ラマー・モーズリー監督作「マジック・マネー」("The Brass Teapot" : 2013)[DVD]
貧しいカップルが、痛みを感じた分だけ金が出てくる魔力を宿したティーポットを手にした事で、やがて大金に目が眩み、邪心に囚われていく様を描くコメディ・ドラマ作品。
しがないセールスマンのジョンと求職中のアリスは、貧しくも将来に希望を膨らませてアパート暮らしを続ける若いカップル。ジョンは営業成績が振るわず、上司の嫌味に耐えながら働く一方、アリスはジョンの支援で美術史の学位を取るも、就職活動は捗らず、二人はやがて生活費にも事欠く様になる。二人はアパートの家主で旧知のアーニーに賃料の支払いを要求され、たちまち困窮する。そんな折、二人は高校の同級生で金持ちの令嬢ペイトンとその夫リッキーの開くパーティに赴き、タダ酒を呷って羽目を外す。
翌日、二人は買い出しに行く途中で、標識が何者かに切られていたのが原因でトラックと衝突事故を起こす。二人は大事には至らずに済むが、アリスは道路に面する場所に立つ骨董品店から出てきた老婆が、道路脇のドラム缶の中からティーポットを取り出し、店内へ持ち込むのを目撃する。アリスは様子を窺うべく店内に入ると、老婆の目を盗んでティーポットの置かれた部屋に忍び込む。アリスはその真鍮製のティーポットに触れた途端、不思議な力に魅せられ、そのポットをこっそり盗み出して自宅へ持ち帰る。
翌日、アリスはひょんな事から、痛みを感じる度にポットから札が出てくる事に気付く。感じる痛みが強ければ強いほど、大量に金が出てくると分かり、アリスは歓喜する。一方、ジョンはリストラの対象となり、有無を言わさず上司に解雇される。気落ちして帰宅したジョンは、自傷の末に気絶したアリスを発見する。ジョンはアリスが無事だと分かると、解雇された事を明かす。アリスはジョンにポットを持たせ、その魔力を感じさせると、痛みを受けた代償で金が出てくる事を明かす。アリスはポットが神様の贈り物であり、働かずとも金が稼げると主張するが、ジョンは悪い予感がし、危険だと説く。アリスは自分達が選ばれた存在であり、二人で大金を手に入れ、底辺から這い出すのだとジョンに理解を促す。
翌朝、ジョンはアリスが眠っている内にポットを持ち出すと、返却する為に再び骨董品店に赴くが、既に店じまいしており、その足で骨董品の鑑定番組にポットを持ち込む。鑑定士はそのポットが何世紀も前の東欧か古代中国の物であり、非常に貴重だと説き、5000ドルを提示する。ジョンは一旦ポットを持ち帰ると、アリスと話し合いの末、100万ドルが貯まった時点で手放す事を約束する。
二人は手を変え品を変え、痛みを感じる方法を試し、数十万ドルを手に入れると同時に借金を完済する。そんな折、黒服を着た二人組のユダヤ人の兄弟ジラードとヨエルがやってくる。鑑定番組を見てやってきた兄弟は、家に押し入ると、祖母がホロコーストから守ったというポットの在り処を問い質し、ジョンを苛烈に痛めつける。アリスは既に売ってしまったと欺き、ポットから出た5000ドルを兄弟に差し出す事でその場を切り抜ける。
二人はポットの起源について探るべく、図書館を訪ねる。アリスは魔法の道具に関する古書の中に、魔力を宿した真鍮のティーポットを所有する者には、不吉な結末が訪れるという警告を見つけるが、その事をジョンに伏せ、金を使って楽しむ事を提案する。二人は高級車、ジュエリー、豪邸を購入し、贅沢の限りを尽くす。
二人は自宅にペイトンを始めとする客達を招いて、盛大にパーティを開く。その最中、神智学協会の一員で、中国由来の古いティーポットの行方を追っているという、リン博士が訪ねてくる。アリスはリンがティーポットを奪いにやってきたのだと悟り、美術館に寄付したと欺く。リンは手遅れになる前に自分の話を聞くべきだと諭すが、アリスは意に介さず、リンを追い返す。
その夜、負け犬の二人が豪邸に住んでいる事を訝しく思ったアーニーがやってくる。アーニーはアリスが抱えるポットを奪取し、それが大事な物だと分かると、トラックでポットを踏み潰して逃走する。しかし、ポットは傷一つ付いておらず、二人は安堵すると同時に不気味に感じ、ポットを持参してリンの停泊するモーテルを訪ねる。リンは、二千年前に現れたポットが、歴史上の偉人や悪人の手を渡り、1945年にナチスの強制収容所で紛失していた事を明かすと、僅かな悪意をポットが増幅し、災いを招くという、協会の創設者バルドワジの言葉を説く。アリスは自分達が善人だと主張するが、リンは誰もが最初はそう言うのだと説き、ポットを自分に託して元の生活に戻り、忘れる様に促す。リンはポットを壊せずとも、自らの手で誰も見つからない場所に隠す意向を示すが、アリスはそれを拒否し、ポットを持ち帰る。
ジョンはもはや自分達の手には負えない為、アリスにポットを手放す様に促すが、アリスはリンを信用せず、自分達が価値ある人間なのだと強弁する。アリスはペイトンと交遊を続け、学費を貯める為に地道に働く親友ルイーズに疎外感を味わわせる。そんな折、深夜にユダヤ人の兄弟が屋敷に押し入り、アリス達がトイレに貯めこんだ金を発見する。それに気付いたアリス達はポットを差し出そうとするが、兄弟は現金だけを要求し、ポットを早めに手放す様に忠告すると、骨董品店の老婆が毎晩、標識を切って事故を誘発し、大金を稼いでいたものの、欲に目が眩んで手遅れになった事を明かす。アリス達は貯めこんだ大金を全て兄弟に強奪される。更にポットから出る金が少額になり、二人はこれまで以上に体を痛めつけ、失った金を取り戻そうと苦慮する。
程なく、リンがやってきて、二人がポットに蝕まれていると指摘し、このままでは人生が破壊され、全てを失うと警告する。ジョンは、ルイーズを復学させる為に地道に働く夫チャックを訪ねるが、相談するのを躊躇う。チャックは傷だらけのジョンの姿を見て、何が大事か落ち着いて考えるべきだと諭す。一方、アリスは身近で他人が痛みを負うと、ポットから金が景気良く出てくる事に気付く。味を占めたアリスは、ジョンと共に方々に出向き、他人が痛みを負う場所で大金を稼ぐ。その最中、アリスはポットの魔力に囚われ、人を轢き殺そうとする。ジョンは既のところでそれを制止すると、ポットを手放すべきだと主張する。アリスはジョンが何事も最後までやり遂げようとしない為に出世ができないのだと詰る。ジョンはアリスが上昇志向だけで、地道に稼ごうとしない事を責め、現実を直視する様に諭す。アリスはジョンと罵り合った後、心理的な痛みでもポットから金が出てくる事に気付く。二人は互いに浮気の過去を暴露する事で傷つけ合う。その際、アリスはジョンと結婚する前にアーニーと肉体関係を持った事を明かす。ジョンはそれに激昂し、アーニーの家に押しかけると、恋人のブランディにアリスとの浮気を暴露する。アーニーはポットが壊れておらず、更にその中に札束が詰まっている事に気付き、ポットに興味を抱く。
アリスとジョンはペイトンやジョンの元上司の抱える秘密を、各々の交際相手に曝露する事で仲を引き裂き、大金を入手すると、金庫に貯め込んでいく。アリスは更に自らの姉夫婦の仲を引き裂こうとするが、直前になって怖気付いて翻意すると、1度で100万ドルを入手し、手仕舞いにする手段を模索する。ジョンはもう十分だと主張するが、アリスは下等なゴロツキを殺す事で、金持ちのヒーローになれると強弁し、早速、死体を埋める為の穴掘りに着手する。ジョンはアリスが邪悪になり、自分の言葉に耳を貸さなくなった事を危惧すると、再びリンの元へ赴き、助けを求める。
リンは先祖代々、ポットを探し出して、隠そうと誓ってきた事を明かし、やっとそのチャンスが訪れたと説くと、アリスを放って置くと、もっと欲望を募らせ、邪悪で弱い人間になると警告する。リンは持ち主から渡してもらうしかポットのパワーを消す方法が無い事を明かし、二人の意思で自分に託す様に希望するが、もう手遅れであり、二人が滅びるのを待って、再びポットの行方を追い、次の持ち主を同じ様に説得する意向を示す。
その夜、ジョンは帰宅すると、アリスの目の前でポットを抱えて投身自殺を企て、アリスの目を覚まさせる。幸いジョンは大事に至らずに済み、アリスはポットを手放す事を誓う。二人が眠っている隙に、アーニーが屋敷に忍び込み、ポットを盗み出す。アリスはそのまま手放して元の生活に戻る事を提案するが、ジョンは取り戻してリンに託す必要性を説く。
二人は再びアーニーの家を訪ねる。そこに既に自傷を繰り返して大金を手にし始めたアーニーが現れ、二人に銃を突き付ける。ジョンとアリスはポットを取り戻すべく、アーニーと格闘するが、そこに猟銃を持ったブランディが現れ、アーニーに加勢し、二人を跪かせて殺そうとする。その時、ユダヤ人の兄弟が押し入り、祖母がポットをヒトラーから盗み、それをアリス達が奪った為に取り戻しに来た事を明かす。兄弟とアーニー達は銃撃戦の末に両者共倒れになり、ポットから夥しい大金が飛び出す。アリス達はポットとかき集めた現金を持ち出すと、そこに駆け付けたリンにポットを手渡す。リンは、これまで無数の人々がポットを手にしたが、手放せたのはほんの僅かだと明かすと、二人に謝意を伝え、その場を後にする。
程なく、アリスはジョンの子を身籠る。その後、アリスはルイーズに25万ドル分の小切手を送付した後、ジョンと共にメキシコへと旅立つ。一方、リンはフェリーで洋上に到達すると、ポットを海の中に沈める。