リチャード・ケリー監督作「運命のボタン」("The Box" : 2009)[DVD]
ある日突然送り届けられたボタン装置により、一人の人間の命と引き換えに100万ドルを獲得するか否かの選択を迫られる事になった夫妻の、運命の帰趨を描くSFサイコ・スリラー作品。
1976年、ヴァージニア州の住宅街に暮らすルイス一家。夫アーサーはNASAのラングレー・リサーチ・センター(LRC)に勤めるエンジニアで、かねてから宇宙飛行士になる事を熱望している。教師の妻ノーマは、幼い頃に右足を骨折をしてレントゲンを撮った際に、医師の不手際によるX線の過剰照射で壊死を起こし、障害を負っている。夫妻の一人息子ウォルターは中等学校に通っている。
12月16日の早朝、玄関のベルが鳴り、目覚めたノーマが確認しに行くと、ドアの前に小包を発見し、一台の車が走り去る。アーサーが小包を開封すると、中から鍵の掛かった箱状のボタン装置が現れる。夫妻は親族の花嫁付添人をする事になっており、アーサーはそれに纏わるギフトだと疑う。ところが装置には手紙が添付されており、それはスチュワードが午後5時に訪問すると告げている事から、夫妻はその真意を図りかね困惑する。
その日、ノーマは授業中に生徒の一人で奇行の目立つチャールズから、障害のある足を見せる様に請われる。ノーマはそれに応じ、生徒達の前で素足を露わにする。一方、LRCでは火星探査結果の記者会見が行われ、アーサーはその様子を見守る。会見場にはNSAの副長官ティーグが同席していた事から、LRC責任者のカーヒルは記者にNSAの関与の有無を追求される。
ノーマは校長に来学期からの学費の教員割引の中止を伝えられ、家計が逼迫する事を懸念する。一方、アーサーは業務の合間を縫って、クリスマスにノーマへ贈るハイテク素材の義足の作成に励む。
午後5時、ルイス家にケロイドで左頬が削げ落ちた異様な風貌の老人スチュワードがやってくる。ノーマが招き入れると、スチュワードは金銭面での提案と称して、鍵を取り出し、ボタン装置を解錠すると、ボタンを押す事で二つの事、すなわち「どこかであなたの知らない誰かが死ぬ」、そして「あなたは100万ドルを手にする」が起きると告げる。スチュワードはケースに入った100万ドルを見せると、招き入れてくれた礼と称して100ドルをノーマに進呈する。訝るノーマに対し、スチュワードはこの提案が本当である事を告げ、金の支払いに関する三つの制約、すなわち、雇い主について一切の情報を提供できない事、提案について夫以外の誰にも話してはならない事、猶予が24時間である事、を課す。スチュワードは明日の午後5時までに決断する用に告げると、その後、装置がリセットされ、別の者にチャンスを提供する事を伝えて立ち去る。
その頃、アーサーは宇宙飛行士訓練センターから試験の不合格通知を受け取る。試験に人生を懸け、最高点を出した事で合格を確信していたアーサーは愕然とし、即座にセンターに問い合わせると、心理テストで失敗した事を伝えられ、失望する。
ノーマは帰宅したアーサーにスチュワードからの提案について報告するが、アーサーはその話を一笑に付す。アーサーはスチュワードが詐欺師だと疑い、試みに装置の底面を外すと、中には配線や通信装置の類が入っておらず、ただの箱だと判明する。ノーマは金があれば人生が楽になると主張するが、アーサーはNASAを辞めて収入の良い仕事を探すと提案する。二人は決断を保留し、眠りに就く。
翌日、二人は装置を前にして、尚も決断を躊躇う。アーサーは罪の意識に耐えられるのかノーマに問いかけるが、ノーマは勢いに任せてボタンを押す。その頃、LRC勤務のロケット科学者カーンズが自宅で妻を射殺し、逃走する。
午後5時にルイス家にスチュワードがやってくる。スチュワードは二人に現金100万ドルを進呈し、人が死んだ事を伝えると、装置と鍵を受け取ってその場を後にする。アーサーは翻意して金を返そうとするが、スチュワードは車に乗って走り去ってしまい、アーサーは車のナンバーを控える。その後、アーサーは困惑するノーマに義足を贈り、ノーマは足を引きずらずに歩ける様になる。
その夜、二人は親族の結婚リハーサルディナーへ出席する。出席者で寄せ合ったクリスマスプレゼントを各々が選ぶ事になり、一番手のアーサーはその中にボタン装置が入っていたのとそっくりの質素な小包を発見し、それを選ぶ。その中にはスチュワードの顔写真のみが入っており、二人はその真意が掴めず困惑する。パーティの最中、アーサーはノーマの父で警察官のディックに、控えたナンバーの調査を依頼する。その直後、ノーマは会場の電話でスチュワードからの連絡を受ける。スチュワードは警察が介在した事を咎めると、自分に大勢の「従業員」がいる事を明かす。ノーマは誰も傷つけたくないと訴えるが、スチュワードはボタンを押すべきでは無かったと説き、試練が装置のリセットの時まで続くと告げる。ノーマが何をすべきなのか尋ねると、スチュワードは良心の声を聞いて、それに従う様に促す。一方、アーサーは会場で給仕として働くチャールズの奇行を訝り、友人からチャールズがノーマを辱めた事を知ると、チャールズの自分への不可解な態度に憤怒する。アーサーがチャールズに詰め寄ると、チャールズは鼻血を流し始め、場内は騒然とする。アーサーはノーマと共に会場を後にする。車の窓には"NO EXIT"の文字が浮き上がり、二人の周囲には奇行に及ぶ者が現れ始める。
帰宅後、アーサーはウォルターのシッターを頼んでいたデイナを、宿泊先のモーテルまで車で送る。道中、デイナは不可解な言動の後、鼻血を流して意識を失う。モーテルに到着すると、アーサーはデイナの身分証を確認し、本名と住所を偽っている事が判明する。目を覚ましたデイナは、モーテルが危険であり、立ち去る様にアーサーに促すと、救えるのは一人だけであり、鏡を見れば分かるはずだと告げ、モーテルの中に走り去る。帰宅したアーサーは、デイナを雇ったノーマに、デイナと知り合った場所を尋ね、デイナが素性を偽っている事を伝える。その後、アーサーはNASA職員の集合写真の中にスチュワードを発見する。
翌日、ルイス家にスチュワードから連絡が来る。スチュワードはノーマに、アーサーが自分の身辺を嗅ぎまわっている事を戒める。ノーマが直接会って話したいと要求すると、スチュワードは庭にいてノーマを見ていると告げる。ノーマは庭で屋内を凝視する見知らぬ男がいるのを発見する。
アーサーは警察署にディックを訪ね、ナンバーが連邦政府発行の物でNSAが使用する車だと伝えられる。更にアーサーはカーンズの妻が殺された件についても伝えられ、その死亡時刻が午後4時45分だと知ると、カーンズの家に案内を請う。一方、母親と買い物をしているノーマの前に記者の女が駆け寄り、NSAが黙認している事と称して、「あの男」が子供一人の幸せな夫婦を試していると明かし、図書館で調べる様にと告げてノーマにメモを手渡す。女はノーマに、夫も含め誰も信用せぬ様に警告すると、鼻血を流して倒れる。
アーサーはディックの案内でカーンズの自宅を訪ね、NASAの広報担当官だったスチュワードの写真を発見し、ディックに調査を依頼する。アーサーは「人的資源開発マニュアル」を撮影したポラライドを密かに回収する。
アーサーはポラライドに記された番号を元に、ノーマは女から受け取ったメモを元に、それぞれ互い違いの目的で図書館に訪れる。アーサーは稲妻の本を手に取ると、その中に挟み込まれた、スチュワードが稲妻に撃たれた様子を記した記事を見つける。ノーマはメモを元にフィルムを手に取ると、映写機で再生し、稲妻がセンターに直撃した時の様子と、負傷する前のスチュワードの姿を確認する。
その後、アーサーは「従業員」達に取り囲まれる。そこに現れた老女は「彼」が試していると告げ、アーサーを別室に招く。老女は三つの入口を前にして手をかざすと、そこに三本の水柱が現れる。老女は選べるのが一つだけでそれが救済への道であり、他の二つは永遠の破滅だと告げ、アーサーに慎重に選ぶ様に促す。アーサーは二番の入口を選び、水柱に手を伸ばすと、中に引き寄せられ、時空を超越する。
一方、ノーマは「従業員」に導かれ、スチュワードの元へ辿り着く。スチュワードは稲妻に撃たれた事を認めると、最初に自分の顔を見た時にどう感じたのか尋ねる。ノーマは自らが足の障害で長い間苦しんできた事を述懐すると、自分がその顔だったらどれほどの苦しみを感じるかを想像したら、溢れる様な愛を自覚し、二度と自分を哀れむのをよそうと誓った事を打ち明ける。スチュワードは手を差し出すと、それに触れる様に促し、応じたノーマは意識を失う。
その後、自宅のベッドで目を覚ましたノーマは、宙に浮いた水柱の中のアーサーに手を差し出す。その途端に水柱は破られ、アーサーは現実に戻る。
ティーグはカーヒルにスチュワードに関する情報を提供する。バイキングによる火星の最初の送信後、稲妻に撃たれたスチュワードは、その後、消息を絶ち、やがて別の何かになった。スチュワードは火傷病棟に搬送され、程なく死亡したが、遺体安置所の冷凍庫に入れた数時間後に蘇生し、厳重警備の軍病院に移送されると、通常の10倍の速さで傷が治り、細胞変性が停止する等の驚くべき能力を示し始めたという。
ティーグはスチュワードの元を訪ね、なぜ箱を使用するのか尋ねる。スチュワードは人間の一生が家、車、テレビを始めとする箱に囚われており、この世の命が仮のものであると説く。更にスチュワードは、試みが終わり次第、雇い主にデータを渡し、人間の運命が彼らに委ねられる事を明かすと、試みに打ち勝つ方法はボタンを押さぬ事であり、押さぬ者が多ければ試みが終わるが、当分は続く見込みだと告げる。スチュワードは人類が利他主義を実現できぬなら生き残る資格は無いと主張し、雇い主が人類の絶滅を実行すると告げる。「従業員」と称する被験者達は、ポータルを通じてマサチューセッツへ移動させられる。
その夜、アーサーとノーマは結婚式に出席する。アーサーは水柱の中で光に包まれている間に、筆舌に尽くし難い、平和で心地よく、絶望が支配する事のない世界を見た事をノーマに打ち明ける。その後、アーサーは吐き気を催し、会場の外へ出る。そこにカーンズが現れ、アーサーに銃を突き付ける。カーンズは自分は手遅れだが、アーサーは間に合うと告げると、苦しみから逃れたいなら一緒に来るように命じ、車にアーサーを乗せて走り出す。アーサーを探しに来たウォルターは「従業員」達に拉致され、その様子を目撃したノーマもまた昏睡させられ、拉致される。
カーンズはアーサーにCIAの機密文書「人的資源開発マニュアル」を見せると、「彼ら」が人間の脳へ不完全な入り方しかできずに「従業員」達が鼻血を流す事、スチュワードの体を支配する何かにも限界があり、軍、CIA、FBI、NASAの全てが籍をおくラングレーに身を据えている事を明かす。カーンズは自らの娘と同様、ウォルターが「従業員」達により輸送拠点となっているモーテルへ連れ去られた事を伝えると、妻か娘のどちらを救うかの選択を迫られ、娘を救うために已む無く妻を殺した事を明かす。その直後、車にトラックが衝突し、カーンズは即死する。アーサーは連れ去られた後、カーヒルに理解を超えた事が起きると伝えられ、翌朝、ノーマとともに自宅へ送り届けられる。
帰宅した二人をスチュワードが待ち受け、二人に尊敬と称賛の念を抱き、希望を与えられた事を伝える。スチュワードはウォルターの視覚と聴覚を奪った事を明かすと、二人に二つの選択肢を与える。一つは「ウォルターの障害は一生そのまま残るものの、夫妻は100万ドルで豊かな暮らしを送る。」であり、もう一つは「アーサーがノーマの心臓を撃って殺す事でウォルターが元通りになり、100万ドルは銀行に預けられ、ウォルターの18歳の誕生日に贈られる。」だという。スチュワードが拳銃を差し出すと、アーサーはそれをスチュワードに向けるが、スチュワードは自分を殺しても後任が来るだけだと諭す。アーサーは時空を超えた先で見たものが来世であり、この世が煉獄である事をスチュワードに確認すると、人類を滅ぼすつもりなのか尋ねる。スチュワードはそれに答えず、ウォルターが浴室にいる事を伝えて立ち去る。
視覚と聴覚を失ったウォルターはパニックに陥り、浴室で二人に助けを求めるが、ドアには鍵がかけられており、駆け付けた二人は手をこまねく。ノーマはウォルターが苦しむのが耐え切れないと伝え、自分を撃つ様にアーサーに哀願する。二人は抱き合い、永遠の愛を確かめ合うと、来世で会う事を約束し、アーサーはノーマの心臓を撃つ。その時、別の夫妻により装置のボタンが押される。ノーマが絶命して程なく、ルイス家に警察が駆け付け、アーサーは逮捕されるが、すぐに別の組織に身柄が移される。カーヒルはアーサーに、ウォルター共々心配せずとも良いという、「彼ら」によるメッセージを伝える。スチュワードは別の夫妻からボタン装置を回収する。
原作をどこまで再現しているのか知らないが、かなり突拍子も無いストーリーだから、実写映画化に当たってかなり無理が生じている様な気がする。人智を超えた存在(宇宙人?)が、実験と称して人類を手玉に取って遊んでるだけという話だが、究極の選択というテーマはシンプルで良いのに、時空移動だの来世だのといったSF的要素がとっ散らかっているのが、逆に作品を退屈にさせている感じ。ノーマが重い障害を持っていて、その事がきっかけとなり、スチュワードの顔面のケロイドに対して、哀れみを超えた愛を自覚するのだから、最後は金を没収してノーマとウォルターを救う選択肢があったって良いじゃないか。ごちゃごちゃしてる割には単線的なんだよなぁ。キャメロン・ディアスがこういう悲壮感漂う役を演じるのは意外ではあるが、やはりキレのある役柄の方が似合うな。