スティーヴン・スピルバーグ監督作「太陽の帝国」("Empire of the Sun" : 1987)[BD]
日中戦争の最中、上海租界で両親と生き別れ、捕虜となった少年が、両親との再会を信じて、収容所で健気に生き抜き、成長していく様を描く戦争ドラマ作品。
1941年、日中戦争勃発から四年が経ち、日本軍は中国の主要都市と国土の大部分を占領する。その一方、上海租界では外交特権に守られた数万の欧米人が変わらぬ生活を続けていたが、日本軍は上海郊外に迫り、真珠湾攻撃の開始を待つ。
英国租界の良家に生まれ育った七歳のジェイミーは、両親と共に屋敷で何不自由の無い生活を送る。戦闘機好きのジェイミーは、なかでも零戦をこよなく愛し、将来、日本の空軍に入隊する事を夢見る少年だが、その腕白ぶりに阿媽(メイド)は手を焼く。
ある時、租界内で催された仮想パーティに両親と共に訪れたジェイミーは、屋外でグライダーで遊んでいると、駐留する日本軍の集団と遭遇する。父は日本軍が何かの時期を窺っている事を察知すると、様子を見る為に自宅を離れる事を決め、一家でホテルへ身を寄せる。
その夜、日本軍は租界に砲撃を行った後、進駐を開始する。租界内の外国人が一斉に避難を始めると、ジェイミーも両親に連れられて車で避難を始めるが、やがて群衆に阻まれ身動きが取れなくなり、戦車に追い詰められる。父は車を捨て、徒歩で波止場の船に向かう事を決めるが、その直後、一家は群衆に呑まれ、ジェイミーは両親と離れ離れになる。日本軍と市民ゲリラとの間で交戦が始まると、ジェイミーは市街地を抜け、一人で住宅街の屋敷へ戻る。
ジェイミーは既に日本軍に接収され、荒らされた屋敷の中で両親を探すが、その最中、阿媽達が家財を運び出す現場に遭遇する。阿媽はジェイミーに意趣返しの平手打ちをして去っていく。その後、ジェイミーは屋敷に残っていた食料で食いつなぎ、一人寂しく両親の帰りを待つ。
やがて食料が尽きる頃になると、ジェイミーは日本軍に制圧された市場へ赴き、兵士に降伏を告げて救いを請うが、兵士には相手にされず、途方に暮れる。そんな折、ジェイミーは追い剥ぎの中国人少年に追い回され、逃げ惑う内に、米国人フランクの乗ったトラックと遭遇する。ジェイミーが両親を捜す孤児だと知ったフランクは、波止場に停泊する船内に滞在するボス、ベイシーの元へジェイミーを連れて行く。
ジェイミーはいつか迎えに来る両親が恩義を感じ、謝礼を払う見込みを伝えて、ベイシーに助けを請う。ベイシーはジェイミーの身なりや言動から良家の子息だと確信すると、両親が他の英国人と共に捕虜になったと説き、ジェイミーに食事を振る舞い、休ませる。
翌日、ベイシーはブローカーの元へジェイミーを連れて行き、値踏みをさせるが、買い手が付かない事を知ると、市場にジェイミーを置き去りにしようとする。それを察知したジェイミーは、もぬけの殻と化した住宅街に金目の物があると説き、自らが案内役を買って出る事でベイシー達に同行を請う。ジェイミーはベイシー達を自宅へ案内すると、屋敷は既に日本軍が占拠しており、ベイシーが袋叩きにされた後、ジェイミー達は捕虜収容所へ送致される。
劣悪な環境の収容所内で、ジェイミーはベイシーの小間使いとして奔走する。程なく、捕虜達を別の施設へ移送するトラックが到着する。移送対象に選ばれたベイシーは、ジェイミーとの関わりを無視し、置き去りにしようとするが、ジェイミーは兵士に哀願する事で、半ば強引に同乗を認められ、ベイシーらと共に蘇州収容所へ移送される。収容所に着くやいなや、ジェイミーは隣接する日本軍の駐機場で零戦を見つけ、その機体に初めて触れる。ジェイミーはそこに現れたパイロット達に敬礼し、返礼を受ける。
1945年、蘇州収容所では多くの捕虜達が困窮した環境の中で、互いに手を取り合いながら共同で生活を営む。ジェイミーは兵士を巧みに欺きながら物品の調達などを行い、捕虜達の世話役として奔走する。その傍ら、ジェイミーは医師ローリングが営む診療所で手伝いをしながら勉強を行う。ある時、ジェイミーは、飛行機好きな一人の少年兵とフェンス越しに気脈を通じさせる。
英国人棟に退屈するジェイミーは、ベイシーを長とする米国人男子棟に足繁く出入りし、ベイシーの小間使いを買って出る。ベイシーは、米国の快進撃が続いている事から、直に日本が敗れ、収容所から出られる見立てをジェイミーに伝える。ジェイミーはベイシーと一緒に出る約束をする。ジェイミーは米国人男子棟に移りたい旨を伝えると、ベイシーはフェンスの外にキジがいる事を明かし、罠を仕掛けたら男子棟に住ませる事を約束する。英国人棟でジェイミーと同居するヴィクター夫妻は、ジェイミーに男子棟に移る様に促す。
その夜、米軍のB29により駐機場と収容所が襲撃される。ナガタは意趣返しをするべく、診療所へ押しかけると、ローリングを痛めつける。そこへジェイミーが駆け付け、土下座をすると、戦争のせいだと告げて許しを請い、ナガタは渋々引き返す。その直後、どさくさに紛れて中国人達がフェンスを超えて収容所内の畑に侵入し、農作物を奪い去る。その様子を見たベイシーは、フェンスの向こうに地雷が無い事を確信する。
翌日、ジェイミーはキジ捕獲の罠を仕掛けるべく、監視の目を盗んでフェンスの外に出る。ベイシーを始めとする男子棟の捕虜達は、その様子を固唾を呑んで見守る。異変を察知したナガタは、フェンスの外へ探索に向かい、ジェイミーは窮地に陥るが、少年兵が機転を利かせてナガタを誘導する事で、ジェイミーを救う。ジェイミーはベイシーに勇気を買われ、男子棟に住む事を許可される。
ベイシーは早速、脱走に向けた計画を練り、準備を開始する。ベイシーが髭を剃って身なりを整えていると、そこへナガタが訪れる。ナガタはベイシーが脱走を企図していると察知し、更に盗難品の数々を目にすると、憤激してベイシーに苛烈な暴行を加える。ジェイミーは土下座して許しを請うが、ナガタは最早それには動じる事は無く、ジェイミーは遠ざけられる。
その後、診療所で治療を受けたベイシーは、かつて上海ーシスコ間航路のスチュワードだった事を明かす。ジェイミーは戦争が終わったら、落ち着くまで自分の家に来れば良いと提案する。ベイシーはサンパンを手に入れて、揚子江の河口へ出た後、仲間と合流する計画を明かす。
治療を終え、診療所を出たベイシーは、自室から私物が粗方回収された事を知る。ジェイミーは荷物をラゲッジに纏め、男子棟を後にする。ジェイミーは駐機場の滑走路で特攻隊員が出撃前に行う乾杯を目にすると、敬礼し、かつて大聖堂学校で歌っていた合唱曲を歌う。その歌は収容所と滑走路に響き渡る。程なく、特攻隊員の乗った零戦は出撃するが、そこへ米軍のP51が急襲をかけ、零戦は撃墜される。建物の屋上に上がったジェイミーは、P51の華麗なる勇姿を間近で見て、興奮し、歓声を上げる。そこへローリングが駆け付け、前後不覚に陥ったジェイミーを落ち着かせる。ジェイミーは我に帰ると、両親の顔を思い出せなくなっている事を明かす。その後、ジェイミーは再び英国人棟へ戻り、ヴィクター夫妻に受け入れられる。
翌日、捕虜達は別の場所へ移送される事になり、日本軍は収容所から撤退する。ジェイミーはベイシーが自分を置いて脱走した事を知り、愕然とする。捕虜達の移動が始まると、時を同じくして滑走路で少年兵の乾杯が行われ、ジェイミーはその様子を見守る。少年兵は意気揚々と零戦に乗り込むが、機体の状態が悪い為に動かせず、少年兵は悲嘆し、号泣する。
長蛇の列を成した捕虜達は、飢えと乾きを堪えながら南進する。その道中、ジェイミーは持参したラゲッジを川に投げ捨てる。捕虜達はやがて、日本軍による収奪品の数々で溢れかえるスタジアムに到着する。ジェイミーはその中に自宅の車を発見する。ジェイミーは、夫と生き別れ、衰弱の激しいヴィクター夫人の世話をする。捕虜達は兵士から更に南へ向かう様に促されるが、ジェイミーは身動きの取れなくなった夫人に残る様に請われる。ジェイミーは夫人に死んだふりをする様に促すと、兵士をやり過ごして夜を明かす。
翌朝、ジェイミーは夫人が息絶えた事を知る。その直後、遥か彼方に閃光が広がるのを目撃したジェイミーは、それが夫人の魂が天に召されたのだと解釈する。程なく、ラジオで日本の敗戦と原爆の使用が報じられると、ジェイミーは自らの閃光に関する解釈が誤りだった事を知る。ジェイミーは行く宛も無く彷徨い歩く内に、空から落下する無数の物資の詰まったケースを目の当たりにすると、それに飛び付き、食料を貪る。
その後、ジェイミーは再び蘇州の収容所に戻り、そこで少年兵と再会する。少年兵はジェイミーにマンゴーを譲ると、刀で切ってやろうとする。そこへベイシーとその子分達が物資を収奪すべく、収容所へ現れる。刀を振り上げた少年兵は、ジェイミーを殺そうとしていると誤解され、子分に射殺される。ジェイミーは友達の死に憤怒し、絶命した少年兵を蘇生させようとする。ベイシーはそれを制止すると、両親の元へ連れて行くとジェイミーに提案するが、ジェイミーはそれを拒み、ベイシーと決別する。
収容所に残ったジェイミーは、程なく到着した米軍部隊に保護される。その後、ジェイミーは上海に戻り、他の孤児達と共に子を探す親達と対面する。ジェイミーはその場で遂に両親と再会する。
戦後70年というひとつの節目の年に、戦争モノとして最後に選んでみたのが本作。無知なものでスピルバーグにこんな作品がある事を知らなかったのだが、クリスチャン・ベールのデビュー作でもあるから興味深く鑑賞した。日中戦争真っ只中の上海租界や収容所の様子が、幼くも健気に生きる少年の目を通してドラマチックに描かれる。日本の軍人には伊武雅刀やガッツ石松、片岡孝太郎など日本人が起用されているが、本作での日本は敵国としての立場だから、ヒールな役どころである。戦時だからやむを得ない側面があるにしても、日本人が欧米人を虐げているという構図だから、日本人ウケは難しいのか。この点をもってしてスピルバーグは反日と評する向きもある様だが、さすがにそれは浅慮に過ぎるだろう。ジェイミーと日本人少年兵が、立場を超えて親交を深めていく様子は感動的である。土下座とか降伏を処世術の様に用いるジェイミーの姿は健気過ぎる。演技派のベールにもこんな初々しい頃があったのだなぁ。