トム・シャドヤック監督作「エバン・オールマイティ」("Evan Almighty" : 2007)[BD]
下院議員になった男が、神から洪水に備えて箱舟を造る様に命じられ、人々に理解を得られぬ中で孤軍奮闘する様を描くコメディ作品。
ニュースキャスターのエバン・バクスターは、ニューヨークのバッファローから下院議員に当選したのを機にキャスターを辞し、妻ジョーンと三人の息子ディラン、ジョーダン、ライアンと共に、郊外のハンツビル内に位置する住宅街プレストステージ・クレストの新居に移る。家財の搬入・設置を済ませ、一家が新生活初日を終えると、ジョーンは家族の絆が深まる様に神にお祈りした事を明かし、エバンにもお祈りする様に促す。エバンは公約として掲げる「世界を変える」を実現すべく、神に祈り、助けを求める。
議員初日の朝、7時にセットしたはずのアラームが6:14に鳴り、エヴァンは不可解に思いながらも起床する。エバンは子供達に午後からハイキングに行く約束をし、意気揚々と家を出ると、家の前に届けられた木箱を発見する。その中には工具一式が入っており、エバンは住所違いだと察して気にも留めずに出勤する。
議事堂内に用意された執務室に到着したエバンは、マーティ、リタ、ユージーンを始めとする、スタッフ達の祝福を受ける。エバンは議会の重鎮議員ロングから祝辞を受け、更に法案の共同提案を要請される。エバンはそれが公有地の民有化に関する通称「土地払い下げ法」で、国立公園の周囲の再開発に関する内容である事を知る。マーティは新任のエバンに初日から大きな仕事が舞い込んだ事を喜び、大物ロングと交流しステップアップを図る様にエバンに促す。今期の法案成立にはすぐに提出する必要があり、帰宅したエバンは子供達にハイキングの中止を伝えると、法案の精読に取り掛かる。子供達は落胆する。
翌朝、エバンは再び6:14のアラームで目を覚ますと、自宅前にトラックで材木が届けられるのを目の当たりにする。エバンは不意に6:14が創世記の6:14を指していると悟り、聖書の記述を当たる。その直後、材木の前に神を自称する男が現れ、材木が新居祝いだと告げると、エバンの人となりから性格まで全てを言い当て、創世記6:14の通りに箱舟を造るように命じる。エバンは悪戯だと意に介さず、出勤する。
しかし、その後もエバンの前に神が出現し、更には何かにつけ614の数字が付き纏い、エバンを翻弄する。下院資源委員会に出席したエバンは、隣に現れた神を見て失神する。その直後に、医者として駆け付けた神に箱舟を造るように告げられると、エバンは再び失神する。帰宅したエバンはノアの箱舟に関する文献に当たる。ジョーンは不慣れな仕事でストレスが溜まっているのだとエバンを労る。
翌朝、エバンは改めて子供達にハイキングの約束をして出勤する。ところが、エバンの周囲には鳩、猫、犬を始めとしてた動物達が次々に集まり始め、エバンは当惑する。エバンは動物達をやり過ごして執務室に到着するが、窓から多種多様の鳥達が舞い込み、エバンを取り囲む。そこにロングが仲間の議員を引き連れて現れ、エバンの姿を見て呆然とし、その真意を問い質す。エバンは咄嗟に、人間は動物を支配する必要あり、それが結果として国の方向性を決めると説くと、議員達は環境保護活動に対する批判を込めたエバンなりのパフォーマンスだと理解する。
ロング達が執務室から去ると、エバンは咄嗟に議事堂を飛び出し、自宅へ逃げ帰るも、どこからともなく集まった夥しい動物達に囲まれる。そこに神が現れ、プレストステージ・クレストの開発前の状態のヴィジョンをエバンに見せる事で、いかに自然を大規模に破壊してできた土地であるかを伝えると、エバンは本物の神だと理解する。神は世界を変えたいというエバンを見込み、人間への愛から箱舟を造る様に命じているのだと諭す。エバンが箱舟造りの知識も時間も無いことを訴えると、神は人々に目的を問われたら洪水が来ると伝えるように告げ、箱舟造りの入門書を手渡す。
週末の朝を迎え、起床したエバンは、突然髭が顔を覆い始め、剃っても剃りようが無い事を知る。更に新居を担保にして自宅周辺の広大な土地が購入されている事を知る。ジョーンがその意図を問い質すと、エバンは箱舟を作ると答える。ジョーンはエバンの言動に呆れ、鬱病を心配するが、エバンは理解を求める。
更に大量の材木が搬送されてくると、エバンは子供達に週末を利用した箱舟造りの協力を依頼し、早速作業に取り掛かる。程なく、エバンはスタッフに緊急の呼び出しを受け、議事堂に向かう。エバンの髪と髭は更に伸び、スタッフ達はその様子に困惑する。エバンはロングの同席する場で法案の同意書にサインする必要がある事を知るが、スタッフはその姿でロングと会うのを制止する。エバンは已む無くロングと会う事になるが、風貌の説明に窮し、ロングに正気を疑われる。ロングは一匹オオカミより群れのオオカミの方が強く、群れから逸れれば殺されると説き、エバンにも群れを成す様に促すと、二週間後の法案提出への協力を求める。
帰宅したエバンは再び箱舟造りに取り掛かる。大部品を移動する術が無く、エバン達が思案に暮れていると、神から木製のクレーンが届き、作業が進んでいく。更に神からローブが届き、エバンがそれを身に纏うと、9月22日正午に洪水が起き、それまでに箱舟を完成させる様に啓示を受ける。ジョーンはエバンの言動に痺れを切らし、その真意を問い質す。エバンは神に告げられた通りの事実を説明するが、ジョーンはエバンが議員としての重圧で気が触れたと察して、箱舟造りを止める様に要求する。
法案提出の日を迎え、ローブを脱ごうにも脱げない事を悟ったエバンは、やむなくローブの上にスーツを着て、委員会へ出席する。ロングは法案が雇用を生み、経済を活性化させると述べて批判を抑えこみ、委員に賛同を求める。エバンは共同提案者としてロングに紹介されるが、意に反してローブ姿に戻ってしまい、委員一同に失笑される。その時、委員会に大量の動物達が押し寄せ、エバンを取り囲む。憤慨したロングは動物を連れ出すようにエバンに命じるが、エバンは神のお告げに基き、野生動物を洪水から救うべきだと主張する。エバンは法案から名を外され、更に停職処分が下る。中継でその一部始終を見ていたジョーンは、エバンに失望する。エバンはそれが箱舟造りに専念させる為の、神の仕業だと弁明するが、ジョーンは子供達を連れて実家に帰ってしまう。
その後、エバンは一人で箱舟造りを続ける。委員会の様子は全米に中継された為に、箱舟の前にはマスコミや市民が押しかけ、エバンは正気を失った変人扱いをされる。一方、落胆するジョーンは子供達と入ったダイナーで、神と遭遇する。神はノアの箱舟のテーマが神の怒りでは無く、愛の物語だと説き、家族の絆を願うなら、神は絆そのものでは無く、互いに愛し合うチャンスを与えると告げる。
9月22日。翻意したジョーンと子供達は再び自宅に戻り、白髪白髭姿に変貌したエバンと再会し、エバンの信念を理解する。エバンはロングが箱舟を違法だと市に訴え、9月22日までに取り壊さないと市による撤去が強制執行される事を知る。その時、ありとあらゆる種の動物達が箱舟の前に集い、作業に協力し始め、エバン達は総出になって完成を急ぐ。そこにマーティらスタッフが駆け付け、ロングの不正を暴いた事を知らせる。以前、国有地だったプレストステージ・クレストは、ロングがダムの建設許可を取った後、周囲を民間に売却したのだが、当のロング湖貯水ダムは法律で定めた検査をしておらず、周辺住民は何年も闘争を余儀なくされてきた。新たに法案が通れば、国立公園も同じ羽目になるというのである。マーティはロング達が不正に儲ける構図を正すべく、手遅れになる前に法案阻止の為に闘うべきだとエバンに訴える。
その時、箱舟が完成し、エバンは動物達を中に招き入れると、洪水が来ると市民に訴えて箱舟に乗るように促す。しかし、快晴で雨が降る気配は無く、エバンは市民から批難される。そこにロングが重機を率いて到着し、エバンの説得に向かう。法案の不正について追求するエバンに、ロングはビジネスだと開き直り、絶対に通過させる意志を示す。エバンは悔い改めるように告げるが、ロングは警察に箱舟の解体を命じて去る。エバンはジョーンに諭され、箱舟を降りようとするが、その時、突然大雨が降り始める。雨は程なく止んでしまうが、エバンはダムが違法に建設された事を思い出し、ダムの欠陥が原因で決壊が起こり、洪水が起こるのだと悟る。その直後、ダムは雨で貯水を維持できなくなり、エバンの予想通りに決壊し、プレストステージ・クレストに洪水が押し寄せる。集まった市民は皆、エバンの指示で一目散に箱舟に乗り込む。プレストステージ・クレストは洪水に飲まれ、箱舟は押し流されるままにニューヨークの都心へ向かう。
エバンが箱舟を首尾よく危機から回避させると、箱舟はホワイトハウスにまで流れ着き、法案採決最中の議事堂に衝突して止まる、エバンはダムが決壊し、プレストステージ・クレストが水没した事をロングに伝える。ロングは弁明も虚しく、不正に関して事情聴取を受ける事になり、法案の採決は見送りとなる。動物達はみな野生に戻っていき、エバンは復職が認められる。
後日、エバンは家族と共に山へハイキングに訪れる。エバンの前に神が現れ、家族を笑顔に変えた労をねぎらい、小さな事から世界を変えられると説く。エバンは神に感謝し、共にダンスを踊ると、神は白鳩に姿を変えて飛び去る。
同監督作、ジム・キャリー主演の「ブルース・オールマイティ」の続編という事を借りてから知り、そちらをまだ観ていないので失敗したと思ったのだが、主人公エバンの設定を流用しているだけの様で、前作の内容を知らなくても独立した作品として安心して観ることができた。議員就任早々に現れた神に箱舟を造るように命じられて、妻子や同僚達に理解を得られぬまま、作業に取り掛かり、やがて風貌までノアに近づいていく、おっさんの奮闘劇。なんでもないような事が幸せだったと思う系の寓話ってところかな。住宅街が洪水で沈む事を神が予見するのは解るのだが、動物達は単にノアの箱舟に準えて集められただけで、ほとんど意味を成してないのが苦笑ポイント。画面に所狭しと動物達が勢揃いするのは圧巻で愉快ではあるのだが、必然性は無いわなぁと。本作でもスティーブ・カレルは安定のオモシロさで、文字通り体を張って動物達と共演したり、長髪長髭に扮したりと八面六臂の活躍ぶり。このおっさん、僕は本当に大好き。今度はブルース~の方を観てみよう。