トッド・フィリップス監督作「ウォー・ドッグス」("War Dogs" : 2016)[BD]
米軍相手に武器商人を始めた二人の青年が、事業拡大を図る内に、類例の無い巨額な詐欺行為を働くに至るまでの顛末を描くブラック・コメディ作品。
2005年、マイアミ。大学を中退し、職を転々としてきた22歳のデビッドは、金持ち向けのマッサージ療法士を生業としながら、妻イザとそれなりに幸せに暮らしていた。デビッドは張り合いに乏しい生活を変えたいと考え、全財産を投じて仕入れた高給シーツを、南フロリダの老人ホームに売り込もうと画策するが不振に終わり、大量の在庫を抱える。そんな折、デビッドは友人の葬儀で、中学時代の悪友で親戚の家に移ったエフレムと再会する。エフレムはロサンゼルスで警察の押収品をネットで売り捌いていたものの、稼ぎを叔父に横取りされた事が腹に据えかね、マイアミで起業を企てている事を明かす。
後日、エフレムはデビッドを自らが営むAEY社の小さなオフィスに招き、米軍相手に武器や装備品を売って荒稼ぎを始めた事を明かすと、連邦政府の入札情報サイトに掲載される無数の軍事契約の中から、大手が見向きもしない小口契約に狙いを定めているのだと説く。程なく、イズの妊娠が判明する。デビッドはマッサージ業だけで家族を養っていく事への不安をエフレムに吐露する。 エフレムはデビッドに自分の会社で働くよう勧める。デビッドはイズが戦争に大反対している事から難色を示す。エフレムは戦争への賛否は関係なく、今まさに起きている戦争で金儲けするだけだと説く。それを受け、デビッドはエフレムのツテを得て米軍にシーツを売るとイズに嘘を付き、エフレムの下で働き始める。デビッドはエフレムから膨大な武器に関する知識と、取引のイロハを六週間で学習すると、晴れて「ウォー・ドッグズ」(戦場を知らずに戦争で稼ぐクズ)の仲間入りをする。エフレムはマイアミでクリーニング店を経営するラルフを口車に乗せ、事業への出資を得る。
デビッドは東欧の武器製造会社との関係構築を模索する最中、ヘンリー・ジラードが営むというキプロスの会社を紹介される。エフレムはヘンリーが多くの紛争当事者に武器を売る伝説の武器商人だと明かす。その矢先に、二人はイラクに駐留するサントス大尉からベレッタの大量納入契約を取り付ける。エフレムは60万ドルに及ぶ取引に歓喜し、デビッドに三割の取り分を約束する。その直後に二人はイタリアで通過したばかりのイラクへの武器禁輸を旨とする法案の存在を知る。エフレムはイタリアを諦め、米国と同盟関係にあるヨルダンからバグダットに運ぶ決断を下す。ところがベレッタはヨルダンの税関で押収される。それを聞きつけたサントスは直ちに二人に事情を問い質す。エフレムは手違いが生じ、代案を検討中だと弁解する。サントスは二人のせいで任務に支障が出る事態に至った事に憤り、二度と軍と取引ができなくなる正当解除を通告する。イズはデビッドとエフレムの会話を聞いて、デビッドが嘘をついていた事を咎める。デビッドは子供を養う為であり、大半は事務仕事に過ぎないのだと弁解するが、イズの理解を得られぬまま、エフレムと共にヨルダンへ飛ぶ。
二人は大使館の協力を得られず、自力でベレッタをバグダットへ空輸する術を模索する。二人はベレッタを税関から取り戻す事に成功するが、空輸の許可を得られず、止む無く、現地で雇った運び屋のトラックで陸路による輸送に切り替える。一昼夜の輸送で、一行は危険な目に遭いながらも死の三角地帯を無事通過し、バグダットのグリーンゾーンに到着する。サントスは命がけでベレッタを納品した二人を見直し、労う。二人は280万ドルの現金を米国に持ち帰ると、お揃いのポルシェと高級アパートを購入する。デビッドはリズと生まれたばかりの女児エラと共に、新生活を始める。ラルフが更に1000万ドルを出資すると、エフレムはそれを元手に取引を増やし、事業の拡大を図ると共に、オフィスを移し、従業員を雇い入れる。
程なく、入札サイトにAK47の弾薬1億発を始めとするアフガニスタンの巨額取引が掲載される。二人は最大のチャンスの到来に色めき立つ。二人は武器調達の為にラスベガスの防衛見本市に意気揚々と乗り込むが、結果が全く振るわずに手を拱く。デビッドはホテルのカジノで偶然にもヘンリーと遭遇し、エフレムを交えた会談の機会を得る。ヘンリーは冷戦時代の武器が手付かずに眠っているアルバニアにツテがある事を明かすと、二人の注文品の全てを調達する意向を示す。エフレムはなぜ自らが入札しないのか尋ねる。ヘンリーは自らが政府にテロリスト指定され、監視対象になっている事を明かす。デビッドはヘンリーと関わる事に難色を示すが、エフレムが説得し、二人はヘンリーに調達を依頼する。
二人は早速アルバニアに飛ぶと、ヘンリーの手配した運転手バシュキムと共にティラナへ赴き、武器輸出商社ピナリが大量の武器を保有する貯蔵庫へ招かれる。二人は一番に目当てのAK弾薬1億2600万発分が入ったコンテナを確認する。二人はマイアミに戻ると、期限ギリギリで入札を行い、結果を待つ。五ヶ月後、二人は見事落札を果たし、政府の入念な会計監査に臨むが、経理を雇わず帳簿を付けていなかった為に、三年分の会計資料を偽造して提出する。その後。二人はロック・アイランド武器庫で調達担当官との面接に臨む。二人はその場で、二番手の会社より5300万ドルも入札額が低かった事を知らされる。エフレムは巨額の損失を慨嘆する。
その直後、イズはPCに保存されたデビッドとエフレムがイラクで撮った写真と、洗面所に隠された札束を見つけた事を明かし、デビッドが約束を破って自分に嘘をついた事を咎めると、有無を言わさず、エラを連れて実家に戻る。デビッドはアルバニアへの出張直前に、正式に7対3の報酬配分を定めたパートナー契約書へのサインをエフレムに求め、エフレムはそれに応じる。
デビッドはアルバニアで輸送に向けた作業中、AK弾薬を梱包した木箱の表記からそれらが禁輸対象の中国製である事を知る。デビッドは直ちにヘンリーに問い合わせる。ヘンリーは自分で対処する様に命じて突き放す。エフレムはアルバニアに駆け付け、弾薬を木箱からダンボールに再梱包する事を提案する。二人はバシュキムから梱包会社を営むエンヴァーを紹介してもらうと、本当の理由を明かさずに再梱包を依頼する。エンヴァーは50人で8週間を要する事から、10万ドルの費用を見積る。二人は破格の梱包費に加え、ブリキ箱からビニール袋に移し変える事で輸送費の大幅な削減も見込める事から歓喜する。
2007年12月8日、最初の弾薬500万発が納品される。程なく、マイアミに戻ったエフレムは、アルバニアの国防省に勤めるバシュキムの叔父の話に拠り、AK弾薬に支払った額がヘンリーに四倍も吹っかけられていた事を知って熱り立ち、ヘンリーを外す意向をデビッドに伝える。デビッドは互いに利益を得ているのだと説き、深追いをしない様に諭す。2008年1月1日、デビッドはホテルで覆面の男達に拉致され、ヘンリーの元へ連行される。ヘンリーは自らを取引から外そうと図った事を咎め、銃を突きつけて脅す。デビッドは取引から手を引き、アルバニアから去る事を決意する。エンヴァーは梱包費の支払いが無い事を責め立て、本当の理由を知っていると脅す。デビッドは一旦帰国して送金の手配をすると約束する。貯蔵庫を去る直前、デビッドはバシュキムが失踪した事を彼の妻から知らされる。
マイアミに戻ったデビッドは、イズに真実を打ち明け、足を洗ってマッサージ療法士に戻る事を約束する。デビッドはエフレムの元を訪ねると、エフレムがヘンリーを裏切った事を咎め、辞意を告げると共に、納品済の分の支払い400万ドルを要求する。エフレムは開き直り、取り分はゼロだと突っぱねる。エフレムはパートナー契約書を盾に裁判で争う意向を示すが、書面がデスクから無くなっている事に気付き、エフレムと決別する。
三ヶ月後、デビッドはラルフの仲介で、エフレムと解決への協議の場を持つ。エフレムは退職誓約書を提示し、四年で毎年5万ドルを支払うと提案する。デビッドはそれを拒否すると、証拠として機能する、アルバニアで保存した偽造書類や再梱包の写真が手元にある事、エフレムがラルフにも嘘を付いてピンはねしている事を明かす。エフレムはお互いにお終いだと釘を差し、交渉は決裂する。
程なく、デビッドはNYタイムズの記者から連絡を受け、再梱包について質問されると同時に、国務省が調査を始めた事を知る。その直後、アパートにエフレムがやってきて、同じく記者から連絡を受けた事を明かすと、デビッドに謝罪する。デビッドは記者に真実を暴露されるのを怖れ、機嫌を取っているだけと看破する。エフレムがそれを認め、悪態をつくと、デビッドはエフレムを殴り飛ばす。そこへFBIの捜査官達が現れ、二人を逮捕する。支払いが無い事に痺れを切らしたエンヴァーが国防総省に通報し、数ヶ月に及ぶ国務省の捜査が行われた後、先に逮捕されたラルフが司法取引に応じ、仲介役を装って二人を引き合わせて証言を引き出したのだった。エフレムは四年の禁固刑、デビッドは七ヶ月の自宅軟禁が科せられる。また、AEYは2022年まで連邦政府の競争入札への参加が禁止される。
ある日、デビッドはマッサージに呼ばれて訪れたホテルの一室でヘンリーと再会する。ヘンリーはアルバニアの一件が誤解だった事を詫びると共に、自らの名前を伏せてくれた事への謝意を示す。デビッドはカジノで会ったのが偶然なのか、またバシュキムはどうなったのか尋ねる。ヘンリーはケースに収められた大金を差し出すと、何も聞かずにそれを受け取る様に促す。デビッドは黙したままヘンリーを見つめる。