山村基毅 著「ルポ 介護独身」(2014)
両親の介護を担う人は独身が多い、あるいは結婚が遠のいてしまいがちという、現代社会が孕む問題に着目し、実際に介護に携わる中年世代の男女の証言を集めたルポ。
例えば親が認知症を患い、要介護者になった場合、たまたま兄弟姉妹の中で、自分だけが独身だったから、若しくは無職だったからという理由で、介護を一手に引き受ける事になるというケースは多いらしい。一旦そういう状況に陥ると、親の介護は親族の中でも最も「自由」な存在である、その人だけが背負う義務の様になる。助けを求めようにも介護に纏わる悩みは、その当事者にしか理解できない事が多いので、なかなか周囲に伝える事も難しく、1人で抱え込んでしまうのだとか。それが、いわゆる介護疲れという状態を招き、虐待や酷いケースだと殺人にまで発展する。
そこまで行かなくとも、親の介護が配偶者探しのネックとなり得る状況が、半ば公然と存在しているし、仕事もしばしば職種を限定せざるを得ないから、社会的にも肩身が狭くなり、更に孤立が深まってしまう。それでもいつか親を看取る日が来るのであって、その時にさぁ心機一転新しい人生!と奮起するには年齢的に極めて難しく、介護の終了と同時に、独りで途方に暮れてしまう。
介護に臨む人は「その時」の事にまで思いを巡らせ、介護だけで人生が終わってしまわない様に、使える福祉サービスは最大限活用する事を、著者は勧めている。また、実際に要介護の状態を迎える前に、どの様なサービスが利用できるのか、介護を主体的に担うであろう人が予め下調べしておくべきだという。
僕は介護をする事もされる事も無い身だから、本書を読み進める内に、世の中にこれだけ人生を犠牲にして介護に携わる方々がいるのかと思うと、居たたまれなくなってしまった。