ネッド・ベンソン監督作「ラブストーリーズ コナーの涙」（"The Disappearance of Eleanor Rigby: Him" : 2013）[DVD]
陰鬱な出来事が夫婦関係に影を落とし、やがて突然、妻が失踪した事で、関係の修復に奔走する夫の姿を描く恋愛ドラマ作品。
ニューヨークで暮らす、出会いから７年目の夫婦コナーとエリナー。授かった子供を生後間もなく喪ってしまった事が、二人の関係に暗い影を落とす。コナーは小さなレストランを経営しているが、客足はいまいちでやり繰りに苦慮する。エリナーは取り繕い合う関係に息苦しさを感じ、抑うつ状態に陥る。ある日、エリナーはコナーが浮気する夢を見たと話す。コナーはそれを否定するが、エリナーは浮気すべきだと提案する。コナーが困惑すると、エリナーは浮気すれば夫婦関係も改善すると主張する。コナーはそれを拒否し、それがエリナーの願望では無いかと問い質す。コナーはエリナーの真意を図りかね、戸惑う。
コナーは父スペンサーの元を訪ねる。有名レストランを経営するスペンサーは、新しい再婚相手が自分を捨てて出て行った事を明かす。スペンサーは自らの衰えを訴えると、店に新しいマネジャーが必要だと告げ、コナーを誘う。コナーは援助を受ける事を頑なに拒む。
ある日、エリナーは突然の負傷で入院する。駆け付けたコナーに対し、エリナーは距離を置きたいと請う。コナーはそれを拒否するが、エリナーは一からやり直したい意向を伝える。後日、コナーはエリナーがアパートから失踪した事を悟り、スペンサーの元へ身を寄せる。
コナーは店のシェフで親友のスチュワートに相談し、エリナーに心の整理をする時間が必要だと諭される。コナーはスチュワートからエリナーを町中で見かけたと聞くと、その場所で張り込み、髪を切って印象の大きく変わったエリナーを目撃する。コナーはエリナーを追うが、エリナーは駅に消える。
スペンサーは妻から行動力が無いと指摘されていた事を明かし、コナーが自分と似ていると指摘する。コナーはそれを否定し、自らに行動力があると反論する。スペンサーは人生に後悔すべきじゃないと助言する。
ある日、コナーはスチュワートからエリナーの目撃情報を聞きつけ、後を追って大学へ辿り着く。コナーは聴講中のエリナーに接触を図るが、憤慨したエリナーは退出し、放っておいて欲しいと突き放す。コナーは居場所を尋ねるが、エリナーはそれを明かさない為、消える前に話し合うチャンスが欲しいと請う。
店の客足が遠のいた事で赤字が続き、コナーは経営に行き詰まる。スタッフのアレクシスはコナーの悩みを察すると、話す様に促し、誘惑する。コナーは後ろめたさを拭えないまま、アレクシスと肉体関係を持つ。
スペンサーが亡き子供に送って以来、コナーが世話してきた金魚が死んでしまい、コナーはスペンサーと共に弔いに出かける。コナーはスペンサーの言動からどこか具合が悪いのでは無いかと気遣う一方で、母を捨てたスペンサーが若いだけが取り柄の妻に繰り返し捨てられてきた事を誂う。スペンサーは人は誰しも悲しみを抱えて生きていると助言する。
コナーはエリナーの実家を訪ね、母親メアリーにエリナーの所在を問うと、エリナーは関知していないと応じる。コナーが自分の印象に変化があるか尋ねると、メアリーは７年前に初めて会った時と同じだと告げる。コナーはエリナーとの別れが運命だと割り切れずにおり、平凡な日常を取り戻したいだけだと主張するが、メアリーはエリナーはそうではないと忖度し、妥当な解決法が無い事を伝える。
店の経営が思わしくない事を察したスチュワートは、スペンサーに協力を請う様にコナーに促す。コナーはスペンサーが逆玉で、金持ちの母の金でレストランを開き、成功したら母を捨てた事を非難し、そんな男に世話になるくらいなら失敗した方がマシだと主張する。コナーは店を閉める意向をスチュワートに明かす。その直後、突然エリナーが店を訪ねてくる。コナーはエリナーにも店を閉める意向を伝える。エリナーがコナーを連れ出すと、二人はレンタカーで町を離れ、ドライブする。
道中、大雨が降りだすと、ワイパーが故障し、二人は立ち往生を余儀なくされる。コナーは来週アパートを引き払う意向を伝える。二人は口づけを交わし、抱き合うが、コナーは罪悪感に耐え切れず、浮気した事を打ち明ける。コナーは自分を罵る様に促すが、エリナーはコナーを遠ざけ、関係の終わりを告げる。
コナーはスペンサーの店を訪ねる。スペンサーは店をコナーに任せて引退したいと告げる。コナーは自分の店を手放し、エリナーも去ったと嘆くと、なぜ一人を好きになるのか尋ねる。スペンサーはエリナーに時間を与える様に諭す。コナーはどんなに忘れようとしても、亡くした子の事を思い出してしまうと明かす。スペンサーは流れ星は一瞬で消えるが、目にできる事は喜ばしいと慰める。
大勢の客を集めて閉店パーティを行った後、コナーはアパートを引き払う準備に取り掛かる。眠りから覚めると、コナーは目の前にエリナーがいる事に気付く。エリナーもまた、忘れたはずなのに亡き子の事を思い出すと明かす。子の顔がもう思い出せないというエリナーに、コナーはどんな顔をしていたか語り聞かせ、世界で一番美しい子だったと伝える。二人は互いに苦しみを抱えながら、亡き子を恋しがっている事を知り、そのまま愛しあう。翌朝、コナーは再びエリナーが自分の前から姿を消した事を知る。
程なく、コナーはスペンサーから店を継ぎ、新たな人生を歩み始める。
問題を抱え、関係の行き詰まった一組の夫婦の顛末を、夫サイドと妻サイドそれぞれの視点で描く、二部構成からなるちょっと珍しくも上質な恋愛作品。本作は夫編であり、夫コナーが突然失踪した妻エリナーと関係を修復しようと苦慮する様子が描かれる。コナーはこぢんまりしたレストランを経営しているが、経営は芳しく無く、エリナーと店の２つの悩みを同時に抱えてしまう。より大きなレストランを経営している父は自分のレストランをコナーに継いで欲しいと思っているが、コナーの父に対する感情は複雑で、その辺の微妙な親子関係も巧みに描かれる。エリナーが失踪した理由を始め、劇中で疑問を抱く要素は、妻編を観ることで解消される仕組みだから、当然二本観るべきだし、その分面白さは倍増する。ただ、どちらを先に観るかによって、かなり異なる体験をするのではないかと思う。ジェームズ・マカヴォイもジェシカ・チャステインも本当に素晴らしい役者だと改めて実感。恋愛とは無縁なおっさんでも、こういう作品を観るといっちょまえに切なくなってしまうのよね。
