ジョン・リー・ハンコック監督作「ファウンダー ハンバーガー帝国のヒミツ」("The Founder" : 2016)[BD]
マクドナルド社の「創業者」レイ・クロックが、一介のセールスマンからハンバーガー店の大規模なフランチャイズ化を成功させ、無敵の帝国を築き上げていく様を描く伝記ドラマ作品。
1954年、セールスマンを生業とする52歳の野心家レイ・クロックは、イリノイ州を拠点にミルクシェイク用のマルチミキサーを販売する会社プリンス・キャッスルを営んでおり、持ち前の話術と執念を原動力に中西部の数多の飲食店を回って営業活動に精を出すが、芳しい成果を得られず、資金繰りに難航していた。一方、レイが自宅を空ける事が多い事から、放ったらかしにされる妻エセルは不満を抱いていた。
ある日、レイは出先で事務所に控える事務員ジューンを通じて、カリフォルニア州の店からミキサー6台の注文があったと伝え聞く。レイはそれが何かの間違いだと考え、その店のオーナーであるマクドナルド兄弟に連絡する。兄弟は注文数を8台に増やし、サンバーナーディーノの店宛に送るようレイに依頼する。レイは大陸を横断してはるばるサンバーナーディーノのその店「マクドナルド・ハンバーガー」を訪ねる。レイは行列ができる程の店の繁盛ぶりと、更に出来たてのバーガーが注文後すぐに給仕され、どこでも好きな場所で簡単に食べられるという、これまでの常識を覆す画期的な営業形態に感銘を受ける。そこへ兄マックが現れる。レイは自己紹介し、商談でLAに来たついでに店に寄ってみたと偽る。人当たりの良いマックは、レイに厨房見学を勧める。レイはハンバーガーがスピーディかつ精確に調理されていく効率的なシステムに目を見張る。マックは堅物な弟ディックを紹介し、兄弟でそのシステムを考案した事を明かす。レイは創業の話を聞くべく、即座に兄弟を食事へ連れ出す。兄弟はハンバーガー店を開業するまでの経緯を雄弁に語る。
映画業界に関わる為に故郷からハリウッドへ出てきたマクドナルド兄弟は、配給会社の運転手として稼いだ金で映画館を買収したものの、大恐慌に見舞われて廃業を余儀なくされた。次に兄弟はアーケーディアでホットドッグ店を開業したものの客に恵まれず、サンバーナーディーノへ店を移転すると、ドライブインブームに乗るべくBBQ店を開業した。しかし、ろくな客層が集まらないばかりか、待ち時間が長くてミスも多く、更に人件費と諸経費が嵩む事になった。そこで兄弟は主力メニューを絞り、無駄の削減の徹底に努める事で、セルフで注文する効率的なシステムを実現したハンバーガー店を開業した。店の評判は口コミで瞬く間に広まり、大繁盛するに至ったのだという。
レイはマクドナルド兄弟の店に触発され、フランチャイズ化して西から東まで店舗を拡大するよう提案する。兄弟は既にカリフォルニアを中心に数店舗で実施している事を明かし、品質維持の為にそれ以上の拡大に難色を示す。レイは事務所に貼られた店舗の構想図を見て、店舗を飾る象徴的なゴールデンアーチに瞠目する。レイはそのアーチがフェニックスの店舗に設置されている事を知り、早速それを観に行く。
一旦自宅に戻ったレイは、興奮した様子でエセルに革新的な店に関わる意向を示す。エセルは目新しいものにすぐに飛びつくレイに呆れ、もう落ち着いても良い頃だと諭す。レイは諦めきれず、ミキサーの販売をすっぱり止めると、再びマクドナルド兄弟の店を訪ね、アメリカの為にフランチャイズ化が必要であり、どの町にもあって毎日開いている新たな教会の様な存在になり得ると熱弁する。兄弟は協議の末に、全ての店を管理下に置いて報告を徹底させるという条件を課し、レイとパートナー契約を結ぶ。
レイは早速銀行に融資を申請するが、これまで不振続きだった販売業と同一視され、鼻であしらわれる。レイはエセルに断り無く自宅を抵当に入れる事で融資を取り付けると、捲土重来を期す覚悟を固める。レイは足がかりとなる最初の店舗をデスプレーンズに計画し、地下室の追加についてマクドナルド兄弟に許可を求めるが、念入りに確認したいという兄弟の反応が遅い事に苛立つ。またレイはコカ・コーラとの提携について兄弟に提案するが、兄弟は商業主義に偏る事を嫌って一蹴する。紆余曲折を経て、レイは最初の店舗を開業し、その運営に尽力する。レイは不満を募らせるエセルの機嫌を取るべく、社交クラブへ食事に連れていく。レイはそこで資産家にフランチャイズへの加盟を打診し、新店舗を次々に開店させていく。
マクドナルド兄弟の指摘が的中し、新店舗の品質の惨状を目の当たりにしたレイは、怠惰なクラブの面々と決別する。レイは事務所に聖書を売りに来た男をフランチャイズに勧誘し、男の妻と店舗を開業させる。それを皮切りにして、レイは野心を抱く勤勉な若者達を言葉巧みに勧誘し、中西部にフランチャイズを拡大していく。それに伴い、レイはデスプレーンズの店舗を正式に一号店と位置づけ、あたかも創業者の様に振る舞い始める。兄弟はレイの増長ぶりを警戒する。
ある時、レイは加盟者からミネアポリスでレストランを経営するロリーを紹介してもらう。ロリーはノウハウ、後援者、候補地が揃っている事を自負し、フランチャイズへの加盟に申し出る。レイはロリーの妻でピアニストのジョアンに惹かれる。レイを応援すべく加盟者探しに協力するエセルは、帰宅したレイの変わりように温度差を感じ始める。レイはジューンから運転資金が尽きそうだとの報せを受けると、取り分の契約改定について再交渉をマクドナルド兄弟に要求し、加盟店からの取り分を増やせば事業拡大も早まると説く。現状で満足している兄弟は、同意事項を覆して値上げする事を拒否する。
レイはシェイク用アイスの冷凍費が高くて重荷になっている事を知る。そんな折、エセルは銀行からの連絡で自宅が抵当に入っている事を知り、レイを非難する。レイは直ちに銀行に押しかけ、事務所では無く、自宅に連絡した事を非難するが、滞納しているからだと一蹴される。レイはロリーとジョアンが運営している店舗の様子を観に行く。ロリーもまた予想以上の冷凍費に苦慮している事を明かす。ジョアンはアイスより安く、冷凍が不要で、水に混ぜるだけでアイスの質感を出せるインスタミックスなる粉で、冷凍費とシェイクを作る時間を削減する解決策を提案する。レイはその粉で作ったシェイクを試飲し、本物そっくりの味わいに感嘆すると、検討する意向を示す。その報せを受けたマクドナルド兄弟は邪道だと反対する。
レイは銀行から返済の最後通告を受け、銀行で猶予を申し出るも梨の礫で終わる。そこに居合わせた財務コンサルタントを営むソナボーンは、マクドナルドの常連である事から、いつも混んでいるのに儲けられていないなら、そのやり方が間違っているのだと説く。レイはソナボーンを事務所へ招き、財務状況を開示する。ソナボーンは収入源が少なく手元資金も無い台所事情と、変更事項にいちいちマクドナルド兄弟の承認が必要な事、また加盟店が土地を選んでローンを組み、レイがシステムとノウハウを伝授してあとはお任せというシステムについて知ると、レイが土地を所有してそれを加盟店にリースし、安定した収入源を確保する事で店舗を拡大し、支配力を増すという不動産業への転換を図るよう促す。
レイはソナボーンの助言を得て、プリンス・キャッスル社をフランチャイズ・リアルティ社に改編すると、社長兼CEOに就任し、ニューヨークを始めとする東部に進出し、全国展開を加速する。その通知を受けたマクドナルド兄弟は、直ちにレイに連絡し、契約違反だと詰る。レイは加盟店支援の別会社であり、兄弟は店外の出来事には干渉できないと居直る。レイはインスタミックスの使用を承認し、ジョアンの店に届けると、それを全国展開する。レイは野心家のジョアンと気脈を通じていく。エセルはそれを敏感に察知する。兄弟は加盟店にインスタミックスが送られているとの報せを受け、レイに契約に従うよう要求する。レイは契約は壊れるものだと強弁する。
レイはエセルに離婚を申し出る。弁護士はエセルに全てを譲る事で穏便に済ませるよう促すが、レイは事業だけは譲らず、死守する意向を示す。また、レイはマクドナルド兄弟との契約破棄に動き出し、会社をマクドナルド社に改編する。兄弟は自分達が作ったシステムであり、誤解を招くとレイに訴える。レイは勝つ為のコンセプトを作ったのは自分であり、お人好しでは勝てないビジネスの世界だと反論する。兄弟はレイを追放すべく、訴訟を起こす意向を示す。その矢先にマックは糖尿病をこじらせて倒れる。レイは入院先に兄弟を訪ね、白紙の小切手を手渡すと、改めて協議する事を提案する。兄弟はレイには敵わないと諦観する。
後日、マクドナルド兄弟はレイとの交渉に応じ、270万ドルと会社の利益1%の永続的支払い、本店の所有権を要求する。レイは270万ドルについては要求に応じるも、「マクドナルド」の使用を禁じ、利益1%については紳士協定とする事で強引に取引を交わす。ディックはレイが最初に店を見学した時にアイデアを流用しなかった理由を尋ねる。レイは同じアイデアで始めても失敗したはずであり、必要なのはシステムだけでなく、無限の可能性を秘め、アメリカらしい響きを持つ「マクドナルド」という名だったのだと答え、本店の看板を初めて見た時に一目惚れし、手に入れようと決意し、それが実現したのだと説く。その後、レイはマクドナルドの全国展開を進め、更に海外にまで進出させ、無敵の帝国を築き上げる。レイはジョアンと再婚し、ビバリーヒルズの豪邸で暮らす。レイは真の創業者たる兄弟については表沙汰にせず、1984年に死去する。一方、兄弟の本店はビッグMと改名するも数年で廃業し、紳士協定は守られず仕舞いとなる。