J・C・チャンダー監督作「アメリカン・ドリーマー 理想の代償」("A Most Violent Year" : 2014)[DVD]
治安の悪化が深刻化する街で会社を急成長させた実業家が、度重なる妨害工作に遭いながらも、理想の実現に邁進する様を描くクライム・ドラマ作品。
1981年、凶悪犯罪が多発するニューヨーク市。オイルの輸入・販売を手掛けるスタンダード・ヒーティング・オイル社を営むアベルは、野心家でありながらカタギの公正な商売を貫き、会社を急成長させ、同業他社を圧倒する様になる。更なる事業拡大を企図するアベルは、手持ち資金のほぼ全てを注ぎ込む事で、ターミナルに要する湾岸の広大な土地の購入契約に漕ぎ着ける。アベルは所有者のジョゼフに手付金を支払い、互いに30日以内の契約履行が課せられる。その一方で、灯油配送トラックの襲撃が相次いでおり、新たに従業員ジュリアンの運転するトラックが二人組の強盗の襲撃に遭う。ジュリアンは顔を負傷し、トラックは盗まれる。アベルの妻アナは、ギャングの父や兄への相談を提案するが、アベルはそれを拒み、検事に相談する意向を示す。アナはこれが戦争だと説くが、アベルはそれを否定する。アベルは病室にジュリアンを見舞うと、強盗が自分で人生を切り開けない臆病者だと説き、ジュリアンを労る。程なく、灯油が全て抜き取られた状態で放置されたトラックが見つかる。
アベルは側近であり理解者でもあるアンドリューと共に、ローレンス検事の事務所へ赴き、目下の情勢が緊急事態だと訴え、助けを求める。ローレンスはそれが警察の管轄だと説くと、殺人や強姦がかつてないほど多発している時代だと素っ気ない態度を取る。運転手達の身を案じるアベルは、業界を長年調査しているローレンスなら犯人の見当が付いているのでは無いかと問い質す。ローレンスは業界では盗みが常態化しており、一連の襲撃はその手法が変化しただけだと説く。アベルはローレンスの街や業界を救おうとする努力に敬意を示すと、自分は高潔であり、同じ側に立っているはずだと主張する。ローレンスはそれを否定すると、アベルの会社が法を破っており、その証拠がある事から、来週にも訴訟を起こすつもりだと明かす。アベルはそれが間違いだと指摘し、あらゆる手段でそれを証明すると告げる。アンドリューは、まだ訴状について何も分かっていない事から、過剰反応すべきでは無いとアベルを諭す。アベルは財務を担うアナに経緯を伝え、問題の有無を尋ねる。アナは業界の慣習に全て従っていると主張し、検察の動きを訝る。
程なく、アベルはアナ、娘3人と共に、新築の邸宅に入居する。初めての夜、飼い犬が人の気配を察知し、玄関の方へ駆け出す。アベルは様子を確かめに向かうと、玄関を出た直後に現れた男に殴られる。アベルは逃走する男をバット片手に追いかけるが、裸足を雪中の茂みに突っ込んで負傷し、取り逃す。男の素性や意図が分からず、アベルとアナは物盗りだと考え、対処する事を決める。
アベルは新入社員達に対し、客に真摯な態度で臨み、契約に漕ぎ着ける営業スキルを披露する。ジュリアンが退院日を迎え、アベルはジュリアンを自宅に送り届けると、必要な物があれば言うように慮る。ジュリアンは営業への異動を願い出るが、アベルはそれを拒み、運転手を続ける様に促す。
アナは、自宅前で一番幼い娘キャサリンが装填された実銃を手にして遊んでいるのを発見し、取り上げる。キャサリンは玄関横の茂みで拾ったと明かす。アナはその銃を持ってアベルのオフィスに赴き、事情を伝えると、単なる物盗りでは無かったのだと憤慨する。アベルは自分が対処すると説き、銃を受け取る。アナはこれまで自分達が受けてきた警告やいたずらとはわけが違うと説き、自分が関わって欲しくなければ早く対処する様にと促す。そこにアンドリューがやってきて、明日にも検察が起訴するつもりであり、アベル達が収益を過少申告したと主張している事を伝えると、一気に大物になった事で目立ち過ぎたのだと説く。アベルは、アナの父親の会社を買収した時まで遡って、帳簿を洗い直す様にアナに命じる。アンドリューは銀行の協力を得るべく、晩餐の席を用意した事を伝え、二人が出席した上で率直に全てを話す様に促す。
アベルは運転手組合の組合長ビルに呼び出される。ビルは運転手に銃を携帯させ、自衛させる様に要請するが、アベルはそれを明確に拒否する。ビルはこのままでは危険な時代に対応できないと訴え、近く結論を出す意向を示す。その後、ビルはアンドリューとも個別に会い、自衛の為の武装を改めて強く主張する。
アベルは同業でありながら、闇社会とも繋がるピーターに、事件の黒幕について関知していないか尋ねる。ギャングの父を持つピーターは、子供の頃にアベルが経験した様な危険な目に遭い、要塞の様な家に暮らす様になったが、その後、ギャングと袂を分かち、自らの手で成功を収めた事を明かす。アベルはギャングと関わる危うい生き方を拒絶する。
その後、再びトラックが襲撃される。アンドリューは運転手が危険に曝されるだけでなく、会社の財政にも大きな影響が出ていると説き、ビルの要請を受け入れなければ、運転手が去り、廃業してしまうと説く。アベルは運転手が誰かを撃てば、全てを失う事になり、それこそ終わりだと反論する。
その夜、アベルはアナと共に、銀行のアーサーとの会食に臨み、会社の置かれている立場を説明する。アベルはローレンスが二年間、業界全体を調査しているにも関わらず、自分達だけが訴えられるのは馬鹿げていると指摘すると、公正な事業を展開し、業界の慣習にも従っていると説き、それを必ず証明する決意を示す。銀行側は訴訟が片付くまで、土地の契約を延期すべきだと促すが、アベルはターミナルの取得が会社の今後にとっていかに必要不可欠かを説く。アーサーはこれからもアベルの味方だと明言する。
アベルとアナは、事業の見通しが明るくなった事から、安心して帰路に就く。道中、車に鹿が衝突し、瀕死の状態に陥る。アナはアベルに安楽死させる様に促すが、まごつくアベルの様子を見かね、忍ばせていた拳銃で鹿の息の根を止める。帰宅後、アベルはアナに銃について問い質す。アナはそれが家族を守る為の自衛措置だと説き、アベルを腰抜けだと詰る。アベルは、アナが許可証も無く、銃を持ち歩いている事を非難し、銃を取り上げると、今の暮らしの全てを自分が与えたのだと説き、こんな銃を使うのは娼婦だけだと痛罵する。憤慨したアナはアベルの顔を引っ叩くが、アベルはこの家に銃は要らないと説き伏せる。
翌日、アベル達は自宅に近隣の親子達を招いて、娘の誕生日パーティを開く。その最中、ローレンスが警察を引き連れて家宅捜索にやってくる。アベルはアナに時間稼ぎをさせ、その間にアナの調査の済んでいない財務資料を屋外へ持ち出す。アナは客達を丁重に帰らせると、ローレンスに対し、アベルが高潔であり、やましいところが無いと説き、もう少し敬意を払うべきであり、このやり方は侮辱だと詰る。
ジュリアンが復職し、初の配達に向かう事になる。ジュリアンはアベルに不安を訴えるが、アベルは成功して立派な人間になるには決して動じない事だと説き、前に進む事で強くなれるのだと諭す。一方、営業のアレックスが初めて客先に赴くが、そこで罠にかかり、昏倒させられた上に拉致され、人気の無い場所に置き去りにされる。
ジュリアンは出発早々、再び以前と同じ二人組の強盗に襲撃される。ジュリアンは忍ばせていた拳銃で威嚇するが、衝動的に発砲した事で撃ち合いとなる。そこにパトカーが駆け付け、強盗が逃走すると、ジュリアンも二人の後を追って逃げ出す。その報せを受けたアベルはローレンスの元に赴き、会社は関与しておらず、運転手に対して警告してきたと弁明する。ローレンスは検察がどんな事でも全て利用し、この一件も数ある証拠の一つになると明かすと、業界の浄化が自分に課せられた仕事だと説き、ローレンスを見つけ出し、連れて来る様に命じる。
社に戻ったアベルをアーサーが待ち受け、融資の打ち切りを通告する。アベルは融資の確約があるからこそ、土地の手付金を払ったのだと説くが、アーサーはアベルが脱税や利益隠しなどの違法行為に絡む重大な訴訟を抱えており、更に運転手に銃を持たせて、撃ち合いを招いた事を指摘する。アベルはそれらが嘘だと反論するが、アーサーはもう為す術は無いと匙を投げる。そこに負傷したアレックスが戻ってくる。アベルは契約履行まであと二日というところで、銀行に逃げられた事をアナに明かすと、なんとか手当する意向を示す。
翌日、アベルはジュリアンの自宅を訪ね、妻ルイサにジュリアンの居場所を問い質す。アベルは誰でも時に過ちを犯すが、他者を傷つける弱さは許されないと説き、正しい行いをするなら力になれると諭す。その直後、アベルは屋内に潜んでいたジュリアンを見つける。アベルは逃走を図ったジュリアンを、アンドリューと共に確保し、警察に出頭させようとする。アンドリューは20年かけた会社の全てが台無しになりかねないと説き、ジュリアンは銃を捨てた事を明かす。アンドリューは解雇を言い渡すと、会社から弁護士を紹介する意向を示す。ジュリアンは怖かったのだと弁明するが、アベルは失敗する事を何より恐れてきたと明かす。ジュリアンは自分は強くないと訴えた後、警察に引き渡される直前で再び逃走を図り、行方をくらます。
アベルはかつて買収を持ちかけた事のある同業のソウルの元を訪ね、窮状を明かすと、頭を垂れて融資を請い、必要な150万ドルの内、ソウル側に極めて有利な条件で50万ドルの融資を得る。一方、ローレンスは裁判前に問題を解決できれば、アベル側に有利に働くと説くと、検察側からの提案書を手渡す。また、アベルはジョゼフに契約の履行期限を3日だけ延長してもらう。その後、アベルはビルの呼びかけで集まった同業者の会食に赴くと、盗んだ大量のオイルを買って保管する能力があるのは彼らだけであり、彼らの中に黒幕がいると指摘すると、それを止める様に命じる。アベルは金策の進捗についてアナに報告し、アナはアベルを奮起させる。
翌日、アベルは大学生の弟の元を訪ね、共同所有のアパートを抵当に入れる了解を得て、21万ドルを確保する。帰り際、アベルは近所でトラックが再び襲撃された事を無線で知ると、現場へ急行し、盗まれたトラックを追跡する。追い込まれたトラックは貨物列車のターミナルで横転し、犯人の一人が死に、もう一人が逃走する。アベルは犯人の男を執拗に追跡し、駅で列車に乗り込んだ男を人気のない駅で強引に降ろす。アベルは男から奪った銃を突き付け、雇い主を問い質すが、追求を諦め、男を解放する。男は恩義に応え、誰にも雇われていない事と、燃料を売った場所について明かす。アベルは事の実相を悟ると、同業のアーノルドの元を訪ね、証拠を突き付けて盗まれた分の21万ドル余りの支払いを請求し、業界からの追放を宣告する。アーノルドは買ったのが自分だけでは無いと弁解するが、アベルは意に介さず、明朝までに支払わなければFBIを送ると警告する。
その後、アベルは再びピーターの元を訪ね、60万ドルの融資を要請する。ピーターはアベルが自分より商売上手だと認め、またアベルの置かれた窮状を理解した上で、ギャングと関わるのは良く考えた方が良いと諭す。アベルは金策の目処が立った事をアナに報告し、とうとうギャングの手中に落ちてしまった事を嘆く。アナは創業当初から隠し利益を蓄財していた口座の存在を明かし、ピーターから借りずに済むと説く。アベルは憤慨するが、アナはそれが万一の為の備えであり、帳簿上問題が無いと説く。アベルはその金への関与を拒み、そのままにしておく様に命じると、インチキに頼らずに対処する意向を示す。アナは嘲笑すると、アベルの成功は努力や幸運のおかげでは無く、自分が汚れ仕事を引き受けていたからだと反論する。アベルは利益を自分から盗んだのだとアナを詰る。
翌朝、アベルは気を取り直し、アナの提案通りに金を使う事を決める。アベルはアナ、アンドリューと共に湾岸のターミナルに赴くと、ジョゼフと契約書に調印し、正式にその土地を受領する。アンドリューはアナの金について知っていた事を明かし、アベルは自分に話すべきだったと咎める。その後、3人は港湾越しにマンハッタンの街並みを眺める。そこにジュリアンが拳銃を持って現れる。ジュリアンは自分には行き場が無いと嘆き、アベルは楽な場所は無いと諭す。錯乱するジュリアンはアベルに銃を向けると、自分には何も無く、アベルは欲しいものを全て手に入れたと説き、アベルが自分に不相応な程のチャンスをくれたと嘆く。アベルは後ろばかり見ずに前を見るべきであり、未来は自分で変えられるのだと諭す。ジュリアンは家族を頼むと言い残し、石油タンクの前で頭部を撃ち抜き、自殺する。
通報後、現場にローレンスが駆け付ける。アベルは重罪を認めるのは受け入れがたく、提案書の取引に応じられないと伝え、また、この先、検察に嗅ぎ回られるのも仕事に支障をきたし、耐えられないと説く。ローレンスは、アベルが港湾ターミナルを得て、それが稼働する事で、その政治的な影響力が絶大になると説くと、互いに野心を達成するには協力が必要だとし、別の結論を出す事を提案する。アベルはいつも正しい道を選んできた事を明かし、結果は問題では無く、正しい道を通る事が大事なのだと説く。