セオドア・メルフィ監督作「ヴィンセントが教えてくれたこと」("St. Vincent" : 2014)[DVD]
ひねくれ者の老人と、隣の家に越してきた少年が、交遊を経て、次第に心を通わせていく様を描くコメディ・ドラマ作品。
ブルックリンの住宅街で独居生活を送る飲んだくれの老人ヴィンセント。ぶっきらぼうで自分勝手な性格故に人が寄り付かず、交友関係と言えば、飼猫フィリックスと、目下妊娠中で懇意の仲のストリップ劇場の売春婦ダカだけ。妻サンディは認知症を患い、高級老人ホームで暮らしている。借金を重ねたヴィンセントは生活費に事欠く様になるも、自宅を担保にした融資すら限度額に達してしまう。ヴィンセントは行きつけのバーで酒を煽り、車で帰った後、自宅の柵に車をぶつけて破壊する。ヴィンセントはフィリックスに餌をやった直後に、不注意で転倒し、頭を打って気絶する。
翌日、隣の空き家に、浮気した夫から逃避してきたシングルマザーでCT検査技師のマギーと、その息子のオリヴァーが引っ越してくる。その際、引越し業者がトラックをヴィンセントの家の前の大木にぶつけ、枝が折れてヴィンセントの愛車の上に落下する。騒ぎで目を覚ましたヴィンセントは、アンティークと称した年代物の愛車を業者に、折れた枝とどさくさに紛れて自ら壊したフェンスをマギーに、それぞれ弁償する様に要求する。マギーはそれを承諾するも、ヴィンセントの不遜な態度に先行きを案じる。
翌朝、マギーは再就職先の病院へ、オリヴァーは転校先の小学校へそれぞれ向かう。ヴィンセントは馴染みの競馬場でなけなしの金を擦ってしまう。そこに借金取りのズッコが現れ、ヴィンセントに返済を迫り、期限を二週間に切る。一方、オリヴァーは体育の授業でその貧弱ぶりを露呈してしまい、ロバートら3人の級友達のイジメに遭い、ロッカーから制服、携帯、財布、家の鍵を盗まれる。オリヴァーは已む無く体操着のまま、スクールバスにも乗らずに帰路に就くが、鍵が無い為に家に入れず、途方に暮れる。そこにヴィンセントが帰宅すると、オリヴァーはヴィンセントに電話を借り、マギーに連絡する。マギーは残業ですぐには帰れない事を伝えると、やむを得ず、時間当たり12ドルでヴィンセントに子守を頼む。
ヴィンセントはオリヴァーに適当に食事を与え、夜までテレビを見ながら過ごす。マギーが迎えに来ると、ヴィンセントは料金を受け取り、今後も放課後に子守に応じる意向を示す。マギーはオリヴァーに抵抗感が無い事を知り、任せる事にする。
ダカは妊娠中で諸々の金が要るにも関わらず、妊婦故に店をクビになる。マギーは再び残業でオリヴァーを迎えに行けなくなり、ヴィンセントに代わりを頼む。ヴィンセントはオリヴァーを愛車で迎えに行った後、立ち寄った店先の電話でマギーに連絡させる。そこにロバート達が現れ、オリヴァーのせいで居残りを命じられた意趣返しを図る。オリヴァーはロバートが盗みを働いた事を指摘し、平手打ちを浴びせる。ロバートはオリヴァーを突き飛ばして負傷させ、転倒させると、スケボーで押さえつける。そこにヴィンセントが現れ、ロバート達を威圧すると、オリヴァーに手出しせぬ様に命じ、スケボーを割って追い返す。
ヴィンセントはオリヴァーが父親から喧嘩の術を教えられていない事を聞くと、アメリカが開拓者の国だと説き、やらなければやられると諭す。その後、ヴィンセントは老人ホームにサンディを訪ねると、洗濯物を届け、自分を認識できなくなったサンディに、いつもの様に医師を装って近況を聞く。その後、ヴィンセントは自宅でオリヴァーに、必殺技と称した護身術の掌底を教える。一方、マギーは家庭裁判所からの召喚状を受け取り、弁護士の夫デヴィッドが親権を要求している事を知る。
ダカは病院で超音波検査を受け、宿しているのが女の子だと知る。ダカはヴィンセントが新婚の夫だと偽り、無保険である事を欺く。ヴィンセントはオリヴァーに社会勉強と称して小遣いを与え、身の回りの世話をさせる。
ある時、オリヴァーは体育でロバートに再び嫌がらせを受け、負傷した事から、ロバートを口汚く罵った後、ヴィンセントに教わった掌底をロバートの鼻にお見舞いして昏倒させる。帰宅後、オリヴァーは早速ヴィンセントに報告しに行く。オリヴァーはそこで初めてダカと出会い、ヴィンセントから「夜の女」だと教わる。
ヴィンセントは競馬場にオリヴァーを連れて行くと、三連単に興味を持ったオリヴァーの指名した通りに着順を選び、金を出し合って馬券を買い、見事に高額の配当を得る。ヴィンセントはオリヴァーと共に大喜びするも、場内にズッコがいる事に気付くと、大負けした様に振る舞い、配当金を受け取って逃げ帰る。ヴィンセントはその足で銀行に赴くと、オリヴァーの為に口座を開き、配当金を預け入れる。その夜、ヴィンセントはオリヴァーをバーに連れて行き、祝杯を上げる。一方、マギーは学校からの連絡で、オリヴァーが喧嘩騒ぎを起こした事を知る。酔いつぶれたヴィンセントは、オリヴァーと共にタクシーで帰宅する。心配して待っていたマギーは、無断で連れ出さぬ様に咎めると、喧嘩の件について自分には何も話さなかったと明かす。ヴィンセントはマギーが留守がちだから話しにくいのだと説く。マギーは子育てに意見された事に憤慨し、ヴィンセントが自分勝手だから子供がいないのだと詰る。ヴィンセントは自分の何を知っているのかと問い質す。マギーはひねくれ者だから誰も近寄らないのだと応える。
翌日、マギーは放課後の学校に赴き、校長、担任と面談する。マギーは家庭の事情を尋ねられると、離婚協議中であり、親権を申し立てられている事、難病の人と対面する仕事柄、一日中暗い気分でいる事、オリヴァーが養子であり、自分が子供を産めない体質である事などを明かし、それらがオリヴァーに悪影響を及ぼしているのだと推察する。一方、オリヴァーはロバートと共に罰としてトイレ掃除を命じられる。オリヴァーは、父親が出て行ったというロバートと意気投合し、和解すると、盗られた物を返してもらう。
ヴィンセントはサンディを見舞った際に、ホームの責任者から支払いが数ヶ月分滞納している事を咎められ、滞納分の全額支払いに応じなければ退所となる事を通告される。ヴィンセントは、サンディを高級老人ホームに留めたい一心で、ホームから錠剤を盗み出すと、ダカを通じて闇市で売り捌こうとするが、思いの外、100ドルにしかならず、オリヴァーの為に開いた口座から全額2700ドルを引き出して、競馬にイチかバチかの賭けに打って出るも、全て擦ってしまう。
帰宅したヴィンセントをズッコが待ち受けており、サンディの形見のジュエリーを借金の肩に持ち出そうとする。ズッコは抵抗するヴィンセントを手下に痛めつけさせようとするが、その矢先にヴィンセントは突然意識を失って倒れる。ズッコは面倒を恐れ、関わらなかった事にして立ち去る。程なく、ヴィンセントは帰宅したオリヴァーに発見され、マギーの勤務する病院へ救急搬送される。ヴィンセントは一命を取り留めるが、検査の結果、脳卒中だと判明する。
体に麻痺が遺ったヴィンセントは、入院しながらリハビリを始める。入院の報せを聞いたダカはヴィンセントを見舞った後、留守中のヴィンセントの家を預かり、片付けやフィリックスの世話を担う。オリヴァー、マギー、ダカらの献身的なリハビリへの協力が奏功し、ヴィンセントは退院を果たし、帰宅する。以後、ダカがセックス無しの世話役としてヴィンセントと同居を始める。
一方、マギーはオリヴァーと共に親権を巡る裁判に出廷する。デヴィッド側より示された、ヴィンセントがオリヴァーを連れて競馬場やバーへ行った事や、売春婦ダカと交友関係にある事などの情報が悪材料となり、協議の末に共同親権が決定される。マギーは帰宅するや否や、ヴィンセントにその責任を問うが、ヴィンセントはマギーが文無し故の責任だと応酬する。マギーは二度とオリヴァーを任せない事を言い渡す。
その直後、ヴィンセントは入院している間に溜まっていた留守電を聞き、老人ホームからサンディについて再三伝言があった事を知る。ヴィンセントはホームに急行し、サンディが数週間前に既に亡くなった事を知る。ホームの責任者はヴィンセントからの返事が無かった為に、事前の意向どおりに火葬した事を伝え、遺灰と遺品が収められた箱をヴィンセントに手渡す。ヴィンセントはホームに対して憤りを露わにする。
オリヴァーは隔週末にデヴィッドと会う事になり、また、デヴィッドが雇った保育係が付けられる。オリヴァーはヴィンセントの元を訪ね、サンディが死んだ事を知る。心の拠り所を失ったヴィンセントは、自分の様なろくでもない人生を送らずに、しっかり生きる様にオリヴァーに諭す。オリヴァーはそれが嘘だと指摘するが、ヴィンセントは自分の何を知っているのかと問い質し、馬鹿な子だと詰る。オリヴァーはその言葉に傷つき、ヴィンセントがただの酔っぱらいのひねくれ者で、悲しい人だと詰って、別れを告げる。
ヴィンセントはサンディを失った悲しみに打ちひしがれ、大切にしてきた二人の思い出の品々を全てゴミ箱に捨てる。その様子を目撃したオリヴァーは、密かに捨てられた品々を回収し、ヴィンセントがかつて話していた事が冗談では無く、ベトナム戦争における軍曹としての偉大な活躍ぶりを知る。
オリヴァーの学校で、「身の回りの聖人」について取材し、舞台発表する行事の日程が近づく。オリヴァーは親友になったロバートと共に、ヴィンセントの知己達に話を聞いて回り、ヴィンセントの真の人となりを知っていく。ヴィンセントはダカの出産に備えて準備を始める。
行事当日、マギーは休みを取ってオリヴァーの晴れ舞台を見に行く。ダカは破水したと偽り、自宅に引きこもるヴィンセントを連れ出すと、学校へ赴く。程なく、オリヴァーの発表が始まり、ヴィンセント達が会場に到着する。オリヴァーは、ヴィンセントが一見、聖人の様では無く、酒やタバコ、賭け事に興じ、嘘や罵り言葉ばかりの嫌われ者だが、それは表面的に過ぎないと説き、自らが調べた真実を明かす。ヴィンセントはアイルランド移民の息子で、貧しさの中、ブルックリンの路上で生き抜く術を学んだ事、陸軍に所属し、激戦地区イア・ドラン渓谷に派遣され、敵兵に包囲されるも、戦火の中で負傷した将校二人を救出し、青銅星賞を受勲した事、見知らぬ町へ越してきた自分の面倒を見てくれた事、最近結婚40年の妻を亡くし、その妻が夫と分からなくても8年間、洗濯を続けた事、喧嘩の仕方や自己主張の仕方を教えてくれた事・・・。オリヴァーはヴィンセントが欠点だらけだが、実際の聖人も同じであり、聖人とは人間に他ならないのだと説くと、ヴィンセントを紹介する。ヴィンセントは舞台上に招かれ、オリヴァーからメダルを授けられると、観衆に拍手で讃えられる。
程なくして、ダカが無事、女の子を出産する。後日、自宅でヴィンセント、ダカと赤子、マギー、オリヴァー、ロバートが和やかに食卓を囲む。ヴィンセントの新たな人生が始まる。