バリー・ソネンフェルド監督作「メン・イン・キャット」("Nine Lives" : 2016)[DVD]
家庭を顧みないワンマンCEOの男が、事故に遭って、娘の誕生日に買った猫に意識が移ってしまい、元の体に戻る為に奮闘しながら、父親らしさを取り戻していく様を描くコメディ作品。
ニューヨーク、ファイア・ブランド社のワンマンCEOトム・ブランドは、ワンマン経営で航空・小売・携帯など多方面で事業を成功させる。その一方で、トムはその根っからの仕事人間ぶりが災いして前妻マディソンと離婚する。二番目の妻ララもまた、家庭を顧みないトムに愛想を尽かし始めているが、娘レベッカはそんなトムを慕っている。マディソンの息子デヴィッドは、トムと一緒に働きたいが為にファイア・ブランドに入社するものの、トムからは冷遇される。
トムは独断専行で巨費を投じて北米一高いタワーを建設し、そのオープンが一ヶ月後に迫る。そんな折、社でナンバー2の役員イアンは、株式の公開をトムに進言し、取締役会もまた、経費の上昇とタワーの建設による財政の懸念を示し、イアンの提案に賛同する。しかし、株式の過半数を保有するトムは、自らの偉業を歴史に刻むタワーが他人の物になるのを拒み、提案を一蹴する。デヴィッドはシカゴで建設中のパラゴン・タワーが、騙し討でファイア・ブランドのタワーより高くなる情報を掴み、それをイアンに報せる。イアンはそれをトムに伝えない様に命じる。
レベッカの11歳の誕生日を翌日に控え、プレゼントを忘れていたトムは、レベッカに欲しい物を尋ねる。レベッカは猫を希望するが、猫嫌いのトムは他に妙案が無いか、役員達に意見を求める。デヴィッドはレベッカの希望を叶えてやる様に促す。トムは帰りに適当に検索して見つけた、人気の無い裏通りに店舗を構える怪しげな雰囲気のペットショップを訪ねる。無数にいる猫の中で、一匹の猫がトムに懐く。店主パーキンスはそれが悩める者に惹かれる猫であり、八つめの命を生きているのだと説き、トムに勧める。トムはその猫と備品を購入する。パーキンスは電話に出るなと意味深な忠告をするが、トムはその矢先にイアンから連絡を受けて、タワーに向かう。一方、自宅にはマディソンと娘ニコールを始め、レベッカの友人達が集い、パーティが始まる。
トムは鳴き止まない猫をケージに携え、イアンの待つタワーの屋上へ向かう。大雨が降りしきる中、イアンは自社タワーのアンテナを嵩上げする事で、パラゴンに勝てる見込みを示す。トムは自社タワーが二位に下がったのは、イアンが会社の売却に没頭していたせいだと咎め、解雇を通告する。その時、アンテナに雷が落ち、その衝撃で跳ね飛ばされたトムは屋上の端で宙吊りになる。イアンは手を貸そうとせず、トムは猫と共に落下するが、途中で鉄柱に衝突し、窓を破って屋内に突っ込む。
トムは一命を取り留めるも、頭部を損傷して昏睡状態に陥る。同時にトムの意識は猫の体で覚醒する。トム猫は病院に駆け付けたララに、必死で自分がトム本人だと訴えかけるが、通じるはずもなく、ララはトムがレベッカの為に買った猫がしつこく鳴いていると認識する。イアンはララに事故だったと弁解する。間もなく、トムの前にパーキンスが現れ、トレーナーとしての能力でトム猫に話しかける。トム猫は元の体に戻る方法を尋ねる。パーキンスはなぜ猫になったのか、それを自問し続ける事で答えは出ると説き、トム本体が死ねば一生猫のままだと警告して立ち去る。ララとレベッカはトム猫を自宅へ連れ帰る。トム猫はメモを書いて真実を伝えようとするも敵わず、書斎から持ち出したスコッチを飲んで泥酔する。ララとレベッカはトムの回復を祈る。
翌日、デヴィッドはイアンが役員達を懐柔し、社の実権を握ろうと画策している事を察知するが、トムの為にタワー競争に勝つ術を模索する。一方、トム猫は猫らしく振る舞う事を嫌い、尚もララ達に真実を伝えようと四苦八苦する。その最中、食事に訪れたマディソンが、ララにジョシュという男について話を振り、トム猫はララの浮気を疑う。
トム猫は電話帳からパーキンスの店のページを切り取ってララに提示する。一方、デヴィッドは病院でイアンと遭遇し、理由を問い質す。イアンは社の転換を図る為に、トムの容態に関する医師の見解を聞きに来たのだと説く。デヴィッドがは取締役会で、タワー競争に勝つ妙案について打診する。イアンはそれを退ける。デヴィッドはタワー競争で負けた責任をイアンに問うが、役員達はタワーで財政を悪化させる事を忌避する。デヴィッドはトムはまだ死んでいないと訴える。
ララはパーキンスを自宅に招く。パーキンスはトム猫と二人きりになると、元に戻りたければ、猫の自覚を持って行儀よく振る舞い、家族の哀しみを癒やして幸せにする様に命じる。トムはそれに渋々従う様になる。間もなく、ララがジョシュから連絡を受けて外出すると、トム猫は車に忍び込んで付いていく。ララはマディソンに紹介された不動産屋のジョシュと再会すると、トムと別れて心機一転を図る為に検討していた家の購入について、猫を通じてトムのレベッカへの愛を思い出して心変わりした事を明かし、断る。一方、デヴィッドはイアンが社に証券会社を呼び、売却の準備を始めている事に強く反発する。イアンはトムの家族共々、巨万の富を得る様にデヴィッドに促す。
ララは医師に呼ばれ、トムの脳死の準備を促される。レベッカは尚もトムの回復を信じ、働き過ぎだったのだと主張する。レベッカは幼い頃にトムと踊った"Three Cool Cats"のビデオを見て感傷に浸る。トム猫は仕事にかまけて、レベッカを長らくなおざりにしてきた事を後悔する。それ以降、トム猫はララとレベッカにせめてもの償いをするべく、努めて猫らしく振る舞う。
ララの元に会社からタワー落成式の招待状が届く。デヴィッドはイアンが役員達を懐柔して株式公開を企てており、落成式でそれを発表するつもりでいる事を明かす。デヴィッドはイアンに対抗し得る、トムの意思を示した書類を探す為に、トムの書斎から資料一式を持ち出す。トム猫はその中に紛れ込んで、デヴィッドと一緒に会社へ向かう。トム猫は会社でデヴィッドがが孤軍奮闘している事を知って見直す。トム猫はイアンと役員の謀議を盗み聞きする。イアンは、トムが株式を全てデヴィッドに遺しているとの旨を記した、定款の存在をデヴィッドが知らない事を利用し、定款書面をシュレッダーにかけて処分する。その後、トム猫は処分された紙切れを集めて、デヴィッドにそれとなく知らせる。それに気付いたデヴィッドは、直ちに帰宅し、マディソンが保有する離婚時の書類の中から定款書面を探す。その際、幼い頃にデヴィッドが描いた絵が見つかる。マディソンはトムがその絵に記されたファイア・ブランドを社名に取った事を明かし、それがトムなりの愛情表現なのだと説く。一方、イアンは病院に医師を訪ね、トムの延命措置は家族にとって酷だと唆す。
落成式当日、イアンはララの元を訪ねると、トムが戻らないという現実を直視する様に促す。トム猫はイアンに襲いかかる。ララは延命措置の停止を拒み、イアンを追い返す。一方、レベッカは猫がその挙動から、トムの生まれ変わりでは無いかと疑い始め、パーキンスの店に連れて行く。一方、デヴィッドは役員に招集をかけ、定款を盾に会社の実権を取り戻そうと企てるが、イアンに阻まれ、解雇される。イアンはデヴィッドはトムとは器が違うと言い放つ。
レベッカはパーキンスに、トムが猫を通して見守っている様な気がすると主張する。パーキンスは、愛は言葉だけではなく形で示さねばならず、犠牲を伴うものだと説く。レベッカは今の方がトムと一緒にいる気がしており、猫がトムでもいいと考えている事を明かす。パーキンスは徐に"Three Cool Cats"のレコードをかける。トム猫は昔の様にレベッカの手を取ってダンスに誘う。丁度その頃、病院のトムは脳死状態に陥る。
夜、ララ、デヴィッド、レベッカは報せを受けて直ちにトムの元に駆け付ける。レベッカは猫が実はトム本人であり、それを証明できるとララに訴える。ララはそれを真に受けず、レベッカを病室から連れ出す。デヴィッドはトムの前で、自慢の息子になろうとして失敗し、会社と共に生きる意味も失った負け犬だと嘆く。デヴィッドは落成式を伝えるテレビ中継を付けると、トムの入館証を持ち出し、タワーからダイブすると言い残してその場を後にする。トム猫はデヴィッドが自殺を企てていると考え、後を追おうとするが、その矢先に、ララが医師からトムの延命処置巨費書へのサインを求められるのを目の当たりにする。レベッカはトム猫に、ダンスを踊って証明する様に促す。トム猫は迷った挙句、一生猫のままでいる事を覚悟して、デヴィッドを追う。
トム猫はパーキンスの協力を得て、タワー内に忍び込み、屋上へ辿り着く。デヴィッドはトム猫に気付くや否や、タワーからダイブする。トム猫は牽引ロープを引っ張って飛び降りるが、途中で途切れる。デヴィッドはかつてトムから「男になった時に使う様に」というメッセージを添えて贈られたパラシュートパックを開き、落成式の会場に降り立つ。トム猫はデヴィッドが男になったのを見届け、地面に衝突する瞬間に、本体で目を覚ます。デヴィッドは集まった報道陣の前で、今後も変わらず同族経営を続けていく事を宣言すると、定款書面を提示してイアンを解雇する。トムはその様子を病室でララ、レベッカと共に見守る。その直後、イアンはパーキンスの目の前で車に撥ねられ、猫として目覚める。
後日、トムはレベッカと共にパーキンスの店を訪ねる。イアン猫はパーキンスの店で飼われる。パーキンスはトムが入っていた猫を、9つめの命を生きた猫としてトムとレベッカに勧める。