チラ裏レベルの人生記(仮)

自分が自分で無くなった時に、自分を知る為の唯一の手掛かりを綴る、極めて個人的な私信。チラ裏レベルの今日という日を忘れないように。6年目。

トールマン

パスカル・ロジェ監督作「トールマン」("The Tall Man" : 2012)[DVD]

小さく貧しい町で、トールマンと称される謎の男による相次ぐ子供の失踪事件に、住民達が翻弄される様を描くミステリー・ホラー作品。

ワシントン州ピッツビル群の山間に位置する小さな鉱山町コールドロック。主力産業だった鉱山が六年前に閉鎖され、町には仕事と金が無くなり、かつての活気が失われる。更に子供の失踪事件が相次ぐようになり、住民達は「トールマン」と呼ぶ恐ろしい存在が、子供達を連れ去っていると考えるようになる。子供達はみな忽然と姿を消しており、警察もその原因が掴めず、捜索は難航する。町には刑事ドッドが張り付いて捜査を行うが、住民達は諦観する。

医師の夫を亡くした後、一人で診療所を切り盛りする看護師ジュリアの元に、ある朝、住民のトレーシーが長女キャロルと次女ジェニーを連れてやって来る。ジュリアは苦痛に悶え苦しむキャロルの腹を見て、産気づいていると判断すると、出産を介助し、程なくキャロルは無事に男の子を産む。トレーシーはキャロル目当てに家に出入りするスティーヴンとの間にできた子だと悟り、18にも見たないキャロルが恥を掻くのを怖れ、病院には行かせないと主張する。トレーシーはキャロルを生まれた子と共に連れ帰る。

一仕事終えたジュリアは、トリッシュの営む馴染みのダイナーを訪ねる。ジュリアは店の前に現れた挙動不審な女ジョンソンを気遣って声をかけるが、ジョンソンはそれに応じず、立ち去る。その後、ジュリアはトレーシーの家へキャロルの回診に訪れるが、トレーシーはキャロルをシアトルの姉の家に送った事を明かす。ジュリアはその足で、言語障害を患うジェニーの元に寄る。ジュリアを慕うジェニーはトールマンを見たと打ち明け、実在するのだと説く。

ジュリアはその日の仕事を終え、帰宅すると、同居人クリスティーンと一人息子デヴィッドと共に夕食を囲む。デヴィッドを眠りに就かせると、ジュリアはクリスティーンと酒を飲み交わした後、二階の部屋で眠り込む。真夜中、異変を察知して目覚めたジュリアは、一階で負傷し、縛られたクリスティーンを発見する。その直後、ジュリアは何者かがデヴィッドを抱え上げ、屋敷から逃走するのを目撃する。

ジュリアはデヴィッドを乗せて逃走するトラックを追いかけ、しがみつくと、中に忍び込もうとするが、中から飛び出してきた犬に襲われる。ジュリアは犯人に昏倒させられ、車内に拘束される。移動する車内で目を覚ましたジュリアは、拘束を解き、犯人の不意を突いて襲いかかる。トラックは倒木に衝突すると、横転して停止する。犯人はデヴィッドを抱え上げると、車を捨てて逃走する。そこへジェニーが自転車で通りかかるが、その場を立ち去る。

負傷したジュリアはデヴィッドを探すべく、犯人の足跡を追って森へ入る。その途中、ジュリアは泥溜まりに嵌まって負傷し、更に寒さで身動きが取れなくなる。森から出たジュリアは路上で力尽き、倒れこむ。そこにドッドが車で通りがかり、ジュリアを救助すると、ダイナーに送り届ける。

ジュリアはトリッシュの介抱を受けると、トイレで血と汚れを洗い流し、奥の部屋へ着替えに向かう。その際、屋外で保安官チェスナットと住民が、「彼女の計画」について謀議しているのを聞く。更にその部屋の祭壇に、誘拐された子達の写真が飾られており、そこにデヴィッドの写真がある事に気付く。ダイナーに集まった常連客達はジュリアが写真に気付いた事を察知し、ジュリアの様子を窺いに向かう。ジュリアは咄嗟に店の外へ逃走を図る。客達はジュリアの逃走を知ると、武器を携え、総出になって追跡に向かう。

チェスナットはパトカーで廃れたアパートを訪ねる。後部座席に忍び込んでいたジュリアは、チェスナットが去るのを確認すると、アパートの中へ忍び込む。ジュリアは建物の中を彷徨う内にデヴィッドの姿を目撃し、後を追う。デヴィッドが逃げ込んだ部屋にジュリアが入るや否や、ジョンソンの襲撃を受ける。ジョンソンはジュリアを怖れる息子を抱き寄せる。ジョンソンはジュリアを椅子に縛り付けると、ジュリアが息子を洗脳し、自分の事を忘れさせた事を詰り、その目的を問い質す。ジョンソンは行方不明だった息子を発見した経緯を語り始める。

昨夜、ジョンソンは息子を奪ったトールマンを探すべく、いつもの様に森に入り、延々と歩き続けたところ、ジュリアの家に辿り着いた。屋内に息子の姿を発見したジョンソンは愕然とし、真実を伝える為にトリッシュに会いに行った。しかし、そこにはジュリアがおり、息子を誘拐しておきながら、自分を変人扱いしてコーヒーまで差し出した。ジョンソンは店が空くのを待ち、トリッシュに真実を話したが、皆ジュリアの事を信頼している為に最初は信じてもらえなかった。それでも真に迫るジョンソンの話を聞き、トリッシュはジュリアを疑う様になった。ジョンソンは息子を取り戻すべく、ジュリアの家に侵入する計画を打ち明け、もし息子がいなければ自分を精神科病棟に入れてくれれば良いと伝えた。その夜、トリッシュは常連客と共に店を開け、ジョンソンを待っていたが、そこに訪れたのはドッドとジュリアだった。ジョンソンは警察に家を追い出された為に信用しておらず、通報しなかったという。

ジョンソンは他の子をどこに連れ去ったのかとジュリアに問い質す。ジュリアがトールマンに渡したと告げると、ジョンソンはジュリアを殴り飛ばし、息子に嘘を付いていたと自らの口で告げる様に命じる。ジュリアはジョンソンの不意を突いて拘束を解き、ジョンソンを退けると、咄嗟に逃げ出したデヴィッドを追いかける。そこにジェニーが駆け付け、隠れていたデヴィッドを見つけ出すと、嫌がるデヴィッドをジュリアに差し出す。ジュリアは盗んだ車で、デヴィッド、ジェニーと共に自宅へ向かう。

ジュリアはデヴィッドをクリスティーンに預けると、町中の人が集まる事を伝え、計画の終了を告げる。ジュリアはジェニーに口外せぬ様に釘を刺すと、帰るように促すが、ジェニーは自分をトールマンの元へ連れて行くように哀願する。ジュリアはジェニーには耐えられないと理解を求める。

クリスティーンはデヴィッドに鎮静剤を注射する。ジュリアは、ジェニーが自分を何週間にも渡って監視していた為に、事情を知ってしまったとクリスティーンに明かすと、デヴィッドを渡す為に地下室へ向かう。クリスティーンは一緒に逃げる事を確認するが、ジュリアは屋敷に留まる事を示唆する。クリスティーンは旧道で待つと書き置きを残して、屋敷を去る。

明け方、ジュリアは地下から戻ると、外で待っていたジェニーに、トールマンに名前と住所を伝えた事を明かす。程なくして、屋敷に住民が押しかけ、ジュリアに対して罵声を浴びせ始める。ジュリアは疲労に耐えかね、二階で寝入る。クリスティーンは密かに屋敷に戻ると、ジュリアの姿を確認した後、首吊り自殺を図る。

その後、ジュリアは屋敷で逮捕され、ドッドに連れ出される途中で、クリスティーンの死体を目の当たりにする。住民達は屋敷に投石を始める。ジュリアは押し寄せる住民を掻き分けパトカーに乗り込むが、発車間際に窓に投石が直撃し、ジュリアは負傷する

その後、ドッドは屋敷の地下室に広大なトンネル群に通じる坑道を発見し、捜索の難航を憂慮する。結局、トンネル内で子供は発見されず、ドッドはトンネルを封鎖させる。ドッドはジュリアに尋問を行い、夫について聞く。ジュリアは夫が住民に尊敬され、夫のおかげでかつて住民が毅然としていたが、鉱山の閉鎖に伴い、町が活気を失い、子供達がその犠牲になっていると説く。その上でジュリアは自分一人による単独犯だと主張し、ピッツビルで相次いだ子供の誘拐が自分の犯行だと認め、子供達が生存していないと示唆する。

それから18人の行方不明の子供達の大規模な捜索が行われる。ドッドは母親の代表としてジョンソンを招くと、収監中のジュリアに心を開かせ、手掛かりを得るべく、面会をさせる。ジョンソンは息子がいないと生きていけないとジュリアに訴える。ジュリアは子供達全員の母親だったから気持ちは分かると応え、必要な物は全て与えたと明かす。更にジュリアは、町に敗北と痛みが循環し、体制が破綻して機能不全を起こしている為、諦める方が楽だと説く。ジュリアは、自分達には限界があるが、子供は可能性と希望に満ちており、それを伸ばすべきなのにできておらず、間違いを繰り返して、親と同じ様な壊れた大人を育てていると説き、悪循環を断ち切らねばならないと主張する。ジュリアはこでまで多くの場所で変化をもたらしていると信じながら、子供達を助けようとしたが、硬直化した体制は変わらず、悪循環が続き、子供達が苦しみ続ける事を嘆く。最後にジョンソンは、子供達が死んだのかとジュリアに問う。ジュリアはそれを暗に認め、子供達があらゆる場所におり、全員は守れなかったと告げる。

それから間もなく、トレーシーとスティーヴンが自宅前でキャロルの事を巡って、激しく争い始める。ジェニーは二人を止めようとするが、スティーヴンに暴力で退けられると、嫌気が差して逃げ出す。そこに男が現れ、ジェニーを車で連れ去る。ジェニーはその男がトールマンだと確信し、従う。

その後、都市に連れて行かれたジェニーは、新たに名をベラと変え、裕福な老婦の養女に貰われる。男は命と自由な生活を犠牲にしたジュリアを慮り、老婦からの謝礼を拒むと、ピッツビルでの計画を終了し、他の地区へ計画が移る事を示唆する。

数ヶ月後、コールドロックには貧しくも穏やかな生活が戻ると、キャロルは自宅に戻り、スティーヴンと共に暮らし始める。ドッドはトレーシーを訪ね、ジェニーの捜索を継続している事と、ジュリアに死刑が求刑されるが、子供の埋葬場所を自白する可能性がある為、認められないとの見通しを伝える。

ジェニーは老婦の元で、学校に通って絵画を学びながら何不自由ない生活を送るが、その一方で、自分を犠牲にして秘密を守ったジュリアを慮る。ある時、ジェニーは養子となったデヴィッドを公園で偶然見かける。ジェニーは母の事を忘れられず、全てを捨てて故郷に逃げ帰りたいと思う事もあるが、それでも今の生活こそ望んで手に入れた物だと自分に言い聞かせる。

 

 

てっきりクリーチャーかカルト教団が子供を拐う系のホラーかと思っていたのだが、意外にも途中で大きなどんでん返しがあり、地に足の着いた現実的な展開に向かい始めたから驚いた。硬直化した社会システムが、子供に対する虐待や貧困などの諸々の問題の解決の妨げになっている事に失望し、子供を誘拐して貧しい親元から離し、移行期間を置いた上で養子に出すという計画が、それなりの規模で行われている事が示唆される。この作品の様にあからさまでは無いにせよ、現実世界で起こっていてもおかしく無い事件だ。舞台となる小さな町では、犯人をトールマンと呼んで怖れているのだが、もちろんそんな怪物は存在しないワケだから、登場するはずもない。しかし、序盤では意図的に怪物の存在を信じさせる様な作りになっているから、気持良く騙された感が味わえる。

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