マイケル・ドハティ監督作「クランプス 魔物の儀式」("Krampus" : 2015)[BD]
クリスマスの精神を失った家庭が、陰のサンタたる邪悪な精霊クランプスの率いる怪物達に襲われゆく様を描くコメディ・ホラー作品。
世間がクリスマスムードに沸き立つ12月23日。住宅街に暮らす平凡なエンゲル一家(父トム、母サラ、姉弟ベスとマックス、トムの母オミ)もまた、クリスマスの準備に追われる。今年はサラの妹リンダが夫ハワードと子供スティービー、ジョーダン、ハウィー、更に赤子クリッシーと犬ロージーを連れて、遠方からはるばる休暇を過ごしにやってくる事になっているからである。一方、サンタの存在を信じる純粋なマックスは、例年と同じく、願い事を手紙に認めてサンタに送ろうと考えるが、何を願うべきか決め兼ねている事をオミに吐露する。オミはサンタを信じる事は、クリスマスの精神、即ち優しさと犠牲の精神を信じる事だと諭す。
ハワード達が到着すると、性格や信条、生活様式がまるで違う彼らとの付き合いに、エンゲル一家は早速気を揉む。更にサラとリンダのおばに当たり、とりわけ横柄な性格のドロシーまで付いてきた事にサラは不満を露わにする。皆で夕食を囲むと、ハワード達はサラの手料理に文句を付け始め、サラは更に気分を害す。食事中、スティービーとジョーダンは、マックスがサンタを信じている事を論って誂い始め、マックスはこれに反発する。スティービー達は更に、マックスがポケットに忍ばせていた手紙を奪って、皆の前でそれを読み上げ、マックスが以前の様にベスと遊びたがってる事、喧嘩が絶えないトムとサラの仲が元に戻って欲しい事、ハワード達の性格が良くなって欲しい事を、サンタに願っている事が暴露される。マックスは激怒し、手紙を取り戻すと、クリスマスが大嫌いだと泣き喚いて部屋に戻る。トムは三日間の辛抱であり、気に入らない相手とも共通点を見つける努力をする事の大切さを説く事で、マックスを慰め、手紙を出す様に促す。マックスは一旦は手紙を封筒に収めるものの、翻意し、破り捨てて窓から捨てる。手紙が月夜に舞い散って間もなく、上空に黒雲が垂れ込め、街は猛吹雪に襲われ、停電に見舞われる。
翌日、庭に不可解な雪だるまが出現する。更に、心当たりの無い大きな袋入りの荷物が届く。ベスは恋人デレクから返事が来ない事を心配し、様子を見に行きたいとトム達に請う。トム達はベスの身を案じて1時間で戻る様に命じ、外出を許可する。ベスは吹雪の中、デレクの家に向かうが、その最中に突然、辺りが暗くなる。ベスは屋根から屋根を跳び移る怪物の姿を目の当たりにして逃走し、間もなくDHLのトラックを発見するが、ドライバーが凍死している事を知ると、トラックの下に身を隠す。怪物はベスの目の前に木箱でできたオルゴールを残して姿を消す。ベスはオルゴールの中から現れた何かに襲われ、行方をくらます。
ハワード達は暖炉の前に集って寒さを凌ぐも、電気が使えない事で退屈し、不機嫌になっていく。トムとサラは暗くなってもベスが戻らない事を心配する。トムはベスを迎えに行くついでに、近隣の住宅の様子を窺ってくる意向を示す。オミは吹雪が収まるまで行くべきではないと警告する。トムはオミを説得し、ハワードと共にトラックでデレクの家に向かう。
トム達はデレクの家の前に乗り捨てられた無人の除雪車を発見し、窓が外から割られ、引きずり出された様な痕跡を確認する。ハワードはトラックに備えていたショットガンと拳銃を持ち出すと、拳銃をデレクに託し、デレクの家の中に入る。一方、サラ達は屋根裏から発する不気味な足音に続き、大きな振動に見舞われる。
トム達はデレクの家の内部が何かに襲撃された様に激しく荒らされているのを確認し、更に普通の動物とは思えない程に大きな蹄の跡を見つける。その時、屋外からベスの悲鳴が聞こえ、トム達はそちらへ向かおうとするが、その矢先にハワードが雪の中に潜む何かに咬まれ、引きずり込まれる。トムは得体の知れぬ何かを拳銃で退け、ハワードを救出する。トム達はトラックが大破し、炎上しているのを知り、歩いて自宅に戻る。
オミは状況を悟ると、火を絶やさぬ様に忠告する。トムはハワードの脚の咬み傷を手当すると、氷点下の寒さで化物が彷徨く中でベスの捜索は困難だと説き、ドアと窓を封鎖し、吹雪が止み次第、捜索する事を提案する。一同は暖炉の前に集い、眠りに就く。
皆が寝静まった後、暖炉の火が消えると、煙突上部から鎖に吊るされた人型のジンジャークッキーが現れる。その音で目を覚ました食いしん坊のハウィーが、クッキーを手に取って一口齧ると、それは突然、動き出し、ハウィーを鎖で雁字搦めにして、煙突の中に引きずり込む。それに気付いたサラ達は総出になってハウィーを引っ張り、助けようと試みるが、その甲斐虚しく、ハウィーは連れ去られる。オミは再び暖炉に火を焚べると、自分達全員のせいで全員が狙われていると説き、自らが子供の頃に経験したクリスマスの陰鬱な出来事について語り聞かせる。
オミはサンタ、魔法、奇跡を信じる子供だったが、村人達は奇跡も互いの事も信じなくなっており、犠牲と寛大というクリスマスの精神も忘れられていた。それはオミの家族も例外で無く、オミは家族にクリスマスの精神を思い出させようと努力したが、かつての温かい家族には戻れない事を知り、いつしか諦めてしまった。オミはサンタと決別し、その年のクリスマスには奇跡を願わず、奇跡が消える様に願った。すると、サンタの代わりに古代の邪悪な精霊クランプスがやってきた。クランプスは与えるのでは無く奪う事で、人を罰する為に存在するサンタの陰であり、オミは家族が闇に引きずり込まれるのを、次は自分の番だと思いながらただ見ているしかなかった。ところがクランプスはオミを連れては行かず、希望やクリスマスの精神を失うと何が起こるか思い出させる、見せしめの為に、一つの鈴を残して、オミの前から去っていったのだった。
ハワードはそれがおとぎ話だと一蹴し、ハウィーを連れ戻す為に、強引に外に出ようとする。しかし、庭には数を増やした雪だるまの陰に、何体もの怪物が潜んでいる事が判明し、サラは外出を禁じる。トムは暖炉の火を絶やさぬ様に皆に促す。
25日を迎え、屋根裏に持ち込んだ、大きな袋に入っていた箱の中から不気味な音が生じ始める。トムは自らが除雪車を運転し、その後ろから皆が車に乗って、安全なところまで避難した後、応援を呼んでベスとハウィーを助ける計画を提案する。一方、スティービーとジョーダンはトイレに行く途中で、ベスの様な声に誘われ、屋根裏に向かう。
スティービーとジョーダンの悲鳴を聞き、トム、サラ、リンダが屋根裏に向かう。ハワードはキッチンで何者かの気配を察知し、確認に向かう。トム達は箱から何かが飛び出した形跡を確認し、その矢先に、オルゴールから飛び出したクラウンの怪物が、スティービー達を丸呑みにしている様を目の当たりにする。トムは拳銃でクラウンを退けるが、そこへそれぞれ天使の人形、クマのぬいぐるみ、ロボットの玩具の怪物が現れ、3人に襲いかかる。クラウンはダクトを通じて逃走を図る。リンダはクラウンが吐き出したスティービーを確保した後、トムとサラの窮地を救うが、ジョーダンは連れ去られる。一方、ハワードはキッチンで3体のクッキーの怪物に襲撃されるが、ロージーの加勢を得て、ショットガンでクッキー達を撃退する。
クラウンを撃退すべく、ロージーがダクト内に送り込まれる。クラウンは逃げ場を失い、天井を割ってリビングに落下する。そこに再び天使、クマ、ロボットの怪物が現れ、一同に襲いかかる。ショットガンを手にしたドロシーは怪物達を撃退し、クラウンに止めを刺そうとする。そこへ邪悪なエルフの集団が窓から押し入り、クラウンはドロシー、ハワード、クリッシーを屋外へ連れ去る。エルフ達は屋外から轟く咆哮と同時に去っていく。
トムは怪物達が戻ってくる前に、残った全員で除雪車に向かおうと企てる。しかし、オミはトム達を家から閉め出し、屋内に留まる。トム達はオミが怪物と対決するつもりだと悟り、除雪車に向かう。間もなく、暖炉を破ってクランプスがその禍々しい姿をオミの前に現す。クランプスは袋を取り出し、その中に入った怪物達にオミを襲わせる。
除雪車に向かう道のりで、トム、リンダ、サラがエルフ達に雪の中に引きずり込まれる。マックスはスティービーと共に除雪車に乗り込むが、エンジンはかからず、そうこうしている内にスティービーがエルフに連れ去られる。マックスが除雪車を降りると、そこにクランプスが現れ、マックスが破り捨てた手紙で包んだ鈴を置いて立ち去る。
マックスはスティービーの後を追って、クランプスが率いる怪物達の隊列と遭遇する。マックスは自分が祈った事を全て取り消す意向を示し、家族を返す様に請うと、クランプスに鈴を投げ返す。鈴が雪の中に消えるや否や、地面が割れ、地獄に通じる穴が現れる。スティービーはエルフ達に穴の傍に連行される。マックスは立ちはだかるクランプスに、自分が代わりになる事で皆を返す様に願う。クランプスは爪でマックスの涙に触れると、皆と一緒に嘲笑い、スティービーを穴の中に落とさせ、次にマックスを掴み上げる。マックスはクリスマスを楽しみたかったと弁解するが、クランプスはマックスを穴に落とす。
ベッドで眠りから覚めたマックスは、何事も無かったかの様に穏やかな25日の朝を迎える。リビングには元通りに戻った皆が集まっており、マックスは悪い夢を見ていたのだと気を取り直す。間もなく子供達はプレゼントの開封を始める。マックスが受け取った小箱からは、クランプスからの挨拶と刻まれた鈴が現れ、そこで皆は自分達に起こった真実に気付く。その光景はクランプスの所有する数多のスノーグローブの内の一つに収められており、クランプスが奪ったクリスマスの一つだと示唆される。