チラ裏レベルの人生記(仮)

自分が自分で無くなった時に、自分を知る為の唯一の手掛かりを綴る、極めて個人的な私信。チラ裏レベルの今日という日を忘れないように。6年目。

FRANK -フランク-

レニー・アブラハムソン監督作「FRANK -フランク-」("Frank" : 2014)[DVD]

ミュージシャン志望の男が、ひょんな事から、お面を付けたリーダー率いるバンドの一員に加わる事になり、共に活動をしていく姿を描くコメディ・ドラマ作品。

しがない会社勤めの若者ジョンは、ミュージシャンを志望し、日々作曲作りに励むも、その出来はイマイチで趣味の域を脱しなかった。ある日、ジョンは、あるバンドのキーボード担当の男がメンバーとの諍いの末、自殺未遂を起こし、搬送される現場に出会す。「ソロンフォルブズ」という5人組のそのバンドのマネージャー・ドンに、ジョンが抜けたキーボードの代役として自身を売り込むと、その晩にバンドが行うライブに飛び入りで参加する事になる。

バンドのリーダーでボーカルのフランクは、一日中、奇妙なお面を被っている不思議な男で、片時も外すことは無く、メンバーの誰も素顔を見たことが無かった。しかし、フランクのそのエキセントリックな性格から創作される楽曲により、メンバーの彼に寄せる信頼は厚かった。コルグシンセ担当のクララの機材が発煙した事で、ライブは中断される。

後日、ジョンはドンから連絡を受ける。フランクがジョンを気に入っているので、再度サポートを務めて欲しいという依頼だった。ジョンは意気揚々とバンドと合流するが、フランク以外のメンバー、クララ、バラック、ナナはジョンの加入に否定的だった。バンドはその足でアルバム製作の為にアイルランドに向かう事になり、仕事を持っているジョンは当惑する。ジョンはドンに、自身が精神的に問題を抱えている事を打ち明けられ、また、フランクの人となりやその類稀なる才能についても話を聞く。

アイルランドの人里離れた小屋に付いたバンドは、早速レコーディング作業に入る。ジョンは相変わらずメンバーから疎外されていたが、自作の曲を披露するなどして、フランクの関心を引く。ジョンはアルバムの製作作業を行う内に、フランクへの憧れが募り、バンドのポテンシャルを確信していく。バンドの魅力を世界に伝えたいと考えたジョンは、密かにツイッターやブログ、ユーチューブ上に、バンドの活動の様子をアップし、少しずつ注目を集めていく。

フランクは拘りの強い男で、アルバム製作は季節を跨いで長引いていくのだが、ある日、ドンはバンドの活動資金がショートした為に、小屋の貸与期限が終了する事を打ち明ける。ジョンは自身の蓄えを使うように提案し、小屋の使用が継続される。製作開始からおよそ1年が経ち、ついにアルバムが完成する。ところが、祝杯を上げた翌朝、ドンが首吊り自殺を図り死亡してしまう。メンバーはドンを火葬し、フランクはドンの灰を缶に詰める。

その直後、ジョンのアカウントにSXSWの担当者からの連絡が来る。担当者は予てからバンドの活動に関心を持っており、テキサスで開催されるSXSWのステージへのバンドの参加を打診する。そこで初めて、ジョンはメンバーに活動をネットにアップしていた事を打ち明ける。この事にクララは激しく憤り、テキサス行きを強く反対する。しかし、フランクはバンドの音楽がネット上で関心を集めている事を喜び、テキサス行きを決める。クララは、テキサスまで行ってバンドがコケ、フランクが失望する様な事があれば、ジョンを刺すと告げる。

ジョンの説得で、はるばるテキサスを訪れたバンドは、まず砂漠に赴き、ドンの灰を撒く。ところが、持ってくる缶を間違え、灰だと思ったそれは普通の食品パウダーだった。SXSWの会場に着き、手続きを済ませたジョン達一行だったが、そこでソロンフォルブズが全く認知されていない事を知らされる。彼らの動画の視聴者数は3万弱だったが、数十万を稼ぐ参加者は他にゴロゴロいたのであった。それを聞いたフランクは、精神の不安定ぶりが加速していく。

ジョンは、客に歩み寄り、より好感を持ってもらう様に、曲のスタイルを変えようとフランクに提案するが、クララはフランクの身を案じ、帰国すべきだと主張する。その夜、クララはフランクを無断で連れ出す。ジョンがクララからフランクを引き離すと、クララはジョンの腿をナイフで刺し、逮捕されてしまう。バラックとナナはジョンに愛想を尽かし、バンドから去ってしまう。バンドを失ったジョンとフランクは、アンプラグドでの参加を余儀なくされる。

出演当日となり、フランクの不安定さが増す中で、2人はステージに立つ。ジョンが自前で即興の演奏を始めるやいなや、フランクが発狂して倒れてしまう。フランクはジョンに「お前の音楽は糞だ」と言い放つ。ジョンは憧れだったフランクに幻滅する。翌日、宿泊先のモーテルで、ジョンはフランクを責め立て、苛立ちに任せて、強引にお面を脱がせようとする。錯乱したフランクはモーテルを抜け出し、道路に出た瞬間、車に跳ねられる。驚いたジョンが駆けつけた時には、壊れたお面が落ちているだけで、フランクの姿は無かった。その直後、ジョンも車に跳ねられる。

時が経ち、回復したジョンはフランクの行方を探す。その過程で、寂れたバーで、演奏をしているクララ、バラック、ナナの3人と偶然出会う。ジョンはフランクの行方を尋ねるが、居場所を聞くことはできなかった。その後、ジョンはフランクの実家の住所を掴み、彼を訪ねる。フランクの両親に迎えられたジョンは、そこでフランクのお面に纏わる過去と病状を聞く。そして、素顔のフランクと対面する。フランクの頭部の手術痕が、彼の病状を物語っていた。後日、ジョンはフランクを連れて、クララ達が演奏しているバーを訪れる。クララ達はその初対面の男が、フランクだとすぐに気付き、再び音楽を介して繋がり合う。そこにジョンの居場所は無く、彼はひとりバーを後にするのだった。

 

なによりポップで珍妙なお面が印象的な本作なのだが、意外にも、精神障害を扱うディープな内容だった。フランクはソロンフォルブズにおいて、中心的なメンバーであり、統率力を発揮していたが、それと同時に、彼自身もまた心の安寧を保っていた。とくにクララによる庇護の影響は大きかった。そこへジョンという、ある意味、異分子が加入した事で、これまで絶妙に保たれていた調和が乱れていくと。ジョンはフランクの承認欲求を刺激してしまい、結局、暴走へと導いてしまう。不幸はあったが、フランクは数十年来被っていたお面を脱ぎ捨て、素顔のままでメンバーと向き合う事ができる様になる。そう考えると、ジョンは触媒の様でもある。フランクを演じるのはマイケル・ファスベンダーで、本当に最後の最後までお面を取らないのかと思ったが、取った後のビジュアルがまた衝撃的だった。クララ役のマギー・ジレンホールのキレっぷりも良い。それにしてもエモーショナルな作品だった。

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