マイケル・マン監督作「ブラックハット」（"Blackhat" : 2015）[BD]
凶悪ハッカーにより、原発事故、先物相場急騰と立て続けに起きるサイバー攻撃の被害を防ぐべく、天才ハッカーが米中の合同捜査に加わり、犯人追跡に奔走する様を描くミステリー・スリラー作品。
ある日、香港のチャイワン原発が、凶悪なハッカー「ブラックハット」によるサイバー攻撃を受け、冷却装置が破損し、爆発事故が発生する。原子炉に亀裂が生じ、作業員複数名が死傷、半径10キロ圏内の住民が避難する事態となる。犯人はRAT（遠隔操作ツール）でバックドアを仕込み、マルウェアで計器を正常に見せかけ、その間に冷却装置を破壊した事、更に米国の同型原子炉も同時に攻撃されたが、ソフトウェアが異なっていた為に難を逃れた事が判明する。原発内部は放射能汚染が酷い為に、中に入って解析に必要なコードを入手する事ができず、また犯人からの声明が無い為にその目的も掴めず、中国の軍当局は手を拱く。ニューヨーク育ちでMITを卒業した後、中国軍でサイバー防衛を担当する大尉チェン・ダーワイは、FBIと連携する事でRATのコードを入手すれば多くが判明すると上官に進言する。
事の重大性に鑑み、中国からの要請に已む無く応じたFBIでは、バレットが捜査を担当する事になる。チェンはバレットから犯行に使用されたコードを入手するが、それはかつて天才ハッカーにして旧友のハサウェイと共に作った物である事が判明する。チェンは妹でネットワーク技術者のリエンに事情を明かすと、協力を求め、二人は渡米する。程なく、同じRATを用いたサイバー攻撃により、家畜飼料用大豆の先物価格が急騰させられる。
FBIと合流したチェンは、FBIの技術者では埒が明かないと判断すると、かつて大手銀行に4600万ドルの損害を与えた事により、15年の刑で服役中のハサウェイを捜査に加える様にバレットに要請する。バレットは難色を示すが、チェンはRATのオリジナルが元々MIT時代にハサウェイと共に作った物で、ハッカーがそれを改変して使っている事を明かし、コードを詳細に調べるにはハサウェイが必要だと主張する。
ハサウェイは自分無しでは捜査の進展が見込めない事を盾に、ハッカー逮捕の見返りとして釈放を要求し、連邦検事補は已む無くそれに応じる。ハサウェイには追跡装置の装着と連邦保安官の常時監視、端末仕様の制限が課せられ、一時出所が認められる。
ハサウェイはチェン、リエン、バレット、連邦保安官ジェサップらと合流すると、侵入を受けた会社のサーバーを訪ねる。ハサウェイの調査により、USBを介してRATが仕込まれた事が判明し、一ヶ月のみ在籍した社員ロザーノが関与した疑いが強まる。また犯人は目立たず価格を操作する事も可能であったのに、１日で2.5倍に急騰させている事から、早急に現金が必要だった可能性が疑われる。RATの中には未完成のコードがあり、ハサウェイはそれがより大きい標的を攻撃する為の準備段階だと察知する。
ロザーノの本名がレイエスで、ロサンゼルスに潜伏している事が判明すると、ハサウェイとリエンがそのアパートを訪ねる。ハサウェイ達はそこでレイエスの死体を発見し、PCのメールのやり取りから、韓国料理店が何らかの受け渡し場所に指定されている事が判明する。ハサウェイはレイエスを騙り、メールの相手に返事を出す。一方、チェンとバレットは大豆急騰で大幅な利益を出したトレーダーを探るべく、証券会社を訪ねる。取引記録を入手したチェン達は、調査の過程で、大量に売り抜けた人物の存在を掴む。
夜、ハサウェイとリエンは韓国料理店で取引相手が現れるのを待つ。ハサウェイはリエンに身の上話を聞かせる。ハサウェイはかつて女とバーにいた際、絡んできた男を痛めつけて逮捕され、１年半の実刑を受けて大学を棒に振った。22歳で出所するも、シリコンバレーに前科者の仕事は無く、ハサウェイはカード詐欺を派手に８年間続けた後、FBIに逮捕され、13年の刑に処されたという。ハサウェイは銀行が損害を被っただけで後悔していない事を告げると、リエンはハサウェイに同情する。ハサウェイは服役中も刑務所の時間に縛られず、自分の流儀を貫いて有意義に過ごしており、同情は無用だと告げる。リエンはハサウェイがまだ刑務所にいる様だと指摘すると、過去を忘れて、凶悪なハッカーと対峙しているこの現実に集中するべきだと説き、ハサウェイはそれができる強くて賢い人だと奮起させる。一方、バレットとチェンは短時間で大量に売り抜けた三つの口座を発見し、そのどれも香港の銀行口座だと判明する。
店に誰も現れない事を訝しむハサウェイは、店の奥の事務所に侵入する。ハサウェイはそこにあるPCを介して、店内の監視カメラが遠隔操作され、映像が送信されている事に気付くと、IPアドレスを調べる事で犯人がウクライナを経由している事が判明する。ハサウェイはIPに紐付いているアカウント宛に犯人を挑発するメッセージを送り付けると、店から出ようとするが、そこに韓国人の刺客達が現れる。ハサウェイは刺客達を撃退すると、リエンと共にタクシーで逃走する。ハサウェイはレイエスへのメールが罠で、追っている者の有無を犯人が確かめようと企てたのだと悟る。
口座に集まった合計7400万ドルに上る大金の行方を追うべく、ハサウェイ達は朝一番で香港へ飛ぶ事を決める。その夜。ハサウェイはリエンと関係を持つ。ハサウェイは製鉄所勤めの父に男手一つで育てられ、自らの服役中に父が二度面会に来た後、病死した事、その後、思い出を支えに出所後やり直そうと思っていた事を明かす。
香港に着くとハサウェイ達はチャイワン原発を訪ね、その凄惨な状況を目の当たりにすると共に、犯人からの要求が無い為に、動機がいまだ掴めない事を知る。攻撃されたのはPLC（プログラマブルロジックコントローラ）、すなわち冷却用ポンプの制御装置で、サーバーが制御室の中にあり放射線に阻まれて必要な情報が入手できないという。
ハサウェイ達は、繁華街の一角に、香港警察の刑事トラン達により設けられた拠点に赴く。トランは三人のハッカーと思しき男達を監視しており、彼らがいずれも相場とは無縁であり、電話もネットも使わず、どの様に連絡を取り合っているのか掴めず、手を拱いている事を伝える。ハサウェイは三人に指示を出す事で動かしている仲介役の存在を説き、三人の行動ルートに接点を見出す。
ハサウェイ達はその地点を訪ね、組織犯罪対策課のチームと遭遇する。チームは盗品密売を繰り返すレバノン人カサールを監視し、接触する相手を調べている事を明かす。かつてコロンビア民兵組織に所属していたカサールは、誰かと会うために毎朝同じ場所に来て、メールを打っているが、今のところ誰も現れないという。ハサウェイは現場付近に埋められた送信機を発見し、カサールがそれでメールを送り、三人が受信機で読んでいた事が判明する。ハサウェイ達はカサールを泳がせ、動向を窺う事を決めるが、カサールは警察の監視を察知する。
その直後、口座の金が全額、マカオのカジノへ移され、犯人達が現金化に向けて動き出した事が判明すると、トランは特殊部隊の出動を要請し、カサール達の確保へ向かう。チェン、ハサウェイ、ジェサップも同行する。監視を行っていた組織犯罪対策課の刑事達が殺害されているのが発見されると、特殊部隊はカサールのアジトから繋がる地下道へ向かい、トラン達はカサールを挟み撃ちにすべく先回りをする。しかし、カサールの仕掛けた罠により、特殊部隊は全滅する。トラン達は奇襲を仕掛けるが、カサールと手下達の反撃を受け、トランが命を落とす。カサール達は現金を携え、ボートで海へ逃走する。
その夜、注水作業が奏功し、原子炉が安定した為、制御室に入れる様になる。ハサウェイ達は原発に急行し、防護服を纏って決死の覚悟で制御室に入り、ハードウェアを回収して戻る。メモリーダンプからマルウェアの断片が確認されるも、不完全な為に情報が得られない事が判明する。ハサウェイはかつて詐欺を行った際に、FBIにファイルを復元された事をバレットに問い質すと、バレットはNSAが保有し、重大犯罪の時のみ使える「ブラック・ウィドウ」で断片化されたデータを再構成できる事を明かす。バレットはNSAのドナヒューに使用を打診するが、拒絶される。ハサウェイは一計を案じる事でドナヒューを欺き、アクセス用パスワードを入手すると、全ての責任を自分が取る事で、秘密裏にブラック・ウィドウを使用する。
断片化されたデータを解読した結果、犯人の本当のIPアドレスが割り出され、ジャカルタにあるブラックハット対策万全のサーバー会社「イントラーマー」が使用されている事が判明する。直接現地に赴き、サーバーを抑えるべく、チェンは上司にビザの発行を要請しに向かう。リエンはイントラーマーの課金一覧にアクセスし、犯人がマレーシアの一角の衛星写真を使用する為に、高額の料金を５回支払っている事を掴み、その目的を訝る。
チェンはビザの件を上官に直訴するが、米国防総省からの連絡で、ハサウェイのNSAへの不正侵入が発覚した事を知らされる。上官は中国が米国と諸問題を抱えていながら、協調路線を維持する為に、ハサウェイを米国に引き渡し、チェンがジャカルタに向かう様に命じる。チェンは秘密裏にハサウェイに事情を連絡すると、ハサウェイはリエンと共にバレットらに悟られぬ様に拠点を抜け出す。
翌朝、バレットは米国本部からの連絡でハサウェイの不正侵入が発覚した事を知り、ハサウェイが追跡装置の設定に細工を施して逃走した事に気付くと、ジェサップと共に追跡を始める。ハサウェイはチェンと密かに落ち合うと、自分を米国に引き渡して逃走する様にチェンに促す。チェンはジャカルタで合流する事を提案すると、リエンには関わらぬ様に命じ、ハサウェイもそれに同意する。リエンは自分の意思で決める意向を示すが、已む無く応じる。
ハサウェイ達は車で香港島へ向かう。納得がいかないリエンは憤慨しながらも、犯人追跡に必要なデータを手渡し、車を降りる。ハサウェイもまた車を降り、リエンの説得に向かう。ハサウェイは自分がただの逃亡犯であり、連れて行くわけにはいかないと告げ、理解を求める。リエンが車内のチェンに向けて手を振った直後、カサールの放ったRPGによりチェンは車諸共爆殺される。車には発信機が取り付けられ、カサール達はそれを追ってきたのである。カサールは手下と共にハサウェイ達に猛攻撃を仕掛ける。そこにジェサップとバレットが乗った車が駆け付けるが、バレットは銃撃を受けて即死する。ジェサップは応戦し、手下達を撃退するも、反撃を受けて死ぬ。ハサウェイ達は地下鉄に逃げ込み、カサール達の追跡を躱す。リエンが同行する事を決めると、二人はチェンの知人を頼ってIDを偽造し、ハサウェイは追跡装置を外す。
二人は衛星写真の座標が示すマレーシアのペラの錫採掘場に辿り着く。ハサウェイはそこにある水を汲み上げるポンプと制御装置が、チャイワン原発と同じ事に気付くと、犯人の真の狙いが、ポンプの破壊により錫鉱山を水浸しにし、錫価格を急騰させる事にあり、原発は予行演習だった事を確信する。7400万ドルは錫の先物を買う資金だったのである。
二人はジャカルタに到着し、拠点を設けると、ハサウェイは騒動を起こして注意を引き付け、その隙を見計らってイントラーマーに侵入し、犯人に関するデータを奪取する。ハサウェイはその中に、５つの採掘場で53の制御装置を一気に破壊できる第三版ウィルスを確認する。リエンは7300万ドルがジャカルタ内の銀行に移されている事を掴むと、銀行に赴き、職員を欺く事で銀行のシステムに装置を仕掛ける。ハサウェイはマルウェアにより7300万ドルを不正に奪取し、スイスの銀行口座に全額送金すると、犯人に挑発的なメッセージと共に連絡先を送り付ける。
その夜、カサールから連絡が来ると、ハサウェイはボスに代わる様に要求する。程なく、連絡してきたブラックハットはハサウェイに望みを尋ねる。ハサウェイはRAT使用料と称して錫鉱山攻撃で得る20％の額を要求する。ブラックハットが条件として対面で直接会う事を要求した為、ハサウェイはカサールと二人で指定した場所に来る様に命じる。ハサウェイは手製の武器を作り、それを忍ばせて指定した廃ビルへと向かう。ハサウェイはブラックハットが手下を多数連れて来ている事を確認すると、場所を変更し、パレードが行われる広場を指定する。
夜、ハサウェイは群衆でごった返す広場でカサールを見つけ、奇襲を仕掛けて殺す。ハサウェイは奪った銃をブラックハットに突き付けると、金では無く敵討ちが目的だと明かす。そこに手下達が駆け付け、銃撃戦になると、群衆は大混乱を来す。ハサウェイは銃撃を受け、負傷しながらも、手下達を全滅させる。ブラックハットは不意を突いてハサウェイにナイフで襲いかかるが、ハサウェイはそれを退け、ブラックハットを刺殺する。ハサウェイはリエンと共に騒動に乗じて広場から逃走する。ハサウェイは手当を行った後、リエンと共にインドネシアを出国する。ブラックハットから奪取した多額の現金はハサウェイの手元に残る。
米中合作の様なノリのサイバー攻撃をテーマに描いたスリラー作品。「ブラックハット」というのは悪性のハッカーの俗称らしく、本作で初めてその言葉を知った。確かに現実世界でもサイバーテロの脅威が日増しに高まっている気配はあるが、本作で描かれている様な手法で、例えば原発なり相場なりを攻撃できるのかどうかはちょっと疑わしいので、やや現実感には欠ける気がする。主人公が天才ハッカーでありながら、身体能力がどこぞの機関のエージェント並という設定も随分ご都合主義だよなぁという感じ。どうでも良いが、否、どうでも良くないが、あんなペラい防護服で水蒸気爆発？直後の原発の制御室に入れるとは到底思えない。1000ミリシーベルト／時とか言ってなかったか？相当被爆したはずだが、ピンピンしていたのが萎えた。リエン役の中国人女優タン・ウェイが美人で、存分に目の保養になったのは良かった。ちなみに制作会社のレジェンダリーは中国のコングロマリット企業に買収されたから、今後はこの手の中国を舞台にしたハリウッド大作が増えたりするのだろうか。
