ベン・アフレック監督作「ゴーン・ベイビー・ゴーン」("Gone Baby Gone" : 2007)[BD]
失踪した少女の捜索を依頼された探偵2人が、やがて背後に潜む計画に巻き込まれていく様を描くミステリー作品。
ある日、ボストンの住宅街に住むヘリーンの4歳の娘アマンダが失踪する。犯行声明は無かったが、誘拐の可能性がメディアで大きく取り沙汰され、近隣の住民は徹夜で帰りを待つなどし、騒動が広がっていた。ヘリーンと同じ家に住まう兄夫妻のライオネルとビーは、藁にもすがる思いで私立探偵のパトリックとアンジーの元を訪ね、捜索を依頼する。パトリックらは誘拐事件の依頼は受けておらず、躊躇する。ヘリーンに事情を尋ねるものの、彼女はコカイン中毒で怠惰な生活を送っており、非協力的だった。パトリックらは依頼を断ろうとするが、アマンダの事をヘリーン以上に気にかけているビーの熱意に根負けし、依頼を受ける。そこへボストン警察の警部ドイルが訪れ、軽い気持ちで手を出すなと釘を差す。
パトリックとアンジーはヘリーンの行きつけのバーを訪れ、旧友のスティーヴから事情を聞く。ヘリーンは事件当時、バーで恋人のレイとドラッグをやっていたという。パトリックらはその後、ドイルから協力要請を受けた刑事レミーとニックと会い、小児性愛者のコーウィンと彼が身を寄せる麻薬中毒者のトレットとロベルタに関する情報提供を受ける。パトリックはスティーヴから得たレイの話を聞かせる。
パトリックらはクスリの売人ブッバの元を訪れ、コーウィンらとレイについて聞く。レイはハイチ出身のチーズというギャングの手下だったという。レミーはヘリーンのにチーズとの関係を問い質し、ヘリーンはレイと運び屋を請け負っていた事を打ち明ける。レミーはかつて所属していた麻薬課から、チーズの金が何者かにより盗まれたという情報を得ており、ヘリーンらが盗んだと疑っていた。ヘリーンは、コカインを売って得た13万ドルを、警察に奪われた事にして盗もうと、レイが突発的に言い出した事を打ち明ける。一同はヘリーンを連れ、レイの元を訪れるが、レイは拷問され死んでいた。チーズによる報復が疑われた。ヘリーンはレイの死体を見て慄き、裏庭に埋めた金の在処を白状する。
チーズに金を返しさえすれば、アマンダは無事連れ戻せると考え、レミーらは誘拐事件として公にせずに、内密に処理する事に決める。ヘリーンはアマンダが戻ってきたら、心を入れ替えるとパトリックに約束する。その夜、パトリックとレミー達はチーズのアジトを訪れる。警戒させぬ為に、パトリックとアンジーだけで交渉に臨む。しかし、チーズは誘拐の件を関知せず、金だけを返す様に要求する。パトリックは警察の手入れが入ると脅すが、交渉は決裂する。レミーはパトリックの失態を詰る。
翌日、レミーから連絡が入り、パトリックはチーズとの取引がドイルにバレた事を知る。パトリックの郵便受けには、チーズが入れたと思しき、アマンダの所持品が届いていた。ドイルはチーズが警察にかけてきた電話記録を突きつけ、不正取引を叱責する。チーズは金とアマンダの交換を要求してきていた。ドイルもまた事を荒立てぬ様に、内密に取引する決定を下す。彼は愛娘を事故で喪った事を悔やんでおり、アマンダを是が非でも取り戻したかった。その夜、チーズの指示通り、採掘場跡の人工湖にパトリック、アンジーとレミー、ニックの2組だけで訪れる。指定時間になると、突然何者かの待ち伏せを受け、チーズが撃たれ、アマンダが湖に落ちてしまう。アンジーは捨て身で飛び込んで救出に向かったが、結局アマンダの発見には至らなかった。一連の不正行為の責任を取って、ドイルは辞任を余儀なくされる。程なくしてアマンダの捜索は打ち切られ、死亡扱いとされる。
2ヶ月経たない内に、ジョニーという少年が失踪し、再び誘拐が疑われる。時を同じくしてパトリックは、ブッバからトレットに関する情報を得る。パトリックはブッバのクスリの取引に同伴し、トレットの家を訪ねる。ブッバが部屋を物色すると、ロベルタが慌てふためき、銃を突きつける。2階からコーウィンが現れ、ジョニーの所持品を身につけているのをパトリックが確認すると、2人は引き上げる。
その夜、パトリックはレミーとニックを連れ、再びトレットの家に赴く。レミーとニックが家に近づくと、ニックが撃たれ重傷を負う。パトリックも乗り込み、2階にコーウィンと虐待して殺されたジョニーの死体を発見する。パトリックは衝動的にコーウィンを射殺する。レミーはその判断が正しかったと宥める。アンジーもまた理解を示し、パトリックを慰める。しかし、パトリックは自分の犯した行為の正否に苦悩する。レミーは麻薬課にいた時、証拠を捏造してまで、虐待されていた子供を救った話を聞かせる。その話の中で、レイが登場した事に、パトリックは引っかかる。レミーは当初、レイの事を知らないと言っていた。
ニックが死亡し、パトリックらは葬儀に参列する。パトリックはレイの件でレミーが付いた嘘を問い質すが、躱される。パトリックは旧友の警察官デイヴに、レミーが麻薬課にいた頃の話を聞く。レミーが麻薬課に居づらくなった時、ドイルが窮地を救った話や、レミーがチーズが気付くより先に金が盗まれた事を知っていた話を聞かせる。
パトリックはバーでライオネルに真相を問い質し、ヘリーンとレイの会話から、チーズの金を盗んだ事を知り、レミーに連絡した事を打ち明ける。チーズによる誘拐事件を演出し、金をせしめようとしたが、ビーが騒いだ為に大事になり、パトリックらが捜索に加わった事で予定が狂ったいう。その過程でアマンダは事故的に死んでしまったのだった。ライオネルはヘリーンのアマンダに対する親と思えぬ酷い扱いが許せなかったと語る。そこへ、猟銃を持った覆面男がバーに訪れる。ライオネルは男がレミーと察し、すべて話したと告げる。レミーは店主に撃たれ逃亡する。パトリックはレミーを屋上に追い詰めるが、レミーは子供が好きだと言い残して息絶える。パトリックは子供思いのレミーがアマンダを死なせる様なミスを犯すとは思えなかった。
パトリックは刑事の事情聴取を受けるが、その中で、警察に電話記録など存在しないと知らされる。そこでパトリックは全てがドイルの企みだと気付く。アンジーは止めるが、パトリックはドイルの家に向かう。ドイル夫妻の元には幸せそうなアマンダの姿があった。一連の誘拐事件は、ドイル、レミー、ライオネルが共謀し、最初からヘリーンからアマンダを引き離す為の偽装工作だった。ドイルは退職前の一仕事とし、名誉と引き換えにアマンダを救った事を正義だと自負していた。しかし、パトリックはそれを真っ向から否定し、ヘリーンが駄目なら福祉課でも良いと反論する。選択を誤るなと詰め寄るドイルに、パトリックは結果を背負って生きると告げる。アンジーの反対を押し切り、パトリックは通報する。
その後、アマンダはヘリーンの元へ戻った。しかし、パトリックとアンジーの関係は終わりを迎えた。パトリックはヘリーンの元へ様子見に覗うが、ヘリーンは事件前と何も変わらず、男遊びに行くところだった。
派手なシーンこそ無いのだが、二転三転するストーリーに翻弄されて、非常に面白かった。日本ではさほど注目されていなかった様だが、傑作のミステリーだと思う。正義とはなんぞやという、二項対立の命題を見る者に突きつける展開が、実にメリケンらしく、結末には深く考えさせられた。レミーが怪しいと匂わせておいて、ドイルの計画だったとは予想できなかったな。脚本自体が素晴らしいのだが、監督のベン・アフレックの手腕もあるのだろうな。しかし、最後のシーンの無邪気なアマンダがなまら可愛いのよね。ヘリーンはジャンキーでアバズレで、アマンダの世話をろくすっぽできないのに、あんなに可愛い子が生まれ育つのかいな。