スティーヴン・ナイト監督作「オン・ザ・ハイウェイ その夜、86分」("Locke" : 2013)[DVD]
家庭と仕事に恵まれ、順調な生活を送っていた男が、自らの犯したただひとつの過ちを正すべく、一路、目的地へ向かうまでの過程を描くシチュエーション・ドラマ作品。
バーミンガムの55階建てビル建設工事に携わる現場監督アイヴァン・ロックは、ヨーロッパで過去最大のコンクリート打設工事を翌日に控え、その日の勤務を終える。その夜は自宅で妻カトリーナと二人の息子ショーン、エディ達とサッカーの試合を観戦する事になっており、アイヴァンは車で家路に就こうとする。その矢先に、かつてロンドンへ出張した際に一度だけ関係を持った、先方のアシスタントで独身の中年女ベッサンが予定より早く破水した事を伝えてくる。意を決したアイヴァンは自宅へは戻らず、そのままハイウェイに乗り、ベッサンの入院するロンドンの病院を目指す。一時間半の距離をひた走る最中、アイヴァンは家族や職場の同僚らに矢継ぎ早に連絡を取っていく。
アイヴァンは自宅に連絡し、エディに緊急の用事で帰れなくなった旨を伝える。アイヴァンは信頼する部下の作業員ドナルを自分の代理に指名し、翌日の作業をやり遂げる様に命じる。ドナルは当惑するが、アイヴァンは進捗を逐一確認すると約束し、コンクリートを確認して問題がなければ流し込むだけだと諭す。
ベッサンが分娩室に一人きり残され、心細さと痛みを訴えてくる。アイヴァンはすぐに到着すると宥める。アイヴァンはカトリーナに帰れなくなった事を改めて伝えると、一度だけ浮気した事実を告白する。アイヴァンは15年の結婚生活で最初で最後の過ちだと告げ、重要な作業の成功を同僚らと祝った後、酒を飲み交わした際、孤独を訴える独身女に同情してしまい、成り行きのままに関係を持ったという経緯を明かす。アイヴァンがその女が今夜出産すると告げた途端、カトリーナは電話を切る。
アイヴァンは上司のガレスに理由を告げ、現場に立ち会えない旨を伝える。憤慨したガレスは、シカゴ本社の社長も期待するプロジェクトだと釘を差すが、アイヴァンは女と一緒にいてやれるのは自分しかおらず、妊娠させた事の責任を果たす決意が揺るがない事を伝える。アイヴァンはドナルに代理を任せた事を伝え、工事は失敗させないと誓うが、ガレスはアイヴァンの正気を疑い、本社に連絡すると告げる。アイヴァンはミラー越しに後部座席の父の幻覚を睨みつけると、自分を捨てた父とは違うと詰る。
アイヴァンはドナルに事細かに指示を出すと、ガレスと連絡を断つ様に告げ、自分と二人だけで対処する様に命じる。アイヴァンはベッサンの状態を慮ると、アイヴァンを必要とするベッサンに、妊娠は過ちにより生じた事で、お互いを知らないから愛も憎しみも無いと告げる。本社に連絡したガレスはアイヴァンのこれまでの功績を明かし、説得を試みたものの、即時解雇が告げられた事をアイヴァンに伝える。アイヴァンは解雇されても自分の責任で工事を成功させたいという強い意思を示す。
アイヴァンは浮気が信じられないというカトリーナに、何ヶ月も打ち明けようと悩んできたが、女が予定より2ヶ月早く破水し、機を逸してしまったと伝える。カトリーナはアイヴァンが別人の様に感じると訴え、トイレに籠る。病院がベッサンの赤子のへその緒に異常があり、自然分娩が難しい状態だと伝えてくる。
ドナルはアイヴァンの指示に基づき、翌日の作業の準備をこなしていくが、アイヴァンはドナルに参照させるべきファイルを車内に持ち込んできてしまった事に気付き、対応に苦慮する。アイヴァンは激昂するカトリーナに説得を試みるが、カトリーナは聞く耳を持たず、連絡を拒絶する。
アイヴァンはドナルにファイルの情報を口頭で伝えるが、ドナルの真剣さを欠く受け答えに飲酒を疑う。アイヴァンが道路封鎖に関して警察に要請する指示をドナルに与え、再度飲酒の有無を問い質すと、ドナルは憤慨する。ベッサンは帝王切開する必要があると聞き、不安を訴えるが、アイヴァンは病院に任せる様に諭す。アイヴァンは父の幻覚に、自分は父と違い、現実から逃げる事無く、状況を打開できると主張する。
ドナルの様子を心配したアイヴァンは警察に確認の連絡を入れる。警察は役所から再度確認要請する事項があると伝える。しかし、役所は既に閉まっており、明日の対応では作業開始に間に合わず、アイヴァンは早急の対応を迫られる。アイヴァンはドナルに型枠の確認を指示すると、自宅に連絡し、電話口に出たショーンに役所の担当者キャシディの番号の在り処を伝え、メールで伝える様に命じる。
帝王切開の開始をアイヴァンの到着まで待つというベッサンを、アイヴァンは医師に任せる様に説得する。ベッサンは妊娠が運命だと主張し、アイヴァンへの愛を訴えるが、アイヴァンは愛しているとは言えず、一刻も早く到着すると約束する。
ショーンから事情を聞いたカトリーナは、こんな時に仕事の話をするアイヴァンを詰る。アイヴァンは自分が犯した間違いを正す為だと告げ、明日、帰宅したらゆっくり今後の事を話したいと提案するが、カトリーナはキャシディの番号を伝える事無く、別れを告げる。しかし、ドナルが以前控えていたキャシディの番号を発見し、アイヴァンに伝える。アイヴァンは勤務時間外で不快感を露わにするキャシディに頼み込み、警察に連絡してもらって事なきを得る。
その直後、ドナルは型枠が固定されていない事を知り、アイヴァンに伝える。ドナルは作業員が皆帰った後で、朝まで対処できないと困惑するが、アイヴァンは近くの道路工事現場に馴染みの作業員がいる事を明かし、現金を渡して頼み込む様に指示する。アイヴァンは父の幻覚に、自分は愛されようと憎まれようとやるべきことはやり、新しい命に対しても、工事に対しても責任を果たすと強弁する。
アイヴァンはカトリーナの只ならぬ姿を見て動揺するショーンに、改めて事情を話すと約束し、宥める。アイヴァンはいまはすべてが丸く収まる様に祈り、生まれてくる子が7歳になったら、恥ずべき一族の血を自らの手で塗り替えたロック性を名乗らせる決意を父に示す。
ドナルは作業員と話を付け、現場に向かっている事をアイヴァンに伝えてくる。カトリーナは姉妹に相談した事を明かすと、一度の過ちも許すことができない為、家に戻ってこないようにアイヴァンに言い渡す。ガレスは本社が黙ってないとアイヴァンの立場を慮るが、アイヴァンは作業の手筈は整っており、予定通り工事が行われるとガレスに伝える。
エディが無邪気にサッカーの試合結果を伝えてくる。ロンドンに入り、フリーウェイから降りたところで、アイヴァンはベッサンから無事出産した事を伝えられる。電話越しに赤子の泣き声を聞いたアイヴァンは安堵し、病院へ向かう。
終始、車内でトム・ハーディ演じるアイヴァンが家族や愛人、同僚らと電話越しに喋り続けるだけという、かなり斬新なワンシチュエーション・ドラマ作品。本当にハーディオンリーのワンマンショーなのだが、その発想の思い切りの良さに素直に感服する。電話でのやり取りから徐々にストーリーが紡がれていき、アイヴァンの家庭環境や社会的立場、更に抱える苦悩などが明らかになるのだが、当然それらの光景は映像を伴わない形で進行するから、観る側の想像力が試される。派手に起伏のあるストーリーで無いからこそ、こういう魅せ方が効果的に作用するんだな。シンプルなのによく練られている。