヘレナとシグリッドは同一人物だと説くと、シグリッドを演じたのならヘレナをも演じられると主張し、重ねてマリアに出演を請う。クラウスはシグリッドを演じるのが若手女優ジョアンであり、彼女が演劇の素養と気概を持ち合わせ、マリアを尊敬し、可能性を広げようと望んでいる事を明かす。マリアは離婚調停中の身である事を明かすと、孤独であり心細い事を理由に挙げ、出演への難色を示す。また、マリアは当時ヘレナを演じた女優スーザンがその翌年に自動車事故で死んでいる事に触れ、それがヘレナの自殺と重なってしまう事も理由に挙げる。クラウスはスーザンの凡庸さでマリアの現代性が際立ったのだと評価を下し、スーザンに感謝すべきだと諭す。

その後、マリアは晩餐でヘンリクと同席し、「マローヤのヘビ」の解釈について改めて論じ合う。ヘンリクは年上の女が愚かにも狡猾な若い娘に惚れて利用された挙句、捨てられる単純な物語だと説く。マリアはその解釈が単純で表面的だと指摘し、シグリッドを演じた自分だからこそ理解できる、物語のテーマの深奥について説くと、クラウスのオファーを前向きに検討し始める。

後日、マリアは迷いを抱えながらもクラウスにオファーを受ける意向を伝え、役作りと稽古の為に、ヴァルと共にヴィルヘルムの山荘に滞在する。マリアはローザに導かれ、ヴィルヘルムが命を絶ったとされる、湖が眼下に広がり、マローヤ峠を望む丘を訪ねる。ローザは、稀に起きるとされる、雲がマローヤ峠を超え、谷へと流れこむ現象がヘビの様に見える事から、「マローヤのヘビ」の呼び名の由来になっている事を明かす。マリアはヴィルヘルムの遺品を受け取ると、ローザを山荘から送り出す。

ヴァルはジョアンについて無関心なマリアに、自らが知りうる知識を語り、ジョアンがかつて酒乱で別れを告げられた彼氏の家に押しかけ、銃を乱射した末にリハビリ施設に入れられたという話を挙げ、マリアの18歳の頃より今のジョアンの方がずっとワルだと主張する。ヴァルは、自分を偽ろうとしない自由奔放なジョアンが若いのに魅力的だと高く評価し、大好きな女優だと明かす。

翌日から、マリアはヴァルを相手役のシグリッドに見立て、稽古を始める。しかし、マリアはシグリッドの為に書かれた様な台詞の数々に違和感を禁じ得ず、台本に不快感を示す。ヴァルはその都度、自らの作品に対する解釈を諭し聞かせ、続行を促すが、マリアはヘレナ役に馴染めずに苦悩する。その夜、ヴァルは恋仲のカメラマン、ベルントの元へ赴くが、傷心して帰路に就く。一方、マリアはエージェントのジェイに連絡を取り、ヘレナになりきれない事を打ち明け、契約の撤回を申し出る。ジェイは訴えられる事になり、安くは済まないと伝え、翻意を促す。

後日、2人は町に出かけ、公開直後のジョアン主演のSF映画を見る。ヴァルが高く評価する一方でマリアは酷評し、作品の捉え方について意見が割れる。ヴァルは自分がジョアンを評価する事にマリアが嫉妬しているのだと指摘する。マリアはヴァルの賞賛を得る術を問う。ヴァルはマリアが人間として完成され、女優として円熟しているにも関わらず、若さの特権にしがみついていると指摘し、マリアは若さを望まなければ老人扱いもされないのだと理解する。マリアはベルントとの関係について尋ねるが、ヴァルはその話を拒む。

マリアはヴァルと共に稽古を繰り返すが、尚も真実味が無いなどと台詞への不満を口にする。ヴァルは持論を説き、再び作品を巡る解釈でマリアと意見が対立する。ヴァルは自分の意見や解釈が単純過ぎて面白く無く、台詞の相手しか出来ないのなら、自分の役目は無いと主張し、クビにする様に請う。マリアは解釈と演じ方が違うだけで責めているつもりは無いのだと弁解する。

その後の稽古でも、マリアはヘレナを演じる事に苦慮する。ヴァルは自らの解釈を伝えるが、その事がマリアを混乱させているだけでは無いかと嘆き、悔しさと気不味さで居づらい事を打ち明ける。マリアはヴァルが必要だと告げて抱き締め、留まる様に請うが、ヴァルは難色を示す。

マリアとヴァルはジョアンの要請に応じ、町中のカフェテリアで顔合わせを行い、ジョアンには恋仲の人気作家で既婚者のクリスが同席する。ジョアンはマリアの作品に触発され、女優を志した事を明かし、敬意を示す。マリアはジョアンとシルス・マリアで台本の読み合わせを行う約束をし、帰路に就く。ヴァルはジョアンとクリスの仲をマスコミが嗅ぎつけたら大騒ぎになると懸念する。

翌朝、マリアはヴァルと共に「マローヤのヘビ」の出現を期待して丘へ向かう。その間、劇中のヘレナの死の描写に関する解釈を巡って、2人の意見が対立する。程なく、マリアはマローヤ峠を望む丘に達するが、ヴァルが忽然と姿を消した事に気付く。ヴァルはそれ以後、マリアの元に戻らず仕舞いとなる。

数週間後、マリアはロンドンでのリハーサルを目前に控え、レストランでクラウスとの会食に臨む。その矢先に、クリスの妻ドロテアが自殺を図ったとの報せが届き、2人は困惑する。クラウスはヴィルヘルムから続編の断片が届いており、新たな解釈となる場面がある事を明かす。マリアはヴィルヘルムが初稿から数十年後に、より分析的に全体の構成を考え、充実させたかったのでは無いかと推察するも、新場面を取り入れず、作品の若さを大事にすべきだと説く。クラウスはヴィルヘルムが成熟とは無縁で、晩年はより大胆で不思議な力に満ちていたと述懐すると、ヴィルヘルムの様に見方を大胆に変えるべきだと主張する。そこにジョアンが駆け付け、間もなく、クリスもドロテアの両親に病院を追われてやってくる。クラウスはパパラッチの尾行で大騒ぎになる事を危惧し、馴染みのクラブへ場所を移す。翌日のリハーサルは予定通り行う事が決まる。

後日、マリアは新たに個人秘書を雇い、舞台と離婚協議が並行して進められる。マリアの元に、新進気鋭の若手監督ピアースによるSF作品の主役のオファーが舞い込む。一方、ドロテアは一命を取り留めるが、ジョアンの舞台への出演はスキャンダラスに報じられる。間もなく、本番リハーサルが行われる。マリアは自らがかつて演じた経験を元に、シグリッドの所作をジョアンに提案するが、ジョアンはそれが無駄だと一蹴する。マリアは自分が記憶の中を彷徨っており、断ち切るべきだと吐露する。

本公演初日の日を迎える。本番直前のマリアの楽屋にピアースが訪れ、新作の脚本がマリアをイメージして書いたものだと明かす。マリアは脚本を読んで想像したのが若い人であり、ジョアンが才能においても、現代的な主人公のイメージにおいても適任だと勧める。ピアースは主人公が時を超越している存在だと説き、ジョアンは相応しく無いと主張する。マリアは抽象的に過ぎると指摘する。「マローヤのヘビ」は満席で幕を開ける。

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