ジェームズ・ポンソルト監督作「人生はローリングストーン」("The End of the Tour" : 2015)[DVD]
記者が12年前に数日間に渡って密着取材した小説家の訃報を受け、人生に大きな影響を与えたその出会いから別れまでの経緯を回想する様を描くドラマ作品。
2008年、作家デヴィッド・リプスキーは、大著"Infinite Jest"で脚光を浴びた小説家デヴィッド・フォスター・ウォレスが自殺したとの報せを受ける。かつて数日に渡ってウォレスのブックツアーに同行取材し、ローリングストーン誌で記事を発表したリプスキーは、ラジオ番組で弔文を詠み、ウォレスを悼む。その後、リプスキーは自宅に長らく眠っていた当時の取材テープを引っ張り出して聴く。
12年前、ニューヨーク。ローリングストーン誌の記者として働く作家リプスキーは、発売されて間もない"Infinite Jest"がベストセラーとなり、批評家に高く評価されている事を知り、1000ページを超えるその大著に挑む。読了後、甚く感銘を受けたリプスキーは、ローリングストーン誌の上司に、ウォレスがヘミングウェイかピンチョン並の作家だと説き、イリノイ州の大学で教鞭を執るウォレスのブックツアーに同行して取材を行い、インタビューを記事として発表する事を提案する。上司に企画が認められると、リプスキーは同棲中の恋人サラを残してニューヨークを出発する。
イリノイ州へと降り立ったリプスキーは、レンタカーでウォレスが住む雪深い田舎町ブルーミントン・ノーマルへ向かう。二匹の犬と暮らす独り身のウォレスは、リプスキーを歓迎する。リプスキーはウォレスの許可を得てテープレコーダーで録音を始める。リプスキーはウォレスと雑談を交わしながら、大学の授業に同行し、その様子を取材する。夕方、二人はレストランに寄る。リプスキーは国中で最も評価の高い作家の気分について記事に著す方針を伝えると、自らもフィクション作家だと明かす。二人は他愛も無い話を交えながら打ち解けていく。その後、二人は大量のスナックやジュースなどを会社の経費で購入して家に戻る。
ウォレスはテレビをつい見続けてしまう為に所持していない事を明かす。リプスキーはテレビを持たない彼女と同棲を始めて最初は辛かったが、その彼女がロサンゼルスに引っ越して別れ、次の彼女ができたものの、前の彼女と復縁した事で複雑な状況に陥っている事を明かす。ウォレスは長らく恋人がいない事を明かすと、結婚して成功の喜びを分かち合い、人生を共有できる真の理解者を得たかったと悔悟を示す。リプスキーは自らが結婚していないのは人選が難しいからだと説く。二人は夜更けまで語らい合う。リプスキーは最寄りのモーテルに泊まる意向を示すが、ウォレスは自らの寝室をリプスキーに貸す。
翌朝、二人はブックツアーの最終地ミネアポリスへと出発する。道中、二人は互いの両親について語る。リプスキーはウォレスの生い立ちを知る為に、両親への取材について打診するが、ウォレスはそれを拒む。二人はミネアポリス行きの飛行機に乗る。リプスキーはウォレスが20代後半に入院していた件に言及する。ウォレスはうつ病を患った時期について、生きる糧が書く事だけで逃げ場が無く、人生に絶望して深酒し、行きずりの女と寝る暮らしを続けていた事を明かす。
ミネアポリスに着くと、二人はエスコートのパティに迎えられ、その足でホテルにチェックインする。リプスキーは電話で上司からウォレスに噂されるヘロイン疑惑について聞くよう急かされる。リプスキーはウォレスが朗読会を行う書店へ同行する。ウォレスは友人のジュリーと、大学院で一緒だったベッツィをリプスキーに紹介する。ベッツィはリプスキーに自らが詩人だと明かす。ウォレスは朗読会とサイン会をこなす。その後、ウォレスとリプスキーは、ジュリー、ベッツィとレストランに寄って談笑し、ホテルに戻る。
翌朝、リプスキーはウォレスのラジオ局でのインタビュー収録に同行する。その後、二人はモールに出かける。ウォレスは"Infinite Jest"について、現代のアメリカ人の生き方を書いており、孤独を描いていて暗い事から、人生に対する期待が外れた空虚感を埋めて欲しいと願っている事を明かす。二人はジュリー、ベッツィと合流すると、新作映画「ブロークン・アロー」を観る。その後、一同はジュリーの家に寄り、テレビを観ながら談笑する。ベッツィは自らの詩が掲載された書評をリプスキーに手渡す。その際、リプスキーはウォレスについて聞きたい事があった時に備えてジュリーにメアドを教えてもらう。それを目にしたウォレスは、リプスキーが口説いていたと誤解して気分を害し、かつてジュリーと付き合っていた事を明かすと、ジュリーに近づかぬよう命じる。二人の関係はたちまち険悪となる。二人は口を利かぬままホテルに戻る。
翌日になってもそれは変わらず、二人はイリノイ州に戻る。リプスキーは車を止めた場所が分からず右往左往する。ウォレスはリプスキーの至らなさを詰り、リプスキーがそれに反発した事から、二人は口論を始める。リプスキーはウォレスが人より賢いと思っており、常に見下した様な態度を取っていると詰る。ウォレスは自らが別人を演じている様な言われように不快感を示すと、平凡な自分の型を守るのに必死であり、偽ってなどいないと反駁する。更にウォレスは、三週間のブックツアーの終わりに至り、大勢の人と会い、常に気遣いをさせられる内に、脚光に溺れるのを気に入ってしまう事への怖れを吐露すると、それにはヘロインの様な中毒性があるのだと説く。
ウォレスの家に戻ると、リプスキーはウォレスが著書の中で何度も言及しているヘロイン疑惑について尋ねる。ウォレスはそれが自伝では無く隠喩に過ぎないと答えると、うつ病はヘロインとは無関係で、感覚を無くす為に酒に溺れ、人生に疲れ果ててケリを着けようとし、その結果、病院で自殺しないよう監視されたいたのが実相だと明かす。やや間を置いた後、ウォレスはその原因が自らの究極のアメリカ人的生き方のせいだと説き、心を病む事の辛さについて、人生の命題が全て偽りだと悟ったような空虚感だと形容する。
翌朝、リプスキーはウォレスの犬の散歩に同行する。二人は朝日に照らされた穏やかで美しい雪景色を眺める。朝食の後、ウォレスは二年前から嵌っているというダンスクラブの連絡を受けて、会場となる教会へ出かける約束をすると、リプスキーの出発前にメアドを交換する意向を示す。ウォレスは自分の車を出す準備に向かう。その間、リプスキーは屋内の様子を細部に至るまで口頭で描写してテープに吹き込む。その後、リプスキーは持参していた自著"The Art Fair"に住所とメアドを記した上で、ウォレスに手渡す。ウォレスは数年後にまた会って話す事を希望すると、人から評価される程に自分の才能を疑ってしまう性分だと明かす。リプスキーはウォレスと握手をして別れると、レンタカーに乗って帰路につく。ニューヨークに戻って間もなく、ウォレスの家に忘れていった靴がリプスキーの元に届く。
リプスキーはテープを聴きながら落涙する。その後、当時の回想録"Although of Course You End Up Becoming Yourself"を著したリプスキーは、ブックツアーでウォレスと過ごした数日を述懐すると、本が孤独を遮るものであり、ウォレスと過ごした日々が自分に生きる道を思い出させ、孤独を感じなくさせたのだと説く。最後に、在りし日のウォレスが楽しそうにダンスに興じるシーンが挿入される。