チラ裏レベルの人生記(仮)

自分が自分で無くなった時に、自分を知る為の唯一の手掛かりを綴る、極めて個人的な私信。チラ裏レベルの今日という日を忘れないように。6年目。

怒り

李相日監督作「怒り」(2016)[BD]

都内で発生したある夫妻殺人事件の容疑者の行方を巡って、千葉、東京、沖縄を舞台に繰り広げられる人情の機微を描くミステリー・ドラマ作品。

 

 事件編を中心に千葉編、東京編、沖縄編が交錯しながら進行する。

【事件編】

七月。八王子の住宅街の民家で、そこに住む尾木夫妻の遺体が発見される。警視庁の刑事、南條と北見は、早速現場に駆け付ける。犯人は刺殺した夫妻の遺体を浴室に置いたままシャワーを浴びている事、また血だらけの屋内を歩き回り、食料品を食べ散らかしている事、ドアの一つに凶器の包丁で「怒」の血文字を刻みつけている事から、その異常性が強く示唆される。

一年後、警察は事件を公開捜査に切り替え、指紋や遺留品を元に30歳の山神を指名手配すると共に、変装を施した山神の手配写真を新たに公開する。間もなく、南條と北見は山神のアパートを割り出し、捜索に訪れる。汚部屋と化した室内には、社会への恨み辛みを書き殴った紙の数々が貼り付けられており、南條達は山神が現場に残した「怒」の真意の一端に触れる。

山神が秋に新潟で整形手術を受けていた事が判明し、警察は新たに整形後の山神の写真と、病院のエレベーターの監視カメラの映像を公開する。その後、別件の傷害で逮捕された早川が、八王子の事件について話を始める。その報せを受けた南條と北見は、直ちに早川に対する取り調べを行う。早川は事件後に大阪の土木現場で山神と思われる男と一緒に働いていた事を明かし、一見普通の容貌をしているが、犯人だと確信するに至ったその男から聞いた話について供述する。

男は日雇いの土方仕事があると聞いて、派遣会社から指示された郊外の住宅街へ向かった。しかし、汗だくになっていくら歩いて現場は見つからず、男は派遣会社に連絡した。応対した担当はそれが先週の現場だと告げると、誤りもせずに電話を切った。男はその担当が絶対に笑っていたと考えた。疲れきった男がある民家の前に座り込んだところ、そこに住む女が帰宅した。男は迷っただけだと告げて、立ち去ろうとしたが、女は男に気を遣って冷たい茶を差し入れた。男は茶を飲み干した後、女を殺し、浴槽に入れたのだという。

早川は、男が他人を見下す事で平常心を保っていたのに、女の厚意は男を虫けら扱いするに等しく、それが殺意に繋がったのだと推察する。早川によれば、男は女を浴槽に入れる事で生き返ると考えたらしく、一時間もその場に留まった後、女の夫が帰宅したのだという。

 

【千葉編】

千葉の小さな港町で漁師を営む槙洋平は、娘の愛子と暮らしていた。愛子が普通とはやや異なる一面を持つ為に、洋平は町に住む人々から陰口を叩かれ、その事に苦悩を募らせていた。ある時、愛子は家出をする。それから三ヶ月後、洋平はNPOを通じて、愛子が歌舞伎町の風俗店で働いている事を知る。洋平はその店を訪ね、抜け殻の様になって倒れている愛子を見つけると、自宅に連れ帰る。

愛子が家出している間に、洋平の元にどこからともなく田代哲也という男が舞い込んできて、バイトとして働いていた。素性も良く分からず、影のある寡黙な男だったが、愛子はそんな田代に、洋平の分のついでに弁当を作ってやる意向を示し、二人は次第に親密な関係になる。二人の交際を知った洋平は、田代に正社員になる事を打診するが、田代はバイトのままでいる事を希望する。洋平は田代にそれとなく歌舞伎町について話を向ける。田代は愛子の家出の件について耳に入っている事を明かす。洋平は己の不甲斐なさを露わにし、愛子の不遇を憂うと、愛子が人と少し違うのだと説く。田代は愛子と一緒にいると安らぐ事を明かす。

愛子は田代とデートを重ね、愛を育む内に、実家から程近い場所に手頃なアパートを見つけ、そこで同棲する事を希望する。洋平は愛子の田代への気持ちを知り、理解を示す。洋平はそれを機に田代の素性を明らかにすべく、田代が千葉に来る前に二年間住み込みで働いていたという、軽井沢のペンションを訪ね、雇い主に話を聞く。

洋平は軽井沢から日帰りで戻るや否や、愛子を呼び出す。愛子は田代が洋平に信じてもらえて喜んでいる事を報せる。洋平はペンションで田代が高橋という名で働いていた事、二年というのも嘘だった事を明かすと、田代について知っている事を問い質す。愛子は田代から聞いた悲痛な事情を明かす。田代が大学生の頃に、父が仕事で借金を負ったものの返済できなくなった。その債権はヤクザに売られ、田代の両親は自殺した。その後も田代は返済を免れず、偽名を使って逃げるしか無かったのだという。愛子は誰も助けてくれない気持ちに理解を示し、普通の人と幸せになれるわけがない自分でも、田代なら一緒にいてくれるのだと説き、助けを求める。洋平は愛子の気持ちを汲んで、同棲を認める。

愛子を送り出した直後、洋平は八王子事件の容疑者の整形後の映像を見て、その特徴が田代に似ている事に気付く。疑心暗鬼に駆られた洋平は姪の明日香に相談し、田代が殺人犯の可能性について伝える。後日、明日香は洋平の心配について愛子に伝えた事を明かす。明日香によれば、愛子は八王子事件の頃の事、軽井沢の事、それ以前の事も全て田代から聞いており、信頼しあっている二人なら心配は無用だという。程なく、洋平は愛子が町の掲示板に貼られた山神の手配写真を凝視する姿を目の当たりにする。洋平は明日香に話した事を愛子に詫びる。愛子はこんな自分だから心配するのかと問い質し、洋平は返答に窮する。また、明日香は洋平が親として、愛子が幸せになれるわけがないと思っているのでは無いか、愛子を好きになるのはろくでもない奴だと決めつけているのではないかと詰問する。

夜、土砂降りの雨の中、愛子がアパートから洋平の元へやってくる。愛子は動転しながら、警察に田代が犯人かも知れないと通報し、田代が戻って来ない事を明かす。程なく、愛子のアパートに警察が捜査に訪れ、北見が立ち会う。愛子は通報する前に田代に電話をし、人を殺して逃げているのでないなら帰ってきて欲しいと伝えたものの、田代は戻らず、電話も通じなくなった事、田代が出かける前に自らの貯金40万円をバッグに入れておいた事を洋平に明かす。指紋鑑定の結果、田代の本名は柳本であり、山神とは別人だと判明する。愛子はそれを聞いて慟哭する。洋平は愛子を只々抱き締める。

山神の死亡が報じられて間もなく、愛子の携帯に田代から連絡が入る。田代は東京駅にいる事を明かすと、洋平に対して深く謝意を示し、迷惑をかけるつもりは無いと説く。洋平は田代に非が無く、一人で抱え込む必要も無いと諭すと、なんでも力になる意向を示し、戻ってくる様に促す。愛子は今度こそ守ると誓うと、田代を東京駅まで迎えに行く。


【東京編】

都内の会社員でゲイの藤田優馬は、勤勉かつ社交的な性格で、公私共に充実した生活を送る一方、末期がんを患ってホスピスに入院している母の貴子の事を心配していた。ある夜、優馬は二丁目のゲイタウンで、影のある大西直人と出会い、肉体関係を持つ。優馬は自分とは正反対の、寡黙で飾りっ気のない直人を気に入り、食事に誘うと、素性について尋ねる。寡黙な直人は素性を詳らかにせず、東京に来たばかりで転々としており、職探しをしているとだけ答える。優馬は自らが暮らす高級マンションに直人を居候させる。直人は自分を信じてくれる優馬に対し、謝意を示す。気脈を通じた二人は、互いに安らぎを覚える様になり、より深い関係を築いていく。

直人は貴子の容態を気遣い、ホスピスに同行する。優馬は直人を友人として貴子に紹介する。以後、直人は一人でホスピスに通い、貴子の話し相手になるなどの世話を焼く様になる。ある時、貴子は優馬に対して、大切なものが多過ぎるのだと諭す。

程なく、貴子は容態の急変により死去し、優馬はその最期を看取る。葬儀の後、優馬は直人を連れて、葉山の霊園へ墓地の選定に訪れる。優馬は直人を親族や友人にどう説明すべきか分からなかった為に、葬儀に来ないように頼んだ事を詫びる。直人はそれに理解を示し、分かろうとしない人にはいくら説明しても伝わらないものだと説く。優馬は直人に、一緒に墓に入るかと冗談交じりに尋ねる。直人はそれを好意的に受け止める。

ある日、優馬は仕事帰りに、銀座のカフェで垢抜けた若い女と談笑する直人を偶然目の当たりにする。翌日、優馬はそれを直人に問い質す。直人は言及を避ける。優馬は直人が実はバイでは無いか、或いは自分を裏切っているのでは無いかと疑義を呈すと、どうであっても受け止め方は自分次第だと嘆息する。

その後、直人は私物をマンションに残したまま戻らず、音信不通となる。間もなく、山神の整形後の画像が公表される。優馬は山神の特徴と示された、右頬に三つ並んだほくろが、直人と酷似している事を知り、直人が容疑者の可能性を疑い始める。期せずして、優馬の携帯に駒沢警察署が連絡を入れ、直人について尋ねる。優馬は動転して関知していない旨伝えると、直人の私物を全て廃棄する。

後日、優馬は銀座のカフェでかつて直人と一緒にいた女を偶然見つけ、直人の所在について尋ねる。その女、薫は、優馬に落ち着く様に促すと、直人について語り始める。直人と薫は同じ施設で育ち、兄妹の様な関係だった。直人は昔から心臓が悪く、手術ではどうにもならない為に、薬で平常を保っていたが、公園の茂みに倒れているのを発見された。生前の直人は、隠れて生きていくしかないと思っていたのに、堂々としている優馬と一緒にいると自分も強くなれる気がするのだと、いつも嬉しそうに優馬の話をしていたのだという。優馬は絶句し、自分は直人を信じてやれず、逃げたのだと悔やむ。薫は生前の直人が語った言葉を紹介する。「薫は大切なものが多すぎる、本当に大切なものは増えるのでは無く、減っていくのだ。自分は優馬に出会ってそれに気付いた。」優馬は慟哭し、店を後にすると、葉山の墓地について語り合った時の事を回想する。直人は「あそこに入れるのなら死ぬのも悪くない、一緒の墓は無理でも、隣なら良いよな…」と呟いたのだった。


【沖縄編】

小宮山泉は、男と問題を起こした母に付き添って沖縄の波留間に移住する。泉は同世代の友人、知念辰哉の操縦するボートに乗って、観光客も寄り付かない離れ小島の星島に遊びに行く。泉は一人で島内を散策する途中で、廃屋に住み着いた放浪者の田中信吾と遭遇する。田中は、ここにいる事を誰にも言わないで欲しいと泉に請う。田中のざっくばらんとした人柄に好感を抱いた泉は、星島に通う様になる。

土曜日、辰哉は泉を那覇へ映画に誘う。辰哉は、母と一緒に民宿を営む父が、仕事そっちのけで基地建設反対運動に身を投じている事への不快感を露わにし、運動で何かが変わるという考えに疑義を呈する。夜、二人は商店街を彷徨く田中と偶然出会い、一緒に飲みに行く。その席で泉は沖縄に来た経緯について明かす。田中は泉の母が女手一つで泉を育て上げた事を称えるが、泉は母の様な女になる事を嫌うと同時に、今更何かを変えられるわけでは無いと諦観する。

泉は泥酔した辰哉とフェリーに乗って帰る意向を示し、店の前で田中と別れる。辰哉は泉が目を離した隙にいなくなる。泉は辰哉を探して商店街を歩き回る内に、米兵達が屯する盛り場に迷い込む。間もなく、泉は人気のない公園で米兵二人に捕らえられ、レイプされる。辰哉はそれを目の当たりにするも、怖気づいて何も出来ずに座り込む。誰かが「ポリス!」と叫ぶと、米兵達は咄嗟に逃げ出す。辰哉は泉の元へ駆け寄り、通報しようとする。泉は誰にも言わないで欲しいと哀願する。泉は辰哉が口にした反対運動に対する言葉を引いて、無力な自分が戦ってもどうにもならないのだという諦観を示す。

泉は泣き寝入りし、家に篭もる様になる。辰哉は星島を訪ねると、泉の件を伏せて田中と会う。田中は辰哉の泉に対する好意を推し量り、泉が通っていたのは新しい環境になれる為の息抜きの様なものだと説く。その後、田中はその器用さを買われて、辰哉の民宿で働き始める。田中は辰哉が思い詰めている事に気付く。辰哉は知人の話と称して、米兵のレイプ事件に遭った事を明かし、自分が何もしてやれない歯痒さを露わにする。田中は被害者に同情すると、いつでも辰哉の味方になると励ます。

ある日、田中は突然人が変わった様に悪態をつき始め、辰哉を困惑させる。田中は自分ではどうにもならない事が嫌になったのだと説くと、実は泉が米兵にレイプされる場に居合わせた事を明かす。田中は泉を助けねばと思いながらも腰が抜けて動けず、「ポリス」と叫んだ後、米兵二人を追いかけたものの、二人が基地に逃げ込んだ為、泉の元に戻るとそこに辰哉がいたのだという。田中は泉が哀願した通り、誰にも言っていない事を明かし、これからも言わないと誓う。辰哉は泉を那覇に誘った事を心から悔やむが、田中は辰哉のせいでは無いと諭す。辰哉は泉の為に何をしてやれるのか教えて欲しいと請う。田中は一緒に考えようと宥める。

その夜、田中は突然錯乱し、ホテルの厨房で大暴れした後、嵐の中、荷物を引っ提げて逃げ出す。程なく、辰哉は再び星島を訪ねる。辰哉は廃屋の壁に、削って書き殴られた「怒」の文字を目の当たりにする。その傍で、呻き声を上げながら自分の顔をハサミで切りつけている田中は、辰哉に気付くと、他人が自分に対してどんな感情を抱くのか一目で分かるのだと説く。辰哉は呆然とその場に立ち尽くす。田中は辰哉に自分を信じられる理由を問い質す。辰哉は田中が味方になると言ったからだと答える。田中は冷酷無比な本性を露わにすると、米兵二人が泉を付け狙っていたのを最初から気付いていた事、波留間の家に篭もりっきりの泉の様子を観察に行っている事を明かし、泉が自殺すれば「ウケる」と嘲笑う。辰哉は愕然とする。田中は辰哉に掴みかかった後、突き放すと、逆立ちして頭に血を巡らせるという奇行に及ぶ。辰哉は田中が放ったハサミを手に取ると、田中の腹に突き刺す。田中は日没前の浜辺まで歩いていき、そこで絶命する。辰哉は田中が壁に刻みつけた、レイプされた泉を嘲弄する文言を、泣きながら石で擦って消す。

田中の死体が発見されてから一週間後。逮捕された辰哉は、信じていなかったから許せなかったのだと供述する。泉は一人でボートに乗って星島を訪ねると、廃屋で辰哉が消した文言を見つけ、辰哉の心情に触れる。泉はその足で浜辺に向かうと、全てを振り払う様に海に向かって絶叫する。

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