アトム・エゴヤン監督作「白い沈黙」("The Captive" : 2014)[DVD]
田舎町で失踪した少女の帰りを待つ両親が、8年を経て誘拐された事を示唆する手掛かりを得て、捜索に奔走する様を描くスリラー作品。
オンタリオ州ナイアガラ・フォールズ。細々と造園会社を営むマシューは、ホテルの清掃員として勤める妻ティナと、スケートでオリンピックを目指す9歳のカサンドラ(キャス)と共に、慎ましくも幸せに暮らしている。ある日、マシューとティナはスケートの練習を終えたキャスを迎えに行く。その場でティナは仕事へ向かい、マシューはトラックの後部座席にキャスを乗せ、帰路に就く。その途中、マシューは夕食用のパイを買うために、ダイナーに立ち寄る。程なく、マシューはトラックに戻るが、車内にキャスの姿は無く、そのままキャスは行方不明となる。
マシューは即座にナイアガラ地方警察署に駆け込み、捜索を要請する。児童虐待等の犯罪を専門に扱うニコールと、本部の殺人課から赴任したばかりのジェフリーが対応するが、二人はマシューの供述に矛盾があり、一貫性を描く事からその信憑性を疑う。マシューは二人の対応に憤慨する。遅れて駆けつけたティナは怒りの矛先をマシューに向け、その責任を問う。ニコールがティナへの聴取を始めると、ジェフリーはマシューに暴行による逮捕歴があり、更に造園会社が不振に喘いでいる事を指摘し、金目的でキャスを売ったのでは無いかと問い質す。激昂したマシューはジェフリーに飛びかかるも、跳ね除けられる。ニコールはジェフリーを咎めるも、ジェフリーがかつて類似の事件を扱っていた事を知り、一定の理解を示す。
キャスは、不動産会社に勤務する中年男ミカの住む瀟洒な邸宅内に、特別に設えられた一室に監禁される。その部屋には単独で生活できるだけの設備が整っており、更にティナの勤務先のホテルの部屋に仕込まれた盗撮カメラがリアルタイム接続されており、キャスはティナの日々の様子を観察する。
その後、マシューとティナは悲しみに打ちひしがれたままで月日を過ごし、やがて離縁する。自責の念に苛まれるマシューは、警察を当てにせず、自らの手でキャスを発見すべく、毎日、車で周辺地域を巡回し続ける。また、マシューはスケートリンクに足繁く通い、キャスがペアを組んでいた親友アルバートの練習を見守り続ける。
事件から8年後、ネット上でキャスと思しき少女を映した中継カメラのキャプチャ画像が発見される。ティナはそれがキャスだと確認する。それはより小さな女の子にキャスが話しかけている画像である事から、ニコールはキャスが児童虐待組織の勧誘役をさせられていると推測する。ニコールは部署の仲間と共に、チャットで組織に接触を図る事で、おとり捜査に臨み、待ち合わせたカフェに現れた男ウィリーを逮捕する。その夜、ニコールは同棲するジェフリーと共に、捜査で成果を得た事を歓ぶ。
ミカは収監されたウィリーに面会に赴き、組織に累が及ばぬ事を伝えると、取引に応じぬ様に命じる。ウィリーはその引き換えに、自らを欺いたニコールを生きたまま埋める様に要求する。
ある時、ミカはキャスに監視下でのマシューとの面会を提案する。マシューは造園用に納入する木々をトラックで取引先に搬入するも、吹雪で中止になった事を知らされ、近所のモーテルに宿泊する。翌朝、マシューはトラックに積んでおいた木々が盗み出され、それがマシューを誘うように道路沿いに一定の間隔で並べれているのを目の当たりにする。マシューは木の並ぶ方向へトラックを走らせ、その先で待ち受けていたキャスと再会する。キャスは一度だけ会う事を許可されたと明かす。マシューはキャスを連れ帰ろうとするが、キャスはもう二度と会えないと説き、帰るのを拒む。マシューがキャスを強引に連れ帰ろうとすると、傍に潜んでいたミカが麻酔銃を放ち、マシューを昏睡させ、キャスを連れ帰る。
一方、ある頃からティナは清掃を行うホテルの室内で、キャスのヘアブラシやトロフィ、更に乳歯やティーカップを発見する様になり、ある日、風車を発見するに至っていよいよニコールに相談する。ニコールはティナが清掃を行うフロアの全ての室内の通気口に、盗撮カメラが仕掛けられている事を発見する。署では嘆き苦しむ母親を見て楽しんでいる、誘拐犯と見物人が別個におり、会員制の組織の存在が疑われる。ニコールはマシューにも事情を伝えるが、マシューはティナが黙っていた事を咎めると共に、ジェフリーが相変わらず自分に疑いをかけている事に憤怒し、ジェフリーを殴り飛ばす。
ジェフリーは姪ジェニファーにネット電話でキャスとやり取りさせる。ミカは警察の関与を察知すると、即座に通話を切断する。ニコールはジェフリーが不用意にジェニファーを利用した事を咎める。
その夜、ニコールは児童を虐待から救う活動への寄付を募る慈善パーティに主賓として出席し、壇上でスピーチを行う。ニコールはその中で、自らがかつて路上暮らしを強いられ、14歳の誕生日を廃車の中で過ごしていた事を明かし、良い里親に会えなければそのままだった事を述懐すると、子供を守る為の寄付を訪れた客に呼びかける。チャリティはミカの勤務する会社の社長ヴィンスの妻が理事を務めている事から、ヴィンスと共にミカも出席しており、ミカは自らが児童虐待組織の首謀者である事はおくびにも出さずに、ニコールと言葉を交わす。ミカの手下ヴィッキーが会場内に侵入し、ニコールの席の水を睡眠薬入りの物とすり替え、それを飲んだニコールは不調を訴える。ヴィッキーはニコールを送り届けると欺き、連れだした後、拉致する。
ニコールはミカの管理する人気のないガレージ内に留め置かれたワゴン車の中に監禁される。ミカはニコールにかつて廃車の中で過ごした時の気分を尋ねると、そのワゴン車がその時の様子を再現したものである事を明かし、体験と重なる部分があるのか問い質す。
ジェフリーはニコールの失踪に、パーティに現れた素性不明の女が関与している事を疑い、ヴィンスやその妻に聴取を行うが、ニコールと女の行方は掴めず、途方に暮れる。
キャスはホテルのカメラが発覚した事によりティナの様子を見られなくなると、ミカが要求する感動する物語を紡ぐ為に、新たに閃きの元を用意して欲しいとミカに請う。
キャスの要請を受け、ヴィッキーが記者を装ってスケートリンクで練習中のアルバートに接触を図り、キャスについて質問する。偶然、練習を見に来ていたマシューはヴィッキーの後をつけ、ミカと共に車で走り去るのを目撃する。マシューは車を追跡し、ミカ達がダイナーに立ち寄ると、署に連絡する。マシューは電話に出たジェフリーに、キャスと会った事を明かすと共に、誘拐犯を見つけた事を伝えると、GPS付きの携帯を犯人の車に仕掛け、それを追跡する様に依頼する。
その後、マシューは店内の二人の元へ向かい、キャスについて問い質すが、二人は無関係を装う。店長が警察を呼び、退出を命じると、マシューは密かにヴィッキーの携帯を盗み、トラックで走り去る。程なく、ヴィッキーは携帯を盗まれた事に気付き、二人は慌ててマシューのトラックの追跡を開始する。ミカはトラックを追い上げると、所持していた銃でヴィッキーにトラックを銃撃させる。トラックが損傷すると、マシューは反転して再びダイナー付近で停車する。ダイナーには警察が駆け付けており、ミカ達はマシューを諦めて逃走する。
ジェフリー達はGPSを追跡する事でミカの邸宅を突き止める。その夜、ジェフリーはチームを率いて、邸宅に侵入する。その頃、ミカはキャスを連れ出し、逃走を図ろうとしていたが、キャスは警察が来た事に気付くと、悲鳴を上げて助けを求める。駆け付けたジェフリーは、ミカに銃を向け、動かぬ様に命じるが、傍に潜んでいたヴィッキーに銃撃される。即座にジェフリーの同僚がヴィッキーを射殺する。手負いのジェフリーは向かってきたミカを銃撃し、キャスは救出される。ジェフリー達はニコールの居場所を聞き出そうとするが、ミカは14歳の誕生日を過ごしたワゴン車とだけ明かして絶命する。監視カメラの映像でニコールの生存は確認されるものの、居場所は掴めずに終わる。
マシューとティナは、署でカサンドラと再会し、無事を喜ぶ。その後、マシューは事件直後からキャスの私物をそのままの状態にしてきたトラックの後部座席を片付ける。程なく、ジェフリー達はニコールを無事発見する。キャスは8年ぶりにスケートリンクに戻り、滑りを楽しむ。