ジャック・オーディアール監督作「ディーパンの闘い」("Dheepan" : 2015)[DVD]
スリランカ内戦後、父母娘の関係を偽装し、難民として祖国からフランスに渡った赤の他人の三人が、住処を得た荒んだ団地で困難に見舞われながらも生き抜いていく様を描くドラマ作品。
スリランカ、タミル・イーラム解放の虎の兵士ディーパンは、内戦に敗れた後、難民キャンプに収容される。妻子を亡くしたディーパンは、荒廃したスリランカに見切りをつけ、フランスへ移住する事を決意する。ディーパンはキャンプで見つけた独身の女ヤリニを妻役に、9歳の孤児イラヤルを娘役に据え、家族を偽装する事で、ブローカーを通じてパスポートを入手すると、三人で船に乗ってフランスへ渡る。フランスに到着して間もなく、ディーパンは反政府軍に協力した為に政府軍に拘束され、拷問を受けたという筋書きで難民認定を受け、三人の入国が許可される。ディーパン達は、郊外に位置する不良集団が住み着く低廉で荒んだ団地の住み込みの管理人の仕事を紹介され、住処を得る。ディーパンとヤリニはフランス語を話せない為、世話人ユスフとの会話にも苦慮するが、多少話せるイラヤルに通訳を頼む事で、仕事の段取りを理解する。ディーパンは八棟の内、四棟の掃除、保守、郵便物の仕分けなどの雑務を担当する事になる。
ディーパン達は本当の家族で無い事を知られて強制送還される事を恐れながらも、不良集団で朝から晩まで騒々しい団地での生活を始める。イギリスで暮らすいとこの元へ行く事を希望していたヤリニは、ディーパンとイラヤルに対して余所余所しく接する一方、イラヤルは寡黙で感情を表に出さないディーパンに懐く。ディーパンは不慣れながらも、管理人としての仕事に精勤する。イラヤルは最寄りの学校の外国人向けクラスに通い始める。ヤリニは外に出て人に見られるのを拒み、部屋に篭りがちになる。ディーパンはヤリニに働いて稼ぐよう促す。程なく、ヤリニはユスフの紹介で、団地に住む認知症の老人ハビブの元で介助、料理、掃除などを担う仕事を得る。
ある日、イラヤルは学校で同級生に疎外され続ける事に耐えきれず、喧嘩を起こし、ヤリニが学校に呼び出される。苛立ちを募らせたヤリニはイラヤルを連れ帰ると、フランス語が話せない事を馬鹿にされている様に感じ、イラヤルに怒りをぶつける。イラヤルは家族らしく優しく接して欲しいと請う。ヤリニは子育ての経験が無い為に接し方が分からないのだと説く。
ディーパンは仕事に励みながら、団地での暮らしに適応していくが、文化の違いを理解する事に苦慮する。ハビブの部屋に出入りする不良集団のリーダー格ブラヒムは、ヤリニの働きぶりを気に入り、困った時は力になると伝える。ヤリニは俄に気を良くする。ディーパンはヤリニと心を通わせる様になり、女として意識する様になる。ヤリニはそれを悟り、ある夜、ディーパンに体を許す。ディーパン、ヤリニ、イラヤルは徐々に本当の家族の様に、互いに思いやりをもって接する間柄になっていく。
そんな折、ディーパンは知人を介して、一人で暮らしているかつての上官チェラン大佐の元へ呼び出される。チェランは死んだと聞いていたディーパンとの再会を喜ぶと、祖国の同志に送る為の武器をレバノン人から調達する為に10万ドルが必要だと説き、資金の工面を打診する。ディーパンは自分の中で既に戦いは終わったのだと答える。チェランは激昂し、ディーパンを苛烈に痛めつけ、ディーパンはそれに耐える。
ディーパンは苦悩を募らせ、亡き妻子に思いを馳せる。ディーパンは町に出向いた際に宝飾店に寄り、ヤリニの為に何かを買ってやりたいと考える。その頃、団地で不良集団同士の抗争が勃発し、折り悪く出先から戻ってきたヤリニとイラヤルが銃撃戦に巻き込まれる。二人は慌てて部屋に逃げ帰る。イラヤルは激しいショックを受け、ヤリニもまた恐怖に打ちのめされる。
翌日、ディーパンはヤリニが荷物を纏めて出ていった事に気付くと、駅へ急行し、ホームで列車を待つヤリニを捕まえる。ヤリニはイギリスのいとこと連絡を取った事を明かすと、昼間から発砲がある様ではスリランカと変わらず、そんな場所にはいたくないと訴え、かつて加害者側にいたディーパンにはそれが分からないのだと詰る。ディーパンはヤリニを張り倒してパスポートを奪い、団地に連れ帰る。ヤリニは尚もディーパンに怒りをぶつける。ディーパンはイラヤルを置き去りにする事を非難する。ヤリニは本当の母娘の関係では無いとイラヤルも理解しており、ディーパンとも夫婦では無いのだと詰る。ディーパンはここからどこにも行かないとの決意を示す。
ディーパンは自らが担当する四棟と反対側の四棟の広場に境界たる白線を引く。不良集団は屋上からディーパン目掛けてレンガを落とすなどして妨害を図るが、ディーパンはそれを物ともせず、線より内側が発砲禁止、通行禁止区域だと反対側に通告すると、自陣の若者達と屯し始める。一方、ヤリニは反対側の棟に位置するハビブの部屋に通うのを拒否するが、ユスフからブラヒムが呼んでいる事を聞いてそれに応じる。ヤリニは発砲で怖くなったのだとブラヒムに弁解する。ブラヒムは自らがただの売人であり、騒動とは無関係だと説くと、ディーパンが屯するのを止め、白線を消さないと、ディーパンを殺すと脅す。ヤリニはそれをディーパンに報せると、自分達を巻き込まぬよう訴える。ディーパンは脅されているのは自分だと憤怒するが、ヤリニはそれ以降、ディーパンを拒絶する様になる。
間もなく、ディーパンは部屋にパスポートと金を残して出ていく。ヤリニはディーパンに連絡すると、休暇後にイラヤルを連れてイギリスのいとこの元へ行く意向を示し、ディーパンに戻ってくるよう哀願する。ディーパンは苦悩し続ける。ヤリニは再びハビブの部屋を訪ねた際に、ディーパンが悪い人間では無く、戦争で心に問題を抱えているだけであり、傷つけないでやって欲しいとブラヒムに請う。その直後、部屋が何者かによる激しい銃撃を受け、ヤリニは咄嗟に身を隠す。ハビブは顔に被弾して即死する。人の気配が消え、ヤリニが部屋から出ていこうとすると、瀕死のブラヒムがヤリニに拳銃を突き付け、助けを求める。ヤリニは命令に従い、ディーパンに連絡する。ディーパンはドライバーと自作の刀を持ち出すと、広場にいた不良達に襲いかかり、拳銃と車を奪う。ディーパンは車を薬品で爆破する事で陽動を図り、行く手を遮る不良集団達を撃退しながら、命懸けでヤリニの元へ向かう。ハビブの部屋に辿り着いたディーパンは、血だらけのヤリニを見つけると、拳銃を突きつける。ヤリニは動転しているディーパンを引っ叩いて正気に戻すと、ブラヒムが死んだ事を伝える。二人は抱き締め合う。
その後、三人はイギリスに渡り、ヤリニのいとこの元で居を構える。ディーパンとヤリニは赤子を儲け、イラヤルを交えた四人は本当の家族となって平和に暮らしていく。