アダム・マッケイ監督作「マネー・ショート 華麗なる大逆転」("The Big Short" : 2015)[BD]
サブプライム・ローン問題に端を発する世界金融危機の兆候を誰よりも早く掴んだファンドマネージャーと、その情報を偶然知り得た投資家達が、欺瞞に満ちた金融システムに挑戦し、一世一代の空売りを仕掛ける様を描くドラマ作品。
2005年3月、ヘッジファンド「サイオン・キャピタル」のマネージャーにして、医学博士でもある型破りな投資家マイケル・バーリは、その卓抜した感性と知見により、低いリスクで高い利回りが得られる事で隆盛を極めるMBSが、実は極めてリスキーなサブプライムの変動金利ローンを寄せ集めて構成されている事に気付き、2007年にそれらがデフォルトに陥るとの確信を得ると、空売りを仕掛ける事を決意する。マイケルは、助言役であり、サイオンに資金を投じている投資家のローレンスに、MBSの不健全性とAAA格付けの嘘、そんなMBSを売る事で荒稼ぎする銀行の欺瞞を訴えると同時に、誰もが堅実と信じて疑わない住宅市場の破綻を警告し、空売りを打診する。ローレンスはマイケルの主張を真に受けず、空売りに反対するが、マイケルは市場を下支えしているサブプライムローンが時限爆弾だと説くと、あくまで空売りする意向を示す。
マイケルはゴールドマン・サックスに赴き、住宅市場の暴落に対する懸念を伝えると、MBSの空売りとCDSを購入する意向を示す。担当者はそれが馬鹿げた投資だと一笑に付し、債権価格が上がった場合に毎月保険料を支払う事になると説くが、マイケルは目論見書を提出し、CDSの購入契約を結ぶ。その後、マイケルはドイツ銀行やバンカメでも同様にCDSの購入契約を結び、その投資総額は13億ドルに達する。ローレンスはマイケルからその報せを受けると、住宅市場の破綻などありえないと主張し、暴走していると非難する。マイケルは投資戦略に関しては自主性が保護されているはずだと突っ撥ねるが、ファンドが抱える投資家達からも轟々しい非難を浴びる。
ドイツ銀行の行員ジャレド・ベネットは、同僚を通じて、債券部が2億ドル分のCDSをファンドのイカれた男に売ったという情報を聞きつける。ジャレドはそこに儲け話の匂いを嗅ぎ付けると、直ちに部下に定量分析を行わせ、住宅市場の暴落懸念を察知する。一方、モルガン・スタンレー傘下のヘッジファンド「フロントポイント」のマネージャー、マーク・バウムは、自他共に厳しい倫理観を求める高潔さと傲岸不遜な態度が時に無用な反感を招くも、金融システムの欺瞞を見破るべく、三人の有能な部下ヴィニー、ポーター、ダニーと共にディールに励む。マークの妻シンシアは、マークが兄を自殺で失った事から立ち直れていないと察し、日夜、怪気炎を上げるマークに転職を勧める。ある日、ジャレドが別会社と間違えてフロントポイントに電話をかけた事で、マーク達はMBSの空売りの件について知る。マーク達は空売りの意図が掴めず、係る指標を調べ、それらが下落傾向にある事を知ると、詳しい話を聞くべくジャレドを招待する。
ジャレドは、MBSが政府保証付きの格付けAAAの住宅ローン債権の集まりだった当初とは様変わりし、今では保証無しのトランシェ構造になっており、ローンが焦げ付く確率が8%に近づいている事を明かすと、空売りを仕掛けるチャンスだと説き、高いリターンを見込めるCDSの購入を勧める。ジャレドは更にMBSの65%がAAAとされていながら、その実、95%がサブプライムで占められている事、また銀行が市場を危険だと判断すれば債権のリパッケージを行い、CDOに変える事でリスクを分散させた様に見せかけ、格付け機関にAAAと格付けさせる手口に付いて明かす。マーク達は住宅市場が崩壊するという俄に信じられない話に困惑する。懐疑派のヴィニーはジャレドがCDSを売りたい為に嘘を付いているのでは無いかと疑うが、マークは私欲に忠実なジャレドを評価し、信用する。マーク達は住宅バブルが本当に弾けそうなのか確かめるべく、実態の調査に乗り出す。
個人投資家としてガレージで起業したチャーリー・ゲラーとジェイミー・シプリーは、手元資金を11万ドルから3000万ドルに増やすと、更にハイレベルな取引を志向してモルガン・チェースを訪ねるが、ISDAの同意書を得る為の資本要件を圧倒的に満たしていない事を知らされ、屈辱を強いられる。そんな折、二人はひょんな事からジャレッドの起案した、MBSの空売りとCDSの購入により高いリターンが得られるという話を知り、一大転機を見出す。取引にはISDAの同意書が必要な事から、二人はジェイミーの隣人で、銀行業界を熟知したJPモルガンの元トレーダーのベン・リカートに協力を仰ぐ意向を固める。
マイケルはサイオンにやってきたローレンスに、住宅市場が明らかにバブルであり、2007年には間違いなくデフォルトが急増し、CDSが投資家に大きなリターンをもたらすと主張する。ローレンスはマイケルが13億ドルもの巨費を賭け、保険料に年間8000万ドルを費やしている事を知ると、資金の引き揚げを通告する。マイケルはファンドの資本金が減少し過ぎたら、契約が無効になり、担保を取られる事を明かし、翻意を促すが、ローレンスは直ちに金を返す様に要求する。
マーク達はマイアミの住宅開発地を訪ね、また住宅ローンの仲介業者から話を聞く事で、貸し手と借り手の双方がいかに無節操で杜撰な住宅の売買契約を交わしているかを知り、愕然とする。マークは住宅市場がバブル化していると確信し、格付けBBBのCDS5000万ドル分の購入契約をジャレドと交わす。
2006年5月。チャーリーとジェイミーはベンに連絡を図ると、一生に一度のディールの絶好機と説き、比較的リスクの小さい格付けBB、BBBのCDOの空売りについての協力を依頼する。ベンはその話に応じる意向を示し、二人の元へ赴くと、早速ベアー・スターンズとドイツ銀行でCDOの購入契約を結ぶ。
2007年1月。俄に住宅ローンのデフォルトが急増する。その一方で債権価格は上昇し、格付けはAAAのまま維持される。ジャレドはマーク達に担保の追加を要求する。マークはヴィニーと共にスタンダード&プアーズに押しかけ、サブプライムに危機が生じているのに、債権の格付けを下げない理由を問い質す。S&P側は不安要素はあるものの、まだ安全圏だと主張する。マークはS&Pが銀行に唯々諾々と従い、債権をAAAに格付けしているのは非合法であり不当だと非難する。S&Pはマーク達がCDSを抱えている為に、格付けを下げさせようとしていると応酬する。一方、サイオンでは運用益が悪化の一途を辿り、またチャーリーとジェイミーは市場の不合理な推移に憤慨し、それが銀行の犯罪行為だと察知すると、更にCDSを買い増そうと企てる。
ジャレドはフロントポイントを訪ね、担保を要求するが、マーク達に詐欺だと非難され、不条理を説明する様に命じられる。ジャレドは格付け機関、証取委、銀行の全てが愚かであり、愚か者達が愚かなシステムで不正を行っているのだと主張すると、ラスベガスでサブプライム業界の関係者が集まる証券化フォーラムが開催される事を明かし、マーク達にその目で業界の正体を見極める様に促す。一方、ベンもまたチャーリーとジェイミーにフォーラムを訪ねる意向を示す。
マーク達はフォーラムの会場シーザーズ・パレスに赴くと、ジャレドと合流し、情報収集を始める。マークは、債権の健全性を主張するフォーラムの登壇者に、サブプライムの損失が5%で止まる可能性はゼロだと指摘する。その後、マークはメリルリンチと関わるCDOマネージャーの男と会食する。男はCDOが安全だと主張すると共に、合成CDOのスキームを明かし、その市場規模が元になるサブプライムの20倍だと説く。マークは世界経済が破綻すると確信し、更にCDSを買い増す事を決意する。
ベンと共に会場に訪れたチャーリーとジェイミーは、投資家達が尚も市場を楽観視しており、また証取委が市場の調査すらしていない事を知る。そこでチャーリーはCDOのAAトランシェに目を付け、安く入手でき、空売りに最適だと判断する。ベンはそれが名案だと指摘し、早速、銀行からCDOを買い集める。チャーリーとジェイミーはハイリターンを確信して歓喜するが、ベンはそれが即ち、経済の崩壊を意味しているのだと諭す。
債権価格が下がらない事でサイオンの運用益は更に悪化し-20%に達する。マイケルは投資家達に市場が不当であると主張し、資金の引き揚げを制限すると通告する。ローレンスを始め、投資家達はマイケルを訴える構えを見せる。一方、マークは想像を上回る金融システムの悪弊ぶりをシンシアに吐露し、絶望する。シンシアは亡くなった兄の事を一人で抱え込まぬ様に諭す。
2007年4月。株価指数は急落し、市場のメルトダウンが始まる、サブプライムの貸手NCFが破産を申告し、ベアー傘下のヘッジファンドが破綻する。投資家に訴えられたマイケルは、市場が危機に直面しているにも関わらず、CDSの価値が変化しない理由の説明をゴールドマン・サックスに求める。
チャーリーとジェイミーもまた憤慨し、ウォール・ストリート・ジャーナルに知己の記者を訪ねると、CDOをゴミと知りながら投資家に売りつけ、売り切るまで値下げしない一方で、CDSを買いまくっている銀行の犯罪行為について記事にする様に訴えるが、ウォール街となあなあの関係を築いている記者に一蹴される。
マークはジャレドからモルガン・スタンレーの債券部が大損失を出したとの報せを聞きつけると、直ちにモルガン側に真偽の程を問い質し、債券部が大量のCDSを販売した事で150億ドルの債務を負っている事と共に、フロントポイントがそのCDSを購入していた事を知る。傘下のフロントポイントの責任も免れない事から、ヴィニーは投資家の利益を保護する為にも、すぐにCDSを売るべきだとマークに進言する。マークは受託者責任を無視してでも、今は待つべきだと主張し、売るのを拒む。
程なく、ベアーが集団提訴され、破綻の危機に陥る。チャーリーとジェイミーはCDSの8割をベアーで購入している事から、直ちに売り抜けるべく、英国で休暇中のベンに連絡を図る。ベンはそれに応じ、ツテを通じてCDSの全てを8000万ドルで売却する。一方、マイケルもまたCDSを全て売却すると、ローレンスに運用益を送金する。また、ジャレドは4700万ドルの報酬を手にする。
2008年3月。JPの融資を受けた事で懸念を払拭したかの様に見えたベアーだったが、楽観的な投資家達の意に反して、株価は暴落する。程なくベアーズは経営破綻し、カントリーワイド、リーマン・ブラザーズがその後を追って破綻する。マイケルは金融システムへの慨嘆と共に、ファンド閉鎖の意向を投資家達に通告する。サイオンの最終的な運用益は+489%、利益総額26億9000万ドルで確定する。モルガン株もまた紙くず同然となる。ヴィニーはマークに改めてCDSを売る様に進言する。マークは銀行が政府とFRBから救済措置を受けながらもちゃっかりボーナスをせしめ、罪に問われないどころか、銀行の再編反対を陳情する一方で、納税者が尻拭いさせられる事に憤りと憂いを露わにするが、ヴィニーの説得に応じてCDSを10億ドル相当で売る決断を下す。
状況が沈静化した時、5兆ドル分の年金と不動産価値、401k、貯金や債権が消失していた事が判明、800万人が失業し、600万人が家を失った。マークはその後、寛大で穏やかな性格になり、ダニー、ヴィニー、ポーターはマンハッタンでファンドの経営を続けている。チャーリーとジェイミーは格付け機関を訴えようと企てるも不振に終わる。ジェイミーはファンドを運営する一方、チャーリーはニューヨークを離れて、家庭を持った。ベンは妻と共に広大な果樹園で種撒きに勤しんでいる。マイケルは政府に連絡を取り、金融崩壊の兆候に何故気付いたか、教えようとしたが返事は無く、4回の監査に遭い、更にFBIにまで尋問を受けた。その後、マイケルは一つの商品「水」に絞り込んで小さな投資を続けている。2015年、大手銀行がハイリスクなデリバティブ商品"bespoke tranche opportunity"を売り出した。ブルームバーグによると、それは看板を付け替えたCDOだという。