ジャック・オーディアール監督作「君と歩く世界」("De rouille et d'os" : 2012)[BD]
窮乏の末に姉夫妻の元で居候を始めた子連れで格闘に励む男と、事故で両脚を失ったシャチの調教師の女が意気投合し、人生を共に歩んでいく様を描くロマンティック・ドラマ作品。
失業により窮乏し、妻と別れたアリは、引き取った五歳の息子サムを連れて、南仏アンティーブに暮らす姉夫妻のアパートに身を寄せる。久しぶりに再会した姉アナはスーパーのレジ係として働く一方、夫リシャールはトラックで個人配送業を営んでおり、二人の生活に余裕は無く、アナは期限切れの食べ物を持ち帰るなどして節約に努めている事から、アリとサムはアパートの物置で居候生活を始める。気性が荒く不器用なアリは、これまでサムに無頓着だった為に扱いに手を焼く。サムはアナがブリーダーから預かっている二頭の犬を甚く気に入る。
アリは警備員の職歴や格闘技の経験を活かせるナイトクラブの用心棒の仕事に就く。初めて間もなく、アリは客同士の喧嘩の仲裁に入り、顔を殴られて怪我した女ステファニーを介抱し、ステファニーの車を運転して家まで送っていく。アリは一人で来ていたステファニーの格好が娼婦の様だと指摘する。アリは仲裁の際に腫れた拳の腫れを冷やす為に部屋に入れてもらい、掛かっている写真を見てステファニーがマリンランドのシャチの調教師だと知る。ステファニーの彼氏が不快感を露わにした為、アリは電話番号を残して帰る。ステファニーはアリに怖気づいた彼氏に別れを告げる。
程なく、ステファニーはショーの最中に、シャチが不規則な行動に及んだ為に生じた事故に巻き込まれ、両脚の膝から下を失う。ステファニーはショックの余り、人生に絶望し、病室へ見舞いに来た親族や親友達に対して心を閉ざし続ける。一方、アリはサムの世話もそこそこに、仕事の傍らジムでトレーニングに励みつつ、インストラクターの女とセフレの関係になる。
やがてアリはクラブの用心棒を辞め、夜警に就く。ある夜、サムはステファニーから連絡を受け、事故をテレビで知った事を伝えると、ステファニーが一人で暮らす障害者用の仮住まいの部屋を訪ねる。ステファニーはその部屋に数ヶ月篭っており、保険で金をやり繰りしている事を明かす。アリは生気を失って陰鬱な様子のステファニーを見かねて、ビーチへ連れ出すと、泳ぎに誘う。ステファニーは最初こそ拒むが、アリに触発されて、抱えてもらって海に入る。ステファニーは水を得た魚の様に生気を取り戻し、アリに謝意を示す。
アリは職場で知り合った警備関係者のマルシャルにボクシングとムエタイの経験を見込まれ、ニースで行われている格闘技の試合への参加を打診される。アリがそれをステファニーに話すと、ステファニーは同行する事を希望する。程なく、ステファニーは義足を作る為の準備を始める。一方、アナの元へブリーダーが犬を取りに来ると、サムはそれを見て泣き喚く。痺れを切らしたアリはサムを怒鳴りつけた末に押し倒し、サムは頭を打つ。アナはアリのサムへの接し方を強く非難する。
程なく、アリとステファニーはマルシャルに連れられ、ニースのスラムで催されている試合場を訪ねる。アリは何でもありの格闘技で二つの試合に勝利する。ステファニーは血腥い試合の様子に圧倒される。アリは報酬でサムに贈る玩具を買う、ステファニーはそこで初めてアリに子供がいる事を知る。アリはサムに玩具を与えて仲直りする一方、報酬からアナに借金と先々の生活費を支払う。
ある夜、マルシャルはアリに対し、自らの仕事が客ではなく、従業員を見張る為の隠しカメラの設置である事、それが従業員を解雇する理由となる証拠を見つける為であり、地域の全ての大型店に自らのカメラが設置されている事、それが違法行為であり、発覚すれば雇い主の支配人共々逮捕される事を明かし、アリをカメラの設置に手伝わせる。
ステファニーは完成した義足を着用し始め、それをアリに披露する。ステファニーは事故の前は男達を誘惑するのが好きだった事を明かすと、今は何も無く、感覚をも忘れてしまったと説く。アリはステファニーをセックスに誘う。ステファニーは戸惑いながらもそれに応じるが、唇へのキスを拒む。ステファニーは新しい体験に満足する。アリはセックスを希望する際に連絡するよう促す。程なく、ステファニーは事故以来初めてマリンランドを訪ね、同僚達と対面する。アリはステファニーをアパートに招き、アナとサムに紹介する。ステファニーは義足に興味を示すサムに触れさせる。
アリはトレーニングを重ね、再びニースの試合に挑む。アリは強力な相手に苦戦を強いられるが、ステファニーが義足を晒した姿を励みにして勝利する。その夜、アリはステファニーとマルシャル、その仲間達を連れてクラブへ遊びに行く。アリはステファニーを踊りに誘うが、ステファニーは義足を晒すのを嫌い、拒む。アリはステファニーを一人残したまま、そこで知り合った女を連れて帰る。ステファニーは一人で酒を呷っている内に男にナンパされるが、男が義足を見て引くと、ステファニーは憤慨し、男を杖でしばき倒す。翌日、ステファニーはビーチでアリと落ち合うと、置き去りにした事を詰る。ステファニーは自分が友達なのか彼女なのかアリに問い質すと、関係を続けるのなら思いやりが必要だと諭す。アリは意に介さず、セックスに誘う。
程なく、スーパーの従業員に隠しカメラの存在が発覚し、マルシャルとアリは従業員達に囲まれ、非難される。アリはマルシャルに命じられ、機材の回収を行っているところを従業員の女に撮影される。その後、マルシャルはステファニーに数ヶ月の間、姿を消す意向を伝えると、アリの信頼の厚いステファニーに自分の代わりにアリの試合を仕切るよう依頼する。ステファニーはそれに応じ、中古車を購入すると、両脚にタトゥーを入れ、荒々しい男達の世界に入る覚悟を決める。ステファニーはアリの試合に同行し、交渉役を務める一方、アリとはより深い関係を築き、唇へのキスを許す。
アナは勤め先の倉庫から期限切れの商品を持ち帰る様子が隠しカメラに捉えられていた為に解雇される。その直後、アナは同僚から機材を回収するアリの様子を撮った画像を見せてもらう。アナは帰宅すると、アリのせいで解雇された事を報せる。アリは絶句する。アナは面倒を見てやったにも関わらず、経営者の味方をして恩を仇で返す様な真似に及んだアリを激しく非難し、引っ叩く。リシャールはアリに出ていくよう命じる。アリはアパートにサムを置いたまま、ステファニーには何も知らせず、行方をくらます。
数ヶ月後、試合を控えたアリは北部の施設でボクシングの合宿に参加していた。リシャールはアリから連絡を受け、トラックにサムを乗せてやってくる。リシャールはアナが学食のパートで楽しく働いている事を伝えると、サムをアリに預け、午後七時に迎えに来ると告げて一旦引き上げる。アリは久しぶりに再会したサムと雪深い森を駆け回って遊ぶ。その最中、凍結した湖上でアリが僅かに目を離した隙に、サムは誤って氷の裂け目から水中に転落する。アリは厚い氷の下に沈んだサムを見つけると、拳が潰れる程殴って氷を割ってサムを助け出し、直ちに病院に担ぎ込む。サムは数時間の昏睡状態を経て、意識を取り戻す。病院に駆けつけたリシャールの携帯にステファニーから連絡が入り、アリはサムの無事を伝える。ステファニーはそれを聞いて電話を切ろうとするが、アリは危うくサムを失いかけた恐怖を吐露し、自分を見捨てないよう請う。ステファニーは見捨てないと告げる。
更に数ヶ月後、アリは骨の回復でより強くなった拳を奇貨とし、ワルシャワで行われた試合で勝利を収める。その傍にはサムとステファニーがおり、アリが二人と人生を共にし、ボクシングで身を立てていく未来が示唆される。