オリバー・ストーン監督作「スノーデン」("Snowden" : 2016)[BD]
米国政府が世界中の市民に対する監視活動を行っている実態を告発した、情報機関の職員エドワード・スノーデンが、諜報活動の最前線で知り得た機密を、記者に暴露するに至った経緯を描くポリティカル・スリラー作品。
2013年6月3日。ドキュメンタリー映画作家のローラ・ポイトラスとガーディアン紙コラムニストのグレン・グリーンウォルドは、香港のザ・ミラ・ホテルで一人の内部告発者と落ち合う。その男は、米国が秘密裏に世界中の人々の通信や移動の形跡を監視している事実を公にし、その是非を問うべく、ローラとグレンに連絡を図ってきたのだった。男は二人を自らの滞在する部屋に招くと、携帯をレンジの中に入れて電波を遮蔽させる。男はグレンのインタビューに応じ、その様子をローラが撮影する。男は自らの素性について、エドワード・スノーデン(エド)、29歳、NSAの契約スタッフ、元CIA職員であり、9年間でシステムエンジニア、ソリューション・コンサルタント、CIAシニアアドバイザーなど、様々な情報関連の仕事に携わってきた事を明かす。程なく、ローラ、グレンに加え、ガーディアン紙の記者イーウェン・マカスキルも合流し、エドは自らが機密情報を暴露し、政府の告発を決意するに至った経緯を明らかにしていく。
2004年、エドはフォートベニングの特殊部隊養成施設で厳しい訓練に明け暮れていたが、深刻な疲労骨折に見舞われ、除隊を余儀なくされる。国に尽くす術を模索するエドは、情報分野を独学で極めた後、CIAへの入局を志願する。エドは高校中退にも関わらず、その能力の高さと国家への忠誠心の篤さを買われて、試験を見事パスする。2006年、エドはバージニア州CIA訓練センター「ザ・ヒル」で、指導教官コービンによる授業を受ける。初日、コービンは適正試験として、テロ攻撃を想定したインフラのバックアップ作成を新入局員達に課す。平均五時間を要するところ、エドは独創的な手法を用いて38分で終わらせ、その卓抜ぶりを発揮する。同じ頃、エドは出会い系サイトを通じて知り合った同世代のリンゼイとワシントンDCで初めて会う。保守派のエドとリベラル派のリンゼイとで政治信条は真逆だったが、二人は意気投合し、交際を始める。また、エドはザ・ヒルの教官ハンクと親しくなる。ハンクはかつて自らがNSAでトップの成績を誇り、重宝されたものの、テロリスト捜索の為に作成した最高傑作と自負するプログラムが、理由も説明されぬままに潰された事、その後、自らのプログラムがテロリストのみならず、あらゆる情報を収集できる様に改造され、転用されている事や、税金が軍需産業を潤わす為に使用されている事に気付き、法務部に問題を訴えると、ザ・ヒルに追いやられた事を明かす。それを受け、エドはコービンに無線諜報の対象が特定されているのか尋ねる。コービンは当然だと答える。コービンはテロは短期的な脅威に過ぎず、真の脅威は中国、ロシア、イランであり、サイバー攻撃に対抗する為にはエドの様な優秀な人材が必要だと説く。
2007年、エドはジュネーブの米国連代表部に赴任し、CIAのネットワーク・セキュリティの維持業務に従事する。エドはそこでNSA職員のガブリエルと出会い、NSAがPRISMで収集した世界中のあらゆる情報から、検索インターフェース「エックスキースコア」を用いる事で、一般市民を対象に通信の傍受や移動の監視を行っている事を知る。エドは現場での業務を続ける内に、組織への不審感を募らせ、赴任から二年でCIAを退職する。エドはリンゼイにその旨を伝え、個人的な信条の問題だと説く。リンゼイはそれに理解を示す。期せずして、オバマが大統領選に勝利する。エドは情報を隠す事無く公開する政治を理念に掲げるオバマに期待を寄せる。
2009年、エドはデルからNSAの初仕事として横田空軍基地に派遣され、エピック・シェルターの構築業務に従事する。エドはNSAが日本及びメキシコ、ドイツ、ブラジル、オーストリアなどの同盟国に対し、通信システムやインフラにマルウェアを秘密裏に仕込む事で、同盟関係が解消された後も優位に立てる様に計らっている事を知る。エドは米国がテロを口実にして、経済と社会を支配しており、自らが守っていたのが政府の覇権だった事に気付き、苦悩を募らせる。エドはオバマが公約を守り、システムに自己修正が図られる事を期待していたが、無線諜報業務に携わった際に、NSAがテロリストや国や企業のみならず、世界中の一市民の携帯電話をも監視している事を知って愕然とする。任期終了が近づいた夜、エドは些細な事をきっかけにリンゼイと口論に至り、仕事で溜まった鬱憤をぶつけてしまう。リンゼイはエドを置いて日本を去る。三ヶ月後、エドはメリーランド州のリンゼイの実家を訪ねる。エドは自らが変わると約束する事でリンゼイと和解し、二人は再び幸せな時間を取り戻す。
2011年、エドはCIAに民間の契約スタッフとして復帰し、コンサルタント業務を担う。エドは眠れなくなる程の疑念や不安から放たれたと思う度に、無視できない新事実を知る様になり、また、内部告発者がスパイ活動法に問われる姿を見て衝撃を受ける。ある時、エドはコービンと再会すると、世界中の監視への疑念を吐露する。コービンは自分達が世界の為に尽力してきたからこそ、繁栄と秩序を維持できているのだと自負し、大抵の米国人が自由より安全を望んでいると主張すると、秘密保持が防衛に、防衛が勝利に繋がるのだとエドに釘を刺す。エドはコービンにNSA副長官を紹介される。副長官は中国のサイバー攻撃に対抗する、ハワイでの業務への参加をエドに打診する。エドはハワイへ赴任する話をリンゼイに打ち明ける。リンゼイはようやく築いた生活の基盤を失う事に難色を示す。エドはリンゼイとの暮らしを優先する意向を示す。その矢先にエドはてんかんの発作に見舞われる。エドは医師に薬の服用とストレスの低減を強く促される。リンゼイはハワイでの生活が治療に資すると考え、ハワイへの赴任に同意する。
2012年、エドはオアフ島のNSA工作センターに赴任し、上司トレバーの下で中国の監視への対策業務に従事する。エドは奇遇にもセンターに勤務するガブリエルと再会する。エドはそこで自らの構築したエピック・シェルターが、アフガニスタンにおけるドローンによる敵地攻撃への支援に転用されている事を知る。程なく、エドは服薬を止めた事をリンゼイに打ち明け、業務の遂行に支障が出るのだと弁解する。リンゼイは命の方が大事だと反発する。エドは自らの業務に巨額の費用が投じられ、大勢の人々の生活が掛かっているのであり、それが他の誰にもできない自らの使命なのだと訴える。リンゼイはエドが治療に専念するつもりが無いと知って失望する。
NSA長官は公聴会でNSAによるデータ収集を否定する。その直後、エドはNSAが世界の国々の中で、米国内において最も通信を傍受している事に気付く。程なく、エドは心労が祟って、再びてんかんの発作に見舞われる。大事を免れたエドは、本土のコービンとビデオ通話で面談する。コービンはエドの業績を評価しながらも、エドの不穏な行動を指摘する。エドはNSA長官の偽証についてコービンに見解を求める。コービンは、かつてエドがリンゼイに嫉妬する余り、エックスキースコアを使用して交友関係を探った事実を指摘し、リンゼイに対して監視を行っている事を示唆する。エドは帰宅するや、リンゼイに全てが監視されている事を打ち明けると、危険な状況に巻き込まれない様にメリーランドの実家に戻る様に諭す。エドは行き先も、これから為そうとしている事も告げられぬまま、リンゼイと別れる。その後、エドはセンターがトレバーの作戦の不始末への対処に忙殺される隙に乗じて、膨大な機密情報をマイクロSDへコピーすると、それを愛用のルービックキューブの中に隠す。エドは窮地を救ってくれた同僚パトリックとガブリエルに、二度と会えない事を示唆し、体調不良を理由に早退すると、マイクロSDを首尾よくセンターの外へ持ち出す事に成功する。その後、エドは自らの知り得た事実を白日の下に曝す事を決意し、ローラ、グレンと連絡を取ったのだった。
エドは9年間に携わった業務で自らが知り得た事実の数々を語り終えると、政府が自分をスパイ活動法違反で告訴し、自らの主張がマスコミに取り上げられねば、最悪の場合、CIAにより違法な取り調べを受ける一方で、ローラ達も自分と接触した事が政府に知られ、追われる事になるだろうという見立てを示す。
2013年6月5日、ガーディアン紙・米国オフィスの編集者ジャナインによって、エドのもたらした情報に基づく最初の記事が電子版ガーディアンに掲載され、オバマ政権の下でNSAがベライゾン社の顧客の通話記録を収集しているという事実が暴露される。その後もNSAとFBIがネット企業9社のサーバーに直接侵入し、移動や連絡先について収集可能としている事実などが連日に渡って報じられ、他社も一斉に後追い報道を始める。オバマは政府のプログラムを明確に擁護する。6月9日、エド本人に対するインタビューの模様が放送される。自宅でそれを観たハンクは快哉を叫ぶ。米国政府は直ちにスパイ行為、窃盗、国有財産の横領の罪状でエドを告訴し、香港にエドの身柄を拘束するよう要求する。
6月10日、ザ・ミラ・ホテルに多数のマスコミが押しかける中、エドはグレンらが手配した人権派弁護士ティボの手引でホテルから脱出すると、ウィキリークスのスタッフの協力を得てモスクワへ飛び、政治亡命を要請する。エドは米国政府にパスポートを無効にされ、空港で立ち往生を余儀なくされるが、その後、三年間のモスクワでの居住許可を得る。エドはリンゼイをモスクワに呼び寄せ、二人での自由な生活を取り戻すと共に、基本的人権の侵害に対して、怖れる事無く糾弾し、是正させる必要性について、世界中の人々に啓蒙する活動を続ける。オバマはNSAによる大量データ収集を停止し、2015年には米国自由法に署名する運びとなる。