フランク・ダラボン監督作「グリーンマイル」("The Green Mile" : 1999)[BD]
刑務所で死刑を指揮する看守の男が、奇跡の力で万病を治癒する死刑囚と心を通わせていく様を描くファンタジー・ドラマ作品。
1999年、風光明媚な田舎の養護老人ホームで暮らすポールは、毎朝食堂で冷めたトーストを貰うと、丘を超えた先にある森に潜む廃屋へ、一人で散歩に出かける事を日課にしている。過去に纏わる悪夢に苛まれる日々を送るポールは、広間で皆と集まってテレビ鑑賞している時に、映画「トップ・ハット」の一場面を目にした途端、去来する思いに耐えきれずに席を外す。ポールは心配して付いてきた親友エレインに、60年以上の長きに渡って誰にも話してこなかった、昔の出来事を語り始める。1935年、大恐慌に喘ぐ米国のルイジアナ州。ポールはコールド・マウンテン刑務所の死刑囚棟で看守主任を務めていた。死刑囚棟の廊下は別名ラストマイルと呼ばれるが、その棟の床は色褪せた緑でグリーンマイルと呼ばれていた。尿路感染症を患うポールは、日夜を問わず襲ってくる痛みに耐えながら、同僚の看守ブルータル、ハリー、ディーンらと職務に精勤し、マイルには二人の死刑囚デルとビターバックが収監されていた。
ある日、マイルに新たな死刑囚ジョンが、コネを利用して大きな顔をする新人看守パーシーに連れられてやってくる。巨躯の黒人で傷だらけのジョンは、体の割にはおとなしくて頭が弱く、牢屋に収容される際には暗闇を酷く恐れる。ポールはジョンに対するパーシーの態度を叱り、マイルから追い出す。パーシーは嘲ったデルの指を警棒で叩き折る。ポールはジョンの求めに応じて握手を交わす。ジョンは元に戻そうとしたが遅かったと訴える。ポールはその意味を測りかねる。ポールはジョンの罪状が、農家の幼い姉妹を攫って、レイプし殺害したという残忍なものだと知る。ポールはビターバックの死刑執行通知を届けに来た所長ハルに、妻メリンダの具合を尋ねる。ハルはメリンダの頭痛が酷く、病院でレントゲン検査する意向を示す。ハルはパーシーを追い出した件で州庁から怒られた事を伝えると、パーシーが高給の精神病院の事務職に転属願いを出している事から今しばらく辛抱するよう諭す。ポールはパーシーがマイルに留まるのは死刑を見たいからだと推察する。ハルはパーシーが一度死刑を見れば満足するはずだと説く。ポールは最愛の妻ジャンに病院に行くよう促される。
程なく、マイルに一匹のネズミが現れる。ネズミは物怖じせずに机までやってきて、ブルータルが与えたクッキーを食べると、ドアの隙間から拘禁室に戻っていく。ポール達は物置と化している拘禁室を空にしてネズミを捜すが見つけられずに困惑する。後日、ネズミは再び姿を現し、ハリーからクッキをもらう。パーシーは躍起になってネズミを殺そうとするが、ネズミは拘禁室に逃げ果せる。パーシーは癇癪を起して拘禁室を空けて捜し始める。ポールはパーシーを窘めるが、パーシーは悪態をつく。ブルータルが威嚇すると、パーシーはコネをちらつかせて脅す。ポールは意に介さず、パーシーに片付けを命じる。
ポール達はビターバックが家族と面会している内に、処刑のリハーサルを行う。パーシーは手順を見学する。ネズミは処刑室にも姿を現す。執行当日、ビターバックは一番幸せだった妻との思い出を述懐した後、処刑室の電気椅子に着座する。立会人らが見守る中、ブルータルの指揮の下、死刑が執行される。ポールはブルータルの遺体を弄ぶパーシーを叱りつけると、早く転属するよう促す。パーシーは一度処刑させてくれたら転属すると約束し、さむなくばマイルに居座る意向を示す。
デルはネズミを手懐けてペットにし、ミスター・ジングルスと名付ける。ジングルスはデルが教えた芸をポール達の前で器用にこなして見せ、デルはサーカスネズミだと喜ぶ。デルはジングルスが寝られる箱を所望し、それについて問われたパーシーは葉巻の箱が最適だと勧める。ハルはポールを呼び出すと、大罪を犯して行く先々で面倒を起してきた死刑囚ウォートンが新たにマイルに来る事を伝える。ハルはメリンダに大きな脳腫瘍が見つかり、手術ができずに為す術が無い事を明かすと、本人にそれを言えない事を悲嘆する。ポールはハルに同情し、苦悩する。
翌日、ポールは激痛に耐えかね、ウォートンを受け入れた後で病院に行く事を決意する。パーシー、ハリー、ディーンは精神病院からウォートンを移送する。ウォートンはマイルに着くなり、三人の不意を突いて大暴れし始め、ディーンを絞め殺そうとする。ポールは拳銃を構えて威嚇する。パーシーは呆然と立ち尽くす。そこへ駆けつけたブルータルがウォートンを制圧し、牢屋に収容する。ポールはブルータルに負傷したディーンとハリーを手当に連れて行かせ、パーシーに報告書の記入を命じると、苦痛でマイルに倒れ込む。ジョンはポールに牢屋の前まで来るよう促すと、ポールの体を掴んで股間に手をあてがう。電球が激しく閃光した後、ジョンは座り込んで咳き込み始め、口から夥しい蝿の群れを吐き出す。ポールは自分に何をしたのか問い質す。ジョンは病気を治し、全て元通りにしたと答えると、疲労を訴えてベッドに横になる。ポールは小便に行き、痛みが完全に消失した事に気付く。上機嫌で帰宅したポールは、ジャンと久方ぶりのセックスを一晩中楽しむ。
翌日、ポールはジョンの裁判を担当した弁護士ハマースミスの元を訪ねると、ジョンの無実の可能性について尋ねる。ハマースミスはそれを否定すると、自らがかつて飼っていた愛犬が、ある日突然、懐いていたはずの息子を襲って片目を奪った件を例に挙げ、ジョンが間違いなく犯人だと主張し、ポールに油断すべきではないと警告する。ポールはジャン手製のコーンブレッドを、治癒の謝礼としてジョンに差し入れる。ジョンはそれをデルとジングルスにお裾分けする。ウォートンはポール達に唾吐きや尿かけなどの悪戯を繰り返す。ポール達はウォートンを拘禁室に入れる。ウォートンは心を入れ替えると約束するものの、懲りずに悪戯を続け、再び拘禁室にぶち込まれる。
程なく、デルの執行日が決まり、ポール達はデルにジングルスの芸当披露の一席を設け、その間に処刑のリハーサルを行う。パーシーはブルータルに代わって指揮を執る運びとなる。デルが上機嫌でマイルに戻ってくると、パーシーは悪態をついて水を差す。ウォートンは不意を突いてパーシーを檻越しに掴んで驚かせ、パーシーは失禁する。デルはそれを見て嘲笑する。パーシーはこの件を口外したらクビにするとポール達を脅す。
ポール達は執行を前にジングルスの処遇についてデルと話し合い、架空のフロリダにあるネズミサーカスをでっち上げて、そこにジングルスを預けるよう勧める。デルはそれを真に受けて喜ぶ。その時、デルが投げたコルクが檻の外に飛び出し、追っていったジングルスをパーシーが踏み潰して立ち去る。デルは慟哭する。ジョンは死骸を自分の元へ持ってくるよう促し、ポールはそれをジョンに手渡す。ジョンは死骸を口にあてがい、息を吸い込む。ジングルスは閃光に包まれた後、息を吹き返し、ポールは蝿の群れを吐き出す。ジングルスはデルの元へ戻る。デルは甚く喜び、ジョンは元に戻したのだと説く。ポールとブルータルはパーシーを威圧し、処刑を任せる代わりに翌日転属願いを出すよう命じる。パーシーは脅された事を報告すると反発するが、ポールはウォートンがディーンを殺しかけた際に何もしなかった件を報告すればキャリアの汚点になると脅し、転属を確約させる。
当日、ジョンは執行の間、牢屋でジングルスを預かる。デルは処刑室の電気椅子に着座すると、立会人らの前で悔悟を示す。指揮を執るパーシーは、ネズミサーカスがでっち上げだと明かしてデルを罵ると、意趣返しを図るべく、水に濡らすべきスポンジを乾いたまま頭と電極の間にあてがい、死刑を執行する。ポール達はそれに気付くも手遅れだと判断し、為す術無く事態を見守る。デルは全身が電気で焼かれる激痛で絶叫し、立会人らはショックで逃げ出そうとする。ジョンは牢屋でデルに同調し、ジングルスはジョンの手元から逃げていく。パーシーは炎上するデルから目を背ける。ポールはその目で見届けるようパーシーに厳命する。終了後、ブルータルはパーシーを殴り飛ばす。ハルは転属願いを出すよう釘を刺す。ポールはジョンに会いに行く。ジョンはデルの痛みを一緒に感じていた事を明かし、悲嘆すると、自分の苦しみが伝わった事でジングルスはもう戻らないと説く。
ポールはジャンを連れてハルの家にメリンダを見舞いに行く。ポールはメリンダの病状の深刻さと、ハルの苦悩の大きさを知る。ポールはジョンの力でメリンダを治癒してやろうと決意すると、ブルータル、ハリー、ディーンを家に招き、秘密裏にジョンをハルの家に連れて行く計画を提案し、協力を求める。ブルータル達は難色を示すが、最終的にポールの説得に応じる。
夜、ポール達はウォートンに睡眠薬入りのジュースを飲ませ、ウォートンが眠ったのを確認すると、転属を控えるパーシーを、デルの件の反省と称して強引に拘禁室に閉じ込める。ジョンは牢屋から出してもらった直後に、眠っていなかったウォートンに檻越しに腕を掴まれる。ジョンはウォートンの心を感じ取り、その罪状を知る。ウォートンは再び昏睡する。ディーンは留守番で残り、ポール達は刑務所を首尾よく抜け出して、車でハルの家へ向かう。ポールは意図を知らずに猟銃を構えて出てきたハルを説得する。ジョンは助けてやりたいと申し出ると、目を覚まして喚き続けるメリンダの元へ向かう。ジョンはメリンダの傍に腰掛け、口から病を吸い出す。メリンダは直ちに回復し、ハルは感激する。ジョンは蝿の群れを吐き出さずに苦悶する。メリンダは暗闇を彷徨うジョンと夢で出会った事を明かし、ジョンに聖クリストファーのネックレスをお守りに授ける。ポール達はジョンをマイルに連れ帰る。
ポールはパーシーを解放し、全てを水に流すよう命じるが、パーシーは反意を示す。その途端、ジョンは檻越しにパーシーを掴み上げ、体内に溜め込んだ蝿の群れを口移しする。パーシーは徐ろにウォートンの牢屋の前に立つと、目覚めたウォートンに拳銃の弾を全て撃ち込む。ウォートンは即死し、取り押さえられたパーシーは口から蝿を吐き出す。ジョンは二人に罰を下したのだと説き、自分の手をポールに触れさせると、自分の一部を贈ると称してウォートンに腕を掴まれた時に見たビジョンを見せる。ポールは、ジョンが殺害したとされている幼い姉妹が、実はその家族で手伝いをしていたウォートンによって攫われ、殺されたという真実を知る。ジョンは毎日同じ事が世界中で起きているのだと説く。
パーシーは精神に異常を来し、転属する予定だった精神病院に収容される。ポールはジョンを無実と知りながら処刑せねばならない状況に苦悩する。ジャンはポールにジョンと話して何を望んでいるか聞くよう促す。執行を二日後に控え、ポールはジョンに奇跡を行う神の使いを死なせる事への躊躇いを吐露し、望みを尋ねる。ジョンは世の中の苦しみを感じながら、孤独な人生を歩む事への疲れを訴え、生きる事を拒否する。ポールは活動写真を見たいというジョンの願いを聞き入れ、スクリーンで「トップ・ハット」を見せてやる。ジョンは感動する。執行当日、殺された姉妹の両親と関係者が立ち会いに訪れ、ポールは指揮を執る。電気椅子に着座したジョンは生まれた事を謝り、顔に覆いをかけぬよう哀願する。ポールはそれに応じると、最後にジョンと握手を交わし、断腸の思いで刑を執行する。終了後、ポールは執行中に外させていたネックレスをジョンの亡骸に戻す。
ポールはそれが自らの立ち会った最後の処刑であり、その後、ブルータルと共に少年更生院に転属した事を明かす。エレインは腑に落ちない点に疑義を呈す。ポールはエレインを廃屋に連れていくと、葉巻の箱で飼っている老いたジングルスを紹介する。ポールはジョンのパワーが伝わった事でジングルスが長生きしている事、自らはジョンから奇跡を行う力を授かり、現在108歳を生きている事を明かす。ポールはまた、これまでに驚くべき事をたくさん見て、妻子を含む数多くの愛する者達との別れを経験してきた事を明かし、それが神の奇跡を殺してしまった自らの贖罪だと説く。やがてポールはエレインをも見送る。ポールは、人がみな自分自身のグリーンマイルをそれぞれの歩調で歩いている一方で、神が自らに与えたグリーンマイルが余りにも長過ぎる事を憂い、いつか訪れる死を待ちながら生き続ける。