アレクサンダー・ペイン監督作「ネブラスカ ふたつの心をつなぐ旅」("Nebraska" : 2013)[DVD]
偽りの宝くじ高額当選の通知を信じ込む父親を納得させる為に、息子が父親に付き添って差出人の元へ向かうまでの、旅の行方を描くコメディ・ドラマ作品。
モンタナ州ビリングス、AV機器販売店で店長を務めるデヴィッドは、父ウディが高速道路上を徘徊しているという連絡を受け、現場へ向かう。ウディは宝くじの100万ドル当選の通知書を受け取り、ネブラスカ州リンカーンの発行主の元まで、徒歩で換金に向かおうとしていたのだった。しかし、その通知書は雑誌を定期購読をさせようと図った、よくある詐欺広告だった。デヴィッドがどれだけ言い聞かせても、当選を信じ込んだウディは聞く耳を持たず、母ケイトはそんなウディに呆れ返っていた。ウディは免許を失効しているにも関わらず、当選金でトラックとコンプレッサーを購入すると言って聞かなかった。デヴィッドは、兄ロスとも話し合い、ウディをリンカーンまで連れて行き、その目で確かめさせる事にした。
デヴィッドは店を休み、ウディと2人で長距離ドライブの旅に出発する。モンタナ州からワイオミング州、そしてサウスダコタ州と、途中で寄り道や休憩を挟みながら、旅は続いていくが、ウディは転倒して頭部をケガしたり、入れ歯を落として探す事になったりと、度々デヴィッドの世話を焼かせる。ネブラスカ州にはウディの生まれ育った町ホーソーンがあり、ウディの兄レイの家で親族が一堂に会する事を知ったデヴィッドらは、発行主の営業日まで泊まって待つ事にした。レイは妻マーサと、双子の息子コール、バートと暮らしていたが、デヴィッドは当選の件を伏せていた。
デヴィッドとウディは町のバーへ繰り出し、そこでウディの旧友エドと出会う。デヴィッドは当選の件を口止めしたものの、ウディが話してしまい、エドやバーの客が知るところとなる。翌日、当選の件は町中に知れ渡り、早速カネの話で持ちきりになる。モンタナからバスでやってきたケイトを迎えると、デヴィッドらは墓参りをし、昔話に花を咲かせる。レイの家に、地元の新聞社の使いが訪れ、当選の件を記事にする為にウディの写真を撮っていく。デヴィッドは真実を伝える為に、その新聞社に赴く。新聞社を経営している老婦ペグは、ウディがケイトと結婚する前に交際歴のある女だった。ペグはウディが朝鮮戦争にパイロットで出征した当時の話などを、デヴィッドに聞かせる。
その後、親子3人で訪れたレストランで、エドと再会する。エドは、遠い昔にウディに貸したカネを、当選金で返済する様に、デヴィッドに迫る。翌日、レイの家に親族が一斉に集まり、ロスも到着する。親族は寄ってたかって、ウディに「昔、貸したカネを返せ」「筋を通すべきだ」と言い募り、デヴィッドが真実を伝えても頑として聞かない。見かねたケイトが一喝して、その場を執り成す。その後、家族4人でウディの廃れた生家を見て回るなどして、和やかな時間を過ごす。
夜、デヴィッドとウディは再びバーを訪ると、エドと遭遇し、揺すりを受ける。バーから出ると、覆面姿のコールとバートの待ち伏せに遭い、襲撃を受け、通知書を盗まれる。デヴィッドは兄弟の部屋を訪れ、通知書を返す様に迫るが、虚偽と分かり棄てたと聞かされる。通知書を無くして失望したウディを見るに忍びなく、デヴィッドは探しに出かけるが見つからない。再びバーを訪れると、通知書を拾ったエドが真実を吹聴していた。ウディに恥をかかせた事が我慢ならず、デヴィッドはエドを殴る。デヴィッドはリンカーン行きを諦め、モンタナへ帰るように促すが、ウディは疲労で衰弱して倒れ込み、病院で静養する事になる。ケイトとロスがウディを見舞いに訪れ、無事を確認すると、先にモンタナへ帰っていく。
明け方、デヴィッドが目覚めると、ウディは病院を抜け出していた。尚も、リンカーンを目指そうとするウディに根負けし、車で向かう事にする。発行主の元へ到着し、従業員に非当選と説明を受けたウディは肩を落とす。帰路に就く前に、デヴィッドはウディの為に自分の車を売り、中古トラックとコンプレッサーを購入する。トラックはウディの名義にし、宝くじ業者と話を付けたとウディに言い聞かせる。デヴィッドは車通りの少ない僅かな距離をウディに運転させる。満足気なウディを乗せ、デヴィッドは一路モンタナを目指すのだった。
ひょんなことから、モンタナからネブラスカまで長距離ドライブをする事になった、父と息子の珍道中を描くほのぼのロード・ムービー。新作で舞台設定も2000年代の様だが、敢えてモノクロ作品になっている。ウディはボケているワケでは無いのだが、人の話を鵜呑みにしやすい性分で、詐欺広告にもすっかり踊らされてしまい、妻や息子達の説得を頑として聞かない。デヴィッドはそんな頑固な父と2人きりで、数日間の旅を続ける過程で、普段口数の少ない父と改まった会話をしたり、父の故郷を訪ね、昔話を聞くなどして、それまで聞かされて来なかった父の人物像を知っていく。一方、ウディは息子達に少しでも何か残せるモノが欲しかったという思いを、初めて打ち明ける。当然宝くじは当たっていないのだが、旅の果てに父と息子が親子愛を再確認するという、金銭とは代えがたい経験をすると。ハナシは単純明快だが、そこに至るまでの諸々の展開が愉快で非常に和みまくるし、なんだかんだで家族って良いもんだよなぁと思わせてくれる。ブルース・ダーンのおとぼけ父さんぶりと、そんな父を労るウィル・フォーテの優しさ溢れる演技の掛け合いが素晴らしい。