ニール・ブロムカンプ監督作「チャッピー」("Chappie" : 2015)[BD]
若きエンジニアが開発したAI登載人型ロボットがギャングの手に渡り、順応と成長の果てに想像を絶する事態へと発展していく様を描くSF作品。
凶悪犯罪が多発する都市ヨハネスブルグ。2016年、警官の犠牲が絶えない事を憂慮したヨハネスブルグ警察は、ロボット兵器製造企業テトラバールの開発したAI搭載人型ロボット「スカウト」の導入に踏み切り、世界初のロボット警官隊を編成する。その結果、犯罪が激減し、テトラバールの株は急騰する。スカウトの開発者である若きエンジニアのディオンは、自ら思考し、感情を持つマシンの開発を理想とし、日夜研究に励む。その一方、スカウトの登場以前に最有力と目されていたロボット兵器「ムース」の開発者にして元兵士のヴィンセントは、信仰的にAIに反対しており、ディオンに敵愾心を抱く。
ニンジャ、ヨーランディ、アメリカ、ピットブルからなる四人のギャング達は、ある時、街を牛耳るヒッポの下でドラッグの運搬を行うが、警官隊の襲撃に遭って失敗する。激怒したヒッポは代償として2000万ランドを7日以内に払う様にニンジャ達に要求し、見せしめにピットブルを殺す。そこにスカウト警官隊が急襲を仕掛け、ヒッポの率いる手下達が応戦するものの、多くが撃退される。ヒッポはRPGで反撃し、スカウト22号がその直撃を受けて停止する。警官隊は現場を制圧するが、ニンジャ達は辛うじて逃走する。22号は回収され、工場へ搬送される。
スカウトの高い運用実績が警察に評価され、更に100体が追加で注文される。テトラバールCEOのミシェルは社員達を労い、ディオンは同僚達に功績を讃えられるが、一方でヴィンセントは苦虫を噛み潰す。ミシェルはムースに対し、製造コストを抑えればチャンスがあると諭す。ディオンは工場に戻った22号のバッテリーが融解しており、交換不可能である事を確認すると、廃棄処分にする事を決定する。
アジトに戻ったニンジャ達は、同じく難を逃れたヒッポから連絡を受け、金を払う様に釘を刺される。ニンジャ達は金をヒッポに支払った後に足を洗う為に、現金輸送車の襲撃を企図すると、スカウトを停止させる為のスイッチを奪取する方法を模索し、ディオンの存在を知る。
ディオンは自宅で秘密裏にAIプログラムの研究を進め、明け方、意識データの安定に初めて成功する。ディオンは早速それをスカウトに実装すべく、22号の廃棄を直前で中止させると、ミシェルに人間より賢いコンピュータシステムの完成を直訴する。ミシェルは兵器製造会社としてディオンの現状の仕事ぶりに満足している事を伝える。ディオンは廃棄品にインストールずるだけで費用を一切要しない事を説くが、ミシェルはその提案を一蹴する。
諦めきれないディオンは、ラボで厳重に管理されている、スカウトのソフト更新用のガードキーと、更に22号と廃棄パーツを無断で持ち出し、自宅へ向かう。その途中、ディオンはニンジャ達の襲撃に遭い、誘拐される。一方、ヴィンセントは警察幹部をラボに招き、ムースの有用性をプレゼンするが、警察は都市犯罪に対してムースが重装備かつ高額過ぎて、無用の長物だと一蹴し、スカウトで満足している事を伝える。
アジトに連行されたディオンは、スカウトを操作するリモコンをニンジャ達に要求される。ディオンはスカウトがファームウェアで制御されており、スイッチの類が無い事を説く。ニンジャ達は、ディオンの車内から22号を発見すると、味方のロボットを作るべく、ディオンにプログラムし直す様に命じる。ディオンはそれが人間の様な心を持たせる為のテスト用ロボットだと明かし、動かすには他に選択肢が無いと伝える。ディオンはスカウトを組み立てると、CPUにガードキーを挿入し、意識データをインストールする。間もなくスカウトは起動し、自我を持つロボットが誕生すると、ディオンは歓喜する。ヨーランディは、子供の様に脅えるロボットを、母親の様に接する事で安心させる。ロボットは見聞きした物事をすぐに学習し始める。ヨーランディの発案でロボットはチャッピーと名付けられる。ニンジャはディオンの生ぬるいやり方に憤慨し、教育には自分が必要だと訴えるディオンをアジトから追い出す。
スカウトのせいでムースの開発費削減を強いられた事に憤慨するヴィンセントは、事態の打開策を模索する。ヴィンセントはガードキーが無くなっている事に気付き、22号に装着されている事を確認すると、ディオンが持ち出したのだと察知する。
翌日、ニンジャはチャッピーをギャングに仕立て上げるべく、銃の撃ち方を教えるが、使い物にならない事に呆れる。ヨーランディはディオンの言葉通りに順応が必要だと諭すが、ニンジャは現金輸送車襲撃用の爆弾を買う資金作りに出かける。
ディオンは会社で赤子の教育法を模索する。そこにヴィンセントが現れ、ディオンを脅迫すると、ガードキーを強要する。ディオンは会社のルールを盾にそれを拒む。ヴィンセントはディオンの車を尾行し、ニンジャ達のアジトに辿り着く。ディオンは学習用の教材をアジトに持ち込むと、ギャング色に染まりつつあるチャッピーに自らが創造主である事を伝え、犯罪に加担せぬ様に説諭する。ディオンはチャッピーに本を読み聞かせたり、絵を描かせたりする事で、その情操を育もうとする。その様子を盗み見たヴィンセントは、ディオンが背徳的な過ちを犯している事に憤慨し、会社に戻る。アジトに戻ったニンジャは、ディオンの行為に激怒する。ディオンはニンジャに殺されそうになり、チャッピーに創造性を奪わせない様に訴えかけ、已む無くアジトから立ち去る。ヨーランディはチャッピーの自由にさせる様にニンジャを説得するが、ニンジャは現金の強奪にチャッピーが必要だと主張する。
ニンジャは輸送車の通過地点と日時を仲間から伝え聞き、成形炸薬弾の調達を画策すると、チャッピーに現実の世界を見せる事で鍛え直そうと目論み、チャッピーを不良少年達の屯する場所へ置き去りにする。チャッピーは理由もわからないままに少年達にこっぴどく傷めつけられた末に、逃げ出す。
帰宅したディオンは、会社の警備課から連絡を受け、ガードキーの返却を命じられる。一方、一人で夜の街外れを彷徨うチャッピーの元に、ヴィンセントが部下を率いて現れると、チャッピーを捕獲して、トレーラーに積み込む。ヴィンセントは抵抗するチャッピーのCPUからガードキーを回収する。チャッピーは処分される恐怖から本来の力を発揮し、拘束を解いて、トレーラーから脱出すると、程なくしてアジトへ戻る。
アメリカに補修を受けたチャッピーは、ヨーランディからチャッピーが特別な存在であり、外側は一時的な物で、大切なのは心の中の魂だと教えられる。一方、ディオンはチャッピーを取り戻すべく、意を決して拳銃を購入し、アジトへ向かう。
ニンジャは、ヨーランディの影響を受けて女々しさが際立つチャッピーを説き伏せると、ギャングスタ・ロボットへと教育のやり直しを図る。ニンジャとアメリカは、銃を撃つ事を犯罪と認識して拒絶するチャッピーに、ナイフで刺す事で安らかに眠らせられると教え込むと、銃の代わりに手裏剣やカンフーをマスターさせ、ギャングらしい見栄えにチャッピーを一変させる。
ニンジャは盗まれた車を取り返すのだと欺く事で、チャッピーに高級車を次々に強奪させると、それを武器ブローカーのキングの元へ持ち込み、爆弾と大量のPS4の提供を受ける。ニンジャはチャッピーにバッテリー残量から余命が残り少ない事を指摘すると、強奪した金があれば新しいボディを買う事ができると誘惑し、現金輸送車襲撃に加わる様に説得する。
ディオンはアジトへ到着すると、チャッピーを連れ戻そうと試みるが、チャッピーはすぐに死んでしまうボディで自分を創った理由を問い、死ぬのが嫌だと訴える。ディオンはチャッピーの成長が想像を超えていたのだと説く。一方、ヴィンセントはラボの端末でガードキーを使用し、全スカウトのファームウェアにアクセスする事で、ウィルスを送り込み、CPUを強制的に停止させる。ディオンは停止したチャッピーを車に運び込み、ラボへ急行する。
全てのスカウト警官隊の停止により、犯罪者達が野放しとなると、街には暴徒化した群衆が溢れかえり、警察は警官と予備兵を緊急出動させる。ヴィンセントは思惑通りに事が運んだ事を確認すると、スカウトからのウィルスの削除を開始する。その時、ラボにディオンが到着し、チャッピーを運び入れる。ディオンはチャッピーからウィルスを検出すると、それを隔離し、チャッピーを再起動させる。チャッピーはラボ内で、ムースを脳波で操作するインターフェースのヘルメットを見つけて興味を抱くと共に、テスト用のスカウトのボディを見つけ、それで生きられると歓ぶ。ディオンは意識の正体が不明であり、コピーはできないと説くが、チャッピーは自らが解明して意識を特定して転送すると主張する。ディオンはそれが無理だと諭し、逃げる様に促すが、チャッピーは可能性を奪わせるなという言葉を盾にし、ディオンから離反すると、ヘルメットを持ち出して逃亡する。ディオンはミシェルに呼び出しを受け、オフィスへ向かう。程なく、警察がラボの強制捜査に乗り出すと、ヴィンセントはガードキーを端末に残したままラボから立ち去る。アジトに戻ったチャッピーは、PS4をスパコン化する事で、意識を特定する作業を開始する。一方、ディオンはミシェルに事態の収拾を命じられる。ヴィンセントはミシェルにムースの出動許可を要請するが、却下される。チャッピーはネットの膨大な情報を元に、夜を徹して意識の解析作業を行う。
翌朝、意識の解析を完了させたチャッピーは、ニンジャ達に同行し、輸送車を襲撃して6億ランドを強奪する。ディオンは調査の末に、ウィルスを放ったのがヴィンセントだと知り、追求しようとするが、その矢先にチャッピーが現金強奪グループに加わっている事が報じられる。ヴィンセントは、ディオンがスカウトに意識を実装した為だとミシェルに伝え、人間が制御するムースの優位性を示すべきだと説くと、会社を守る為にディオンを排除する様に促す。ミシェルはムースの出動を許可し、チャッピーの破壊をヴィンセントに命じる。ヴィンセントは早速、ムースを起動させる。
チャッピーの危機を悟ったディオンは、対ムース戦を想定して強力な銃火器を持ち出し、アジトへ向かう。一方、ヒッポはチャッピーがニンジャ達と犯行に及んでいる様子をニュースで見ると、チャッピーの奪取を画策する。ラボを飛び立ったムースは、上空からチャッピー達の行方を追う。アジトへ逃げ帰ったチャッピーは、新しいボディの購入をニンジャに請うが、それが嘘だった事を知って激昂する。そこにディオンが到着し、危険が迫っている事を伝えると、チャッピーに銃火器で武装する様に促す。
その直後にヒッポの率いるギャング達が現れ、ニンジャに金とチャッピーを差し出す様に要求すると、銃撃戦が始まる。そこにムースが襲来し、手始めにアメリカを殺すと、ギャング達の銃撃を物ともせず、強力な武器で一掃する。その時、武装したチャッピーが応戦を開始し、ムースに爆弾をセットすると、起爆を試みるが、ムースの反撃に遭ってスイッチを手放してしまう。車に逃げ込んだディオンは、ヒッポに腹部を撃たれて致命傷を負う。そこに駆け付けたニンジャがヒッポを殴り殺す。
チャッピーは瀕死のディオンの意識を救うべく、ニンジャとヨーランディを連れて、車でラボに向かおうとするが、ムースの執拗な攻撃に遭う。ニンジャは身を挺してムースの注意を引き付け、チャッピー達を逃がそうとするが、ヨーランディはニンジャを見捨てられず、銃火器でムースを攻撃し、損壊させる。ヨーランディはムースの機銃による反撃を受け、致命傷を負う。ヨーランディに駆け寄ったチャッピーは、スイッチを見つけると即座に起爆し、ムースは爆発で大破する。ヨーランディはその場で息絶える。激怒したチャッピーは、ディオンからムースの操縦者を聞き出すと、ディオンを連れてラボに急行する。
ラボに到着したチャッピーは、ヴィンセントを見つけると、オフィスまで追い詰めて徹底的に傷めつけるが、悪人でも許すと告げて、殺さずにその場を後にする。チャッピーはディオンをラボへ運び込むと、テスト用スカウトへディオンの意識を転送する。スカウトに遷移したディオンは、ヴィンセントが端末に残したガードキーを用いて、最寄りのスカウトにチャッピーの意識を転送する。その時、警察がラボに突入する。ディオンはラボから脱出を図ると、すぐ傍で遷移したチャッピーを発見する。二人はアジトへ戻る。
その後、警察はスカウトの使用を中止し、人間の警官15万人の起用に踏み切ると共に、逃走したチャッピーの情報提供を呼びかける。ニンジャの手でヨーランディの肉体が埋葬された後、チャッピーはテスト時に予めバックアップしておいたヨーランディの意識データを元に、テトラバールの工場で最新型ドロイドを遠隔操作で組み立てる。
映画館で観てきたので、これで二回目の鑑賞。あの名作「第9地区」の監督ブロムカンプによる作品だけに、否が応でも期待値が高まってしまうのだが、全体を通してみればよく出来たSF作品だと思う。しかし、意識の解析から特定、そして転送を行うまでの過程が余りにもお気軽な感は否めない。尤もそんな事を言い出したらSFは成立しなくなってしまうワケで、あの「インターステラー」だってお気軽にワームホールを通って、お気軽にブラックホールに突っ込んでいったのだ。でもやはり意識はもっとこう深淵で掴みどころが無いモノだと思うし、えいやっと吸いだして移し替えるなんて芸当ができる日が来るとは思えないなぁ。コピーが作れるという事は無限に同じ人格が創造できるという事だし、こんな風に永遠の命が実現したら、もう生物的な進化は望めないワケで、いったい何を日々の糧にして生きていくのか分からない。とまれ、ブロムカンプは今後もまだまだ期待できる監督って事は間違いないな。現代のロボット技術はペッパーレベルだが、このチャッピーの水準に達するまでどのくらいの歳月を要するのかしら。