ピーター・サットラー監督作「レディ・ソルジャー」("Camp X-Ray" : 2014)[DVD]
グアンタナモ収容所に赴任した新人兵士が、独房の監視任務を経て、拘留者と心を通わせていく様を描くドラマ作品。
911からおよそ8年後。フロリダ出身の一等兵のエイミー・コールは、初任地となるキャンプ・デルタ内グアンタナモ基地・拘留者収容所で、同僚らと共に勤務初日を迎える。伍長ランズデルは所内を案内する傍ら、収容所での任務が、拘留者達の独房を交代で監視し、彼らの自殺を阻止する事だと明かすと、任務に当たる上での心得と拘留者達への接し方を説く。また、ランズデルは、拘留者達が問題行動を起こした際には、逐次、四人一組のIRF(初期対応部隊)が編成され、対処に当たる様になっている事を明かす。その矢先にIRFの出動要請があり、早速志願したコールは補佐を命じられる。IRFは暴れる拘留者を制圧すると、懲罰を与える為に房内から連れ出す。その際にコールは拘留者の肘鉄を食らい、口元を負傷するが、同僚らに一目置かれる存在となる。
翌日、コールは拘留者用図書の配布役を任じられ、図書を積んだカートを押して房内を巡回する。911直後にブレーメンで拘束された後、強制的にグアンタナモに移送された拘留者アリは、図書の交換時にハリー・ポッターの最終巻を要求し、二年間頼み続けていながら一向に応じてもらえない事を明かす。アリの熱望に対し、ハリー・ポッターを読んだ事が無く、その内容を関知しないコールは困惑する。
それ以後、アリは新人のコールに興味を示し、名前を知る事ができない為に「ブロンディ」という愛称を付けると、監視任務の度にコールの関心を引いては、会話に付き合わせようとする。コールはそれがレクターごっこだと指摘し、対応に苦慮する。アリは会話の代わりに水を要求し、応じれば黙ると提案する。コールはそれに応じ、小窓を開けてアリに水を差し入れるが、その途端にアリはコップに溜めた大便(兵士らの間でクソ爆弾と称される)をコールの制服にぶっかけると、監視窓にタオルをかけて視界を遮り、挑発行動を繰り返す。コールは憤慨し、IRFの出動を要請する。アリはIRFに制圧された後、一週間ぶっ続けで二時間毎に独房を強制的に移動させられる懲罰を課せられる。コールは眠る暇すら与えらぬ罰が酷だとランズデルに指摘するが、ランズデルは拘留者に配慮する事を戒める。
後日、コールは僚友達と共に休暇を過ごし、羽目を外す。その最中、コールはランズデルに好意を寄せられ、強引に体を求められる。コールはそれを拒み、ランズデルを突き飛ばした事で関係が悪化する。
その後、コールはアリに興味を抱き、所内のファイルを参照して、アリの収監から現在に至るまでの経緯を調べ、アリが8年間の内に度々問題行動を起こしては罰を受け、精神分析医の診断まで受けている事を知る。
コールは引き続き、房内の監視任務をこなす。アリは尚もコールの関心を引き、コミュニケーションを図ろうと躍起になる。コールはハリー・ポッターの最終巻が所内の図書館に無かった事を明かすも、兵士は拘留者と接触及び交流する事を固く禁じられている事から、アリへの対応に苦慮する。アリは長年の拘留生活でおかしくなりそうだと嘆き、最終巻を楽しみに待っている事を明かす。コールはアリの苦悩に理解を示す。
8ヶ月後、拘留者達が一斉にハンガー・ストライキを始め、ランズデルは首謀者に対し、鼻チューブで流動食を強引に与える。コールは拘留者達が運動器具を望んでいる事を大佐ドラモンドに伝える。程なく、拘留者達に僅かばかりの運動器具が支給され、屋外の狭いフェンス内での運動が認められる。コールはアリと気脈を通じる様になる。
コールは模範拘留者になれば広い運動場に出られるとアリに説き、態度を改める様に促す。アリは所内の規則に従えば、その規則を定める米軍の権利を認める事になり、それ故に絶対に従わないのだと主張する。コールはアリと親しげに話しているのをランズデルに咎められる。ランズデルは人手不足を理由に、任務規定に反してコールにアリのシャワーの手伝いを命じると、アリをコールの目の前で丸裸にさせた上でシャワーを浴びさせ、コールにその監督を強要する。その後、コールは人手不足がランズデルの嘘だった事を知り、任務規定違反についてドラモンドに密告する。
程なくして、コールはドラモンドに呼び出しを受ける。コールはランズデルが故意に任務規定違反を犯し、拘留者に不快感を与える行為をさせた事を告発する。しかし、ドラモンドはコールが拘留者に配慮し、上官を密告した事を問題視すると、アリに対して個人的な感情があるのでは無いかと問い質す。コールは言葉を交わしただけだと弁明する。ドラモンドはグアンタナモへの嫌悪感を露わにすると、審査委員会の聴聞に応じる様に命じる。
その直後、コールは僚友クルーズから監視兵の一人が所内で自殺を図った事を聞く。クルーズはグアンタナモがさほど悪い場所では無く、拘留者達も扱いやすいと軽侮する。コールはそれ故に罪悪感を覚えると吐露する。クルーズはコールがアリに感化されている事を戒める。以後、コールはランズデルの計らいにより、僚友達から除け者にされる。コールは孤立するも、淡々と任務をこなす。
程なくして、コールは突然、仲間内で一人だけ夜勤への交代を命じられる。その夜、コールはアリに夜勤に変わった理由を尋ねられ、密告した事を明かす。アリはコールにグアンタナモに来た理由を尋ねると、自分がブレーメン出身であり、アルカイダやテロリストとは無関係だと明かす。コールは基地より小さな街出身で、故郷から出たのがこの任地で初めてだと明かし、恥じらう。アリはコールがまだ若く、学び始めたばかりだと諭す。コールは重要な何かを成し遂げたいと希望し、入隊した事を明かす。アリはそれに理解を示す。アリは毎年8月で監視兵が入れ替わる事に触れ、コールの来月以降のグアンタナモでの勤務の如何を尋ねる。コールは留まるつもりが無い事を明かす。アリは新しい監視兵が必ず拘留者を悪人する事から、8月が嫌いだと説く。コールは自分の様に学習すると諭すが、アリは自分達の行動を見て、何を学んだのかと問い質すと、コールが学んだと思っているだけで何も知らないと詰り、兵士と拘留者とは交戦中だと説く。コールはそれを否定するが、アリはコールが見ていないだけだと説く。
その直後、アリはコーランに忍ばせた刃物を取り出し、首元に押し当て、自殺を図ろうとする。アリは応援を呼べば後悔すると牽制する。コールは説得を試み、こんな酷い場所で死ぬべきでは無いと翻意を促す。アリは自分の死ぬ場所はここだと主張する。コールは物事は変わり得る可能性があり、諦めるべきでないと諭す。アリは三年前に尋問を受けた際に、軍服を着ていない男に無実だと言われたものの未だに家に帰れない事を明かすと、グアンタナモに収容された自分を受け入れる国はどこにも存在しない為に、もはや行く場所が無いと嘆き、現状を変える唯一の手段が死ぬ事だと主張する。アリは今の自分が生きているとは言えず、好意を持っているコールに理解してもらえるとも思わないと説く。コールは自分の本名と出身地を明かし、アリへの好意を示すと、意を決して選択をアリに委ねる。アリは苦渋の末に翻意し、小窓から刃物を手渡すと、コールはそれを受け取り、アリと固く握手を交わす。
翌月、新人の監視兵が、アリの房前に図書配布の巡回にやってくる。アリはカートの中にハリー・ポッターの最終巻を見つけ、それを受け取ると、本の扉にアリへの愛を込めたコールの直筆のメッセージを見つける。一方、コールはアリが画を描き溜めたノートを持ち出し、グアンタナモを涙ながらに後にする。