スコット・フランク監督作「誘拐の掟」("A Walk Among the Tombstones" : 2014)[DVD]
元刑事の私立探偵が、妻を殺害された男から犯人探しの依頼を受け、やがて凶悪な殺人鬼と対峙していく様を描くクライム・スリラー作品。
1991年のニューヨーク市。昼間にも関わらず、刑事マット・スカダーは行きつけのバーに入ると、酒を呷り、寛ぎ始める。そこに武装したギャング達が押し入り、突然、店主を銃殺して逃げ出す。マットは車で逃走を図る三人のギャング達を追いかけ、射殺する。しかし、マットはある事が原因となって職を辞し、その日以来、酒を断つのだった。
1999年、マットは無免許の私立探偵を生業とする傍ら、断酒会への参加を続ける。ある夜、マットが食事を取る為にカフェに入ると、断酒会で知り合った画家のピーターが現れ、相談を持ちかける。ピーターは弟ケニーを助けて欲しいと懇願する。マットは躊躇うが、ピーターに話だけでも聞いて欲しいと請われ、そのままケニーの住む屋敷に赴く。
マットが事情を尋ねると、ケニーは前日に妻キャリーが誘拐され、犯人に金を支払ったものの殺害された事を明かし、犯人探しを依頼する。マットはケニーの羽振りの良さを見て、堅気では無く、ドラッグ絡みの仕事をしていると察知する。ケニーが仲介人だと認めると、マットは犯人がケニーに金があると見込んだ上での犯行だと指摘する。ケニーはマットに前金として2万ドル、犯人を発見したら更に2万ドルの報酬を提示するが、マットは依頼を断り、立ち去る。
マットは断酒会に寄った後、アパートに戻ると、部屋の前で待つケニーと会う。ケニーは改めてキャリーが誘拐されてからの経緯をマットに明かす。犯人は100万ドルを要求してきたが、ケニーは無い袖は触れぬと主張し、支払い可能な額40万ドルを、指示された通りにゴミ袋に詰め、指定された電話ボックスへ向かった。犯人は金を奪い、更にケニーを電話による指示で振り回した挙句、車のトランクにバラバラにして袋詰にしたキャリーの遺体を寄越してきたのだった。ケニーは、トランクに「聴いて楽しめ」というメモと共に、妻を陵辱し殺害するまでの音声を記録したテープがあった事を明かすと、そのテープと自らの連絡先を残して、その場を後にする。
翌日、マットはキャリーの死体が発見された現場に赴き、付近の住民に聞き込みを開始する。マットはキャリーの最近の足取りを追う中で、キャリーを見つめる制服姿の不審な男二人組の乗ったバンについて知る。マットは過去の事件との関連を探るべく、図書館で過去の新聞記事を参照し、直近でマリーという女がバラバラ遺体として発見されていた事を知る。
その最中、マットは図書館に入り浸る、シェルター暮らしの少年TJと出会うと、ネットの使用に長けたTJに調査の協力を求める。TJが発見した過去の記事から、25歳の学生レイラがグリーンウッド墓地で、同じ手口によるバラバラ遺体として、墓地管理人により発見されていた事が判明する。目撃者によるとレイラは男三人に青いバンに乗せられており、その日、レイラは婚約者ルーベンとランチの約束をしていたという。マットは小賢しくも憎めないTJを馴染みのカフェに連れ出し、食事を奢る。TJはマットを慕い、自分を相棒に雇う様に懇願し、シェルターに帰っていく。
翌朝、マットは墓地を訪ね、管理人のジョナスに事情を聞く。ジョナスは遺体を詰めた袋を池で回収した時の様子を手短に伝えると、事件に関して口を噤む。マットはジョナスの様子を訝り、尾行すると、ジョナスのアパートがルーベンのアパートの向かいにある事を知る。マットは自らを尾行するTJを捕まえ、関わらぬ様に諭す。
マットは俳優と称するルーベンと会い、レイラが誘拐された時の状況を聞く。マットはルーベンもまた羽振りの良い生活をしている事から、堅気では無いと疑う。ジョナスが外出したのを見計らって、ジョナスのアパートを訪ね、部屋に母親の在宅を知ると、屋上へ向かう。屋上にはジョナスが世話をしていると話していた鳩のケージと、施錠された小屋があり、マットは小屋の中に押し入る。マットは小屋の中を物色し、レイラを撮影した写真を発見する。そこへ、マットの侵入を察知したジョナスがナイフを片手に現れ、マットを帰したら二人に殺されると訴える。マットは写真と引き換えにジョナスからナイフを取り上げ、事情を聞く。
ジョナスはアパートの近くの特殊な作品が揃うビデオ屋で二人と知り合った事を明かすと、人間とは思えない二人の性格や特徴と、警察無線やDEAが管理するドラッグの売人ファイルを所持していた事を伝える。ジョナスはレイラをルーベンから救いたいという点で二人と意気投合したものの、二人がレイラをバンで誘拐した後、ビデオ撮影をしながら残虐行為を楽しむ様子に耐えかね、逃走した事を打ち明ける。その二日後に、ジョナスが喋らないと承知の上で、墓地に遺体が捨てられたのだという。
マットはジョナスにビデオ屋への同行を求めるが、ジョナスは鳩に餌をやると、二人の内の一人の名がレイだと明かした直後に投身自殺を図る。一方その頃、二人組は業者を装い、バンを流しながら次のターゲットを物色し、裕福そうな家の少女に目を付ける。
マットはケニーの屋敷を訪ね、調査で判明した事実をケニーに報告すると、同じ事件が起こる可能性を説き、売人仲間に誘拐の事を知らせる様に促し、次は自分が相手になるという意向を告げる。ケニーは、実は犯人に金を払えたのに払わなかった事を明かし、堅気の事業に投資する為の金を払い渋った事を悔やむが、マットは犯人が人質を生かして返すつもりはない事を諭す。
翌日、マットはマリー殺害について調査に乗り出し、足取りを追って売人のアジトの廃ビルを訪ねる。マットはそこで遭遇した男達から、マリーがDEAの捜査官だった事を知る。その夜、マットは断酒会でピーターと再会する。ピーターはかつて陸軍で戦地に派遣され、帰国後、ケニーと共にドラッグを売り、生活費を稼いでいた事、ケニーは商売を広げる一方で自らは美術学校をヤク中で中退し、現在はパン職人をしている事を明かす。マットは配管工事の不審なバンが周囲を彷徨いている事を察知し、交換に問い合わせた結果、それが存在しない会社だと知る。
その直後、マットはTJと遭遇する。マットはTJがバッグに忍ばせたベレッタを発見し、入手先を問い質すと、TJはギャングの手下がゴミ箱に隠したのをくすねたと打ち明ける。マットはTJに銃の扱い方を教えると、銃を持ち歩けばいつか命を落とす事になると諭す。
翌日、マットはバンから出てきた男に尾行されているのを察知し、不意を突いて男を撃退するが、その男はDEAの捜査官だと判明する。マットはマリー殺害に絡み、レイとその相棒を探している事を明かすと、DEAはマットが事件と無関係だと知り、解放する。
その夜、マットはピーターの自宅を訪ねると、ピーターがケニーへの嫉妬が昂じてケニーをDEAに売ったと指摘する。ピーターは9ヶ月前にケニーとキャリーがバミューダに旅行へ行った際、キャリーに留守番を頼まれ、そこでケニーの金を見つけると、ドラッグを買いに行った先で捜査官に捕まり、ケニーを売ることにしたのだと打ち明ける。ピーターはケニーがわざと金を置いていったのだと邪推する。マットはその捜査官が、二人組に殺されたマリーだと明かすと、ピーターのせいでケニーの名がファイルに乗り、またそのファイルが二人組の手に渡った事でケニーの名が知られたのだと指摘する。それを知ったピーターは自責の念に駆られる。マットは依頼を断り、金を返す意向をピーターに伝える。
一方、TJは銃の持ち主のギャング達に襲われ、靴と金を奪われて負傷する。マットはTJが搬送された病院へ駆け付け、TJが鎌状赤血球症を患っており、危険な状態に陥っていた事を知る。TJは11歳の時に発作を起こし、母親が自分を入院させたまま失踪した事を打ち明ける。マットは刑事を辞めた理由を尋ねられ、まだTJに話していなかったあの日の顛末について聞かせる。マットは三人のギャングを射殺したが、その最中に流れ弾が少女に直撃した事で死なせてしまい、酒に酔っていた自分を責め、刑事を辞したのだった。
程なく、TJはマットが買い与えた新しい靴と携帯を手にして病院を抜け出す。マットは金を返すべく、ケニーの屋敷を訪ねるが、そこにピーターが現れ、ケニーが同じく誘拐に直面した友人ランドーの元へ向かったと伝える。マットはその足でランドーの屋敷を訪ねる。ランドーは自らが留守にし、植物状態の妻が手出しできないのを見越して、14歳の娘ルシアが誘拐された事をマットに伝え、マットにルシアの救出を懇願する。
犯人から連絡が来ると、マットが応対し、自分が相手になると告げ、ルシアの無事を金を払う絶対条件に据える。マットは犯人にルシアを生かしておく必要があるとランドーに説く。ランドーの手元に現金が少なく、偽札20万ドルとケニーの用立てる50万ドルで身代金を工面する事で、マットは計画を立てる。マットはTJに連絡し、アパートの自室から箱を持ってくる様に指示する。
犯人から再び連絡が来ると、マットは主導権を与えず、強気に取引を進める。マットはルシアが無事でいる証拠を提示させようと試みるが、犯人がルシアを電話口に出す事を拒んだ為、マットはルシアだけが知り得る言葉を聞き出す様に提案する。程なくして、犯人は連絡を寄越し、マットにその言葉を伝えると、2時間で金を用意する様に命じる。
マット達は偽札20万ドルとケニーが持ち寄った60万ドルを、すぐに察知されぬ様に組み合わせる。犯人から引き渡しの連絡があり、マットは金を確認した後、納得したらルシアを返す様に提案する。対面での受け渡しで捕まる事を危惧する犯人に、マットはレイの名で呼びかける。更にマットはルシアに手を出せば殺すと宣告し、金を手にするか、死ぬまで脅えて暮らすかの選択を迫ると、取引が完了すれば口を閉ざす事を約束し、取引場所をグリーンウッド墓地に指定する。マットはTJから受け取った箱から、あの日以来封じてきた銃とコートを取り出し、身に付ける。
指定時刻の10時半が近づくと、マット、ケニー、ピーター、ランドーが現場に向かう事になり、TJは車に残り、不測の事態の時の通報を命じられる。マットとランドーが指定場所に到着し、ケニーは銃を、ピーターはライフルを構えて身を潜める。二人組が現れると、マットは金をもう一人の男アルバートに手渡し、レイにルシアを解放させる。マットはルシアが指を切断されている事に気付くと、レイはマットと話す前に行った事だと開き直る。レイがマットに銃を突き付け、威嚇すると、マットは撃つように挑発するが、レイはそれに乗らずに立ち去ろうとする。その時、アルバートが偽札に気づき、レイにそれを知らせた途端、マットはレイに発砲する。レイは防弾チョッキで致命傷を免れるが、アルバートがマシンガンで反撃し、ケニーも応戦する。ピーターは狙撃に失敗し、逃走したところを銃撃され致命傷を負う。アルバートがバンを発進させ、レイが乗り込もうとしたところをケニーが銃撃し、レイを負傷させるが、バンはそのまま逃走する。ピーターはケニーに真実を伝えようとするが、息絶える。
車に戻ったマットとケニーはTJがいない事に気付き、銃声に脅えて逃げたと考え、探しに向かう。しかし、TJは二人組のバンに忍び込んでおり、様子を窺う。二人組が住宅街の中に位置するアジトに戻ると、マットから連絡を受けたTJはアジトの住所を伝える。レイはアルバートに傷の手当を請うが、アルバートの様子が素っ気ない事から、足手まといで殺されると察知し、スタンガンを忍ばせる。TJが窓からアジトの中の様子を覗ったその時、アルバートがレイを絞殺する。
マットとケニーがアジトに到着すると、寛ぐアルバートに忍び寄り、拘束する。アルバートはレイもバラバラにして処理する予定だった事を明かす。アルバートに銃を突き付けるケニーに対しマットは、山程の証拠を元にアルバートを警察に引き渡すか、或いはその手で復讐を果たすかの選択肢を与える。マットはケニーの決意が揺るがない事を悟り、TJを連れて立ち去る。
ケニーはアルバートを殴りつけ、殺人や解体の道具が並ぶ地下の様子を窺うと、包丁を手に取る。その間にアルバートは意識を取り戻し、拘束を解く。マットはTJをタクシーに乗せると、異変を察知し、再びアジトの中へ戻る。マットは地下室で血塗れのアルバートとケニーの死体を発見するや否や、不意を突かれてアルバートに襲われる。マットは窮地に陥るが、レイが忍ばせたスタンガンを発見すると、それを手に取りアルバートを制圧する。マットは二度と過ちを犯さぬ様に、迷うこと無くアルバートを射殺する。
現場に警察が駆けつけると、マットは帰路に就く。明け方、アパートに戻ったマットは、自室のソファで寝入るTJと、マットを模したヒーローを描いた絵を発見する。マットは椅子に腰掛け、TJの姿を見つめながら眠りに落ちる。
リーアム・ニーソン主演作としては、丁度同時期にリリースされた「ラン・オールナイト」と一見被っている様なスリラーなのだが、その実、趣向は全く異なる作品になっており、個人的にはこちらの方が甚く気に入った。脚本や演出など、最近のニーソン作品の中でもかなり良く出来ていると思う。ニーソンは96時間シリーズの様な動的なアクション・スリラーより、こういうどちらかと言えばストーリー重視で静的な探偵モノの方が合っているんだな。マジでこの人はスクリーン映えするから大好きな役者だが、本作はその魅力が存分に引き出されているし、できればDVDじゃなくてBDで観たかった。こんな哀愁漂うカッコいい60過ぎのおっさんはそうそういないわ。血腥い二人組の殺人鬼の胸糞悪さとは対照的に、小生意気なTJがマットを慕う様子が微笑ましいのが本作の救いでもある。マットとの軽妙なやり取りが可笑しいんだ。これはシリーズ化できないのかしら。